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「行政が責任を持つ」政治がやるべきことはここ【参議院議員 山田太郎さん・第2回】

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前回からの続き。「子ども関連の政策は関係省庁がバラバラで、縦割り行政の弊害が発生している」と語るのは、参議院議員の山田太郎さん。「こども家庭庁」を設置し、子どものことを一番に考え、縦割り行政を一元化することで、もっとたくさんの子どもたちを救えるのではないかと語ります。
山田太郎さんプロフィール画像最新版

きっかけは乳児院の視察

――山田さんは、政治家として活躍する前は、まったく別のお仕事をされていたそうですね。

山田太郎さん(以下、山田さん):製造業専門のコンサルティング企業を創業し東証マザーズに上場させた傍ら、東京工業大学大学院の特任教授や早稲田大学商学部の客員准教授、東京大学工学部の非常勤講師なども歴任。10年以上学生たちと接してきました。

――現在、「こども家庭庁」の設立に力を入れていますね。なぜ子どもの問題に注目しようと思ったのでしょうか?

山田さん:私自身、子どもがいることもありますが、児童養護施設などの現場を目の当たりにしたことが大きいです。
私が政治家になったばかりの頃、たまたま福祉政策として乳児院の視察に行ったことがありました。私が初めて見た乳児院の実態はどうだったかというと、夕方以降、15人の赤ちゃんに対してお世話をしていた保育士さんは事実上3人。本来なら3人の赤ちゃんに1人の保育士が配置基準です。なので15人の赤ちゃんには、本来なら5人の保育士さんが必要です。しかし、24時間の対応では、15人の赤ちゃんには3交代だと、のべ15人の保育士さんが対応をおこなっています。

保育士2人で15人の赤ちゃんのお世話

――1人で赤ちゃん2、3人見るだけでも大変なのに、3人で15人はどうがんばっても無理な気がします……。

山田さん:それだけ人が足りていないのです。おむつやミルクのお世話も大変です。ここでは赤ちゃんは泣いたときにもなかなか保育士さんに抱っこもしてもらえない状況でした。このような環境では、本来養育者と子どもとの間で築かれる心理的な結びつきが生まれず、愛着障害(アタッチメント障害)が起こりやすくなります。養育者と子どもが愛着を形成するということは、子どもの発達に欠かせないことなのです。

これはおかしい。そして、この現状を知らなかったことが恥ずかしかった。私はこの乳児院の見学をきっかけに子どもたちの問題に気づき、解決しなければいけないと感じたのです。もちろん、すべての乳児院がこのような状況ではないと思いますし、もっと手厚くお世話ができている乳児院もたくさんあるとは思います。そしてこの乳児院も、私が視察に行った10年前に比べて改善されてきていると思います。

一方、ある児童相談所に視察に行ったときは、非行少年と虐待を受けた子が一緒の部屋にいました。だから虐待を受けた子は、その非行少年のことを怖がって、部屋の片隅で震えているんです。
子どもたちも児童相談所の子どもたちも、しっかりと保護していかなければなりません。しかし、子どもたちにとって、決して保護されて助かったという場ではなかったのです。そのことに、衝撃を受けました。

日本の乳児院や児童養護施設で問題が起きている。もちろん問題のある施設ばかりではありません。しかし、しっかりと把握し改善していくことが大切です。

専門職員がいない&職員は数年で異動

――現場で働いている職員から声があがることはないのでしょうか?

山田さん:現場の担当者も地方公務員であって、必ずしも専門家とは限りません。全員が社会福祉の資格を持っているわけではない。しかも2~3年で次の部署に異動してしまうことも多いのです。

私はこの問題に対し、「子ども家庭福祉ソーシャルワーカーを国家資格として位置づけて、専門の職員を配置すべきだ」と何度も政府に言ってきました。検討はおこなわれましたが、実現には至っていません。

――子どもたち自身が解決できる問題ではないから、政治が動かなければいけないんですね。

山田さん:誰のせいだと責任を押し付けているだけでは問題は解決しません。虐待されたことに、少なくとも子どもたちには責任がないわけです。親にも保護してもらえない、だったら「最後は行政が責任を持つべき」だと私は思っています。政治が責任を持たなかったら、一体誰がこの問題を解決できるのでしょうか? これが私の原点です。

今、政策を担当している大人たちだって、みんな昔は、子どもだったではないですか。「なんで子ども時代のことを忘れちゃったの?」と言いたくなります。

行政支援のはざまに落ちて助けられなかった2人の女の子

――今の虐待児童の保護に関しての課題はなんでしょうか。

山田さん:2018年に東京都目黒区で当時5歳の女の子が、2019年には千葉県野田市で当時10歳の女の子が虐待により亡くなりました。2人の事件において共通するのは、引っ越す前から虐待があり、引っ越し先でその情報がしっかりと共有されていなかったということ。児童相談所や警察、学校、小児科医等多くの大人が関わっていたにもかかわらず、子どもの命を救えなかったのです。

当時は、住所を転々とする児童虐待が疑われる家族の情報や、過去の虐待の情報など、すべての児童相談所が情報を共有するためにおこなうのは、FAXによる送信という方法が使われていました。情報化時代に取り残されたような状況。現在では、転居した際の自治体間の情報共有、児童相談所と市町村における日常的な情報共有をできる仕組みを構築しています。しかし、行政だけにとどまらず、関係機関での日常的な情報共有があれば2人は死なずにすんだかもしれない。守れていたかもしれない。そう思うのです。

これまで、子どもの問題は各行政や地方自治体が担当していました。しかし行政や自治体間の連携がうまく取れていなかった結果、この2人のように行政のはざまに落ちてしまう子がいます。結果として、虐待などで亡くなる子どもたちがあとを絶ちません。この行政や自治体間のすき間を埋めて、「こども家庭庁」が司令塔となり、しっかりと子どもたちを守っていく必要があるのです。

【第3回】へ続く。

取材、文・長瀬由利子 編集・荻野実紀子 イラスト・マメ美

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