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子どもの「事故」や「いじめ」の原因は追究されないの?【参議院議員 山田太郎さん・第3回】

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前回からの続き。事故やいじめなどで、命を落としてしまった子どもたち。本来ならば、すぐに原因究明が行われ、責任の所在なども明確にすべきですが、実際はなかなか進みません。子どもたちが亡くなった場所によって担当する省庁が違うため、各所の連携が取れないことがその理由。2023年4月から発足する「こども家庭庁」では、子どもたちのまわりで起こっている事件や事故、問題などに、一元的に責任をもって解決していくことを目指しています。参議院議員で、デジタル政策、こども政策を専門とする山田太郎さんに詳しくお話を伺いました。
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亡くなった場所によって担当省庁が変わる?

――日本では、毎年多くの子どもたちが不慮の事故などで亡くなっています。亡くなった場所によって、担当する省庁が違うという話は本当ですか?

山田太郎さん(以下、山田さん):本当です。令和2年度の0~14歳の子どもの不慮の事故死は年間200件をこえますが、たとえば、子どもが学校や幼稚園で亡くなれば文部科学省、保育所で亡くなれば厚生労働省、公園で亡くなれば国土交通省の管轄になります。遊園地なら経済産業省、手すり等が絡むと消費者庁の管轄となります。国立公園内だとなんと環境省。こうやって複数の省庁をまたがるため、死亡事故などのデータが蓄積されず、全体として再発防止につながりませんでした。

2012年、当時5歳だった男の子が亡くなる事件がありました。男の子は、幼稚園でのお泊り保育の際に河原で遊んでいたところ、川に流され亡くなりました。しかしその後、約2年にわたり事故調査、原因究明、責任の所在不明がわからないまま。その間、ママは自らの子が亡くなった理由や原因を知ることができないでいました。

元気な子どもが突然亡くなるということほど、不運で仕方ない悲しい出来事ではありません。子どもを守るために事故を予防する、そのために徹底的に原因を究明する。それは大人の責任だと思います。

――なぜ2年もわからないままだったのでしょうか?

山田さん:各省庁が縦割りで動いているからです。「子どもが通っていたのは幼稚園だからこれは文科省が担当だ」文科省は「自治体の対応がすべてです」消費者庁は「川遊びは消費サービスに該当しないということで、現時点では調査をおこなわない」と、いろいろな省庁の管轄が複雑に絡み合って、責任の押し付け合いのような形になってしまいました。これが実態です。

いじめが原因で亡くなった中学2年生の女の子

――いじめに関する問題では、どのようなことがありますか?

山田さん:2021年、当時中学2年生の北海道旭川市に住む女の子が、氷点下17℃の夜に自宅を飛び出し行方不明になってしまいました。見つかったのは、約1カ月後。公園の雪の中でした。

彼女がどのような問題を抱えていたのかをしっかりと知るために、私は旭川市の教育委員会の教育長に直接会って話を聞いてきました。
当時の教育長によると子どもの重大ないじめに対処できる専門家が市にいなかったというのです。30万人以上の人口で、北海道で第2の人口規模を持つ自治体でもこんな状況です。また、いじめの問題は学校を管轄する教育委員会がやっているため、残念ながら学校の不祥事を隠蔽されてしまうこともあります。

大人の都合で子どもの「いじめ」がなかったことにされてしまう

――「身内の恥を外に出すな」的な感じでしょうか?

山田さん:そうです。教育委員会のメンバーの多くは、元教師や校長先生の知り合いなどが多いのが実態です。狭い地域で人間関係が絡み合っているため、風通しが悪くなってしまうことも……。人口が多い都市はまた違うかもしれませんが、地方にいけばいくほどいろいろな人間関係のしがらみがついてまわる可能性があります。

重大事案が起こってしまったら「地域の恥だ」と思う人もたくさんいます。だから、学校内でいじめがあり、担任や校長から報告がはいっても、教育委員会でいじめだと認定されないこともあるのです。また、経験の浅い担任の先生に全てを押し付けられ、どうしていいか分からない現場がある実態も報告されています。

――「いじめの問題の原因究明」に時間がかかる理由はなんでしょう?

山田さん:いじめがあったら、いじめられている子、いじめた子はもちろんのこと、まわりの子どもたちも含めて、環境を変えるためにも転校も含めて検討する必要があります。でも、実際はなかなか進んでいないのが現状です。

いじめなどの重大事案があったとき、教育委員会が委員会を開きますが、利害関係がなく独立した立場でそこに対処できる専門家が自治体の中にいないのです。それが対処ができなかったり、原因究明がなかなか進まなかったりする理由のひとつです。

生まれた場所によって受けられるサービスに差があってはいけない

――客観的に専門的な意見ができる人がいないと、いじめの問題が解決できないような気がします。

山田さん:日本で生まれた子どもは、どこの市区町村にいても同じ行政サービスを受けられる、ちゃんと守られるべき存在です。子どもに対する行政サービスは、社会全体で均一に維持され、誰もが等しく享受できる公共的なサービス「ユニバーサルサービス」にするべきです。生れた場所によって受けられるサービスに差があってはなりません。

――なぜ今、日本の子どもに対する行政サービスはユニバーサルサービスではないのでしょうか。

山田さん:子どもにかける予算が国全体ですごく少ないからです。永田町の政治家から見たら、これまで子どもの問題はそれほど興味関心を持たれていませんでした。

子どもたちが安全に過ごせるためにも、子どもたちを安全に守るためにも、複数の省庁をまたぐのではなく、子どものことに責任をもって取り組む省庁が必要です。

そこで2023年4月から総理大臣が責任者となる「こども家庭庁」を新設します。現在では、「こども家庭庁」で子どもの死因究明に取り組むことが決まっています。「こども家庭庁」が各省庁と連携を図り、推進していくことが大切だと考えています。

【第4回】へ続く。

取材、文・長瀬由利子 編集・荻野実紀子 イラスト・マメ美

「こども家庭庁」に届けたいご意見・ご要望など聞かせてもらえますか?

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