山積みの子ども問題。「子どもの命を守ること」が最優先【参議院議員 山田太郎さん・第4回】
前回からの続き。「これまで議論が進まなかった里親問題や特別養子縁組制度について、きちんと制度を整理すべき」と語るのは、参議院議員の山田太郎さん。2023年4月から発足する「こども家庭庁」では、里親問題や特別養子縁組制度はどのように取り組んでいくのでしょうか。
日本では、親の病気や、虐待、離婚などの問題で、親元を離れて乳児院や児童養護施設など施設に預けられている子どもたちが約4万5,000人います。
子どもたちを安全であたたかい家庭環境で育てるための制度として里親制度や特別養子縁組制度があるものの、なかなか進んでいないのが現状。参議院議員の山田太郎さんは「里親制度や特別養子縁組制度について、他人事にするのではなく、子どもたちを育てることは社会全体の問題だとして一人ひとりに考えてほしい」また、「乳児院に預けられている赤ちゃんは、最初に覚える言葉は、ママでもパパでもありません。保育士さんはママでもパパでもないからです。そして、複数の赤ちゃんが預けられている乳児院では、ギュッと抱きしめられ、親から受けるのと同じだけの愛情を受けることはなかなか難しい」と語ります。だから「どんな子も、乳児期には、家庭又は、家庭的養護によって、養父母が代わって大切に乳児を育てる時期があっていいはず」だと。
特別養子縁組制度、里親制度はなぜ進まないのか
――日本には特別養子縁組制度や里親制度があるものの、なかなか進んでいないようです。なぜでしょうか?
山田太郎さん(以下、山田さん):保護する対象となる子ども(要保護児童)の多くには実親がいます。日本は親権が強く、「今は育てられないけど、いつか迎えにいくから施設に置いてほしい」という親権を持つ実親の気持ちが優先されます。一方、施設に入れたまま何年も面会に来ず、実親がまったく子どもとの関わりがない状態の場合もあります。しかし、施設や関係者が養子になる方がその子のために望ましいと判断しても、実親が同意しなければ、里親や特別養子縁組は進みません。そのため、それぞれの制度があっても普及が進みません。
一方、里親制度や特別養子縁組制度の普及やそれらの養父母の資格等の制度設計の議論、そしてそれらの人もお金もかけてこなかった。だから特別養子縁組制度や里親制度がなかなか進まないのです。
子どもが中心に据えられた法律「こども基本法」制定
――どうやったら子どもたちを守れますか?
山田さん:2023年4月から「こども家庭庁」が発足します。これに合わせて、子ども中心に据えられた法律「こども基本法」をつくりました。親の都合を優先するのではなく、子どもの権利を守り、常に子どもの最善の利益を第一に考え、こどもまんなか社会を強力に進めていくための法律です。子どもの権利を重んじ、子ども中心の児童養護のあり方、そして里親や特別養子縁組制度などの理解を社会全体で深めていくことが重要です。
乳児院……低年齢児(原則として1歳未満)を入所させて養育する施設。
児童養護施設……虐待や貧困などの理由で親の養育が難しいと判断された子どもたちが生活する場所。1歳から18 歳まで(20歳未満までの措置延長可)。
特別養子縁組制度……養子となる子どもと生みの親との法的な親子関係を解消し、実の子と同じ親子関係を結ぶ制度(15歳未満)。
普通養子縁組制度……戸籍上において養親とともに実親が並記される。法律上、実親との関係が残る縁組(養親より年長でないもの)。
里親制度……さまざまな事情で家族と離れて暮らす子どもを自分の家庭に迎え入れ、養育する制度(原則18歳未満)。
赤ちゃんだけではなく、身寄りのない妊婦も守る
――予期せぬ妊娠、出産をする女性もいますよね。
山田さん:熊本県にある慈恵病院では、諸事情があって育てることができないママや養育者から匿名で赤ちゃんを預かる「赤ちゃんポスト」をおこなっています。「赤ちゃんポストがあると、無責任に子どもを産む親が増える」との批判もあり、さまざまな意見があるでしょう。
しかし、赤ちゃんポストに預けにきた人は、現実には本当に自らが生きるのに精いっぱいという人がいます。そこには、1人でどうしようもできなかった背景があるのです。長年、困難を抱える妊産婦の支援に関わってきた院長によると、遺棄・殺人、赤ちゃんポスト、内密出産の女性たち9割以上に①被虐待歴、②境界領域の発達障害、③境界領域の知的障害、④家族との関係が良くない。特に母親との関係が良くない。親が離婚して母親が行方不明、母親が死亡などの経験があると言います。
私は「子どもの命を守ること」を最優先に考えるべきだと考えています。一方課題も多くあります。預けられた子の出自の情報を一民間病院にすべて委ねてしまうのではなくて、諸外国のように養子縁組記録(児童相談所や民間あっせん事業者が持つ個々の記録や、裁判所の調査報告書、審判書、児童養護施設でのケース記録など)を中央機関(こども家庭庁の様な国の機関)が一元的に管理する必要があります。生みの親の情報や縁組の経緯などを知ることは、子ども本人が自らの出自を知る権利を保障するためにも、非常に重要なことだからです。
産前産後のケアを充実させて、困難を抱えるママやパパを孤立させないこともこども家庭庁の大きなテーマです。
今、子どもに関して解決しなければいけない問題は山積みです。こども家庭庁がスタートしても、すぐに解決できる問題ばかりではないかもしれない。しかし、ひとつずつ確実に解決していきます。これらの問題を他人事と思わず、一人ひとりが関心を持って考えていけたらと思います。
取材、文・長瀬由利子 編集・荻野実紀子 イラスト・マメ美
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