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「児童虐待はどうしたら防げる?」保護者とともに地域ができること【熊谷俊人千葉県知事・第2回】

熊谷俊人千葉県知事_インタビュー記事02
前回からの続き。「子どもの虐待ニュースでは保護者だけが責められがち。だけどそれでは何も変わらない」と語るのは、熊谷俊人千葉県知事。さらに「子どもの虐待は誰にでも起こりうる」と言います。では「子どもの虐待」について、千葉県ではどのような取り組みを行っているのでしょうか? 熊谷千葉県知事に詳しく伺いました。
熊谷千葉県知事プロフィール

「子どもは地域の宝」として地域全体で支える

――今、千葉県では「千葉県子ども・子育て支援プラン2020」に力を入れて取り組んでいるそうですね。これはどういったものですか?

熊谷俊人千葉県知事(以下、熊谷知事):まず大切にしたいのは「子どもは地域の宝であり、すべての子どもと子育て家庭を地域のみんなで支える」という意識です。これを実現するために、次の3つの基本的視点を大切にしています。

1つ目は、「子ども一人ひとりの権利の尊重」。子どもを中心に考えることです。
2つ目は、「すべての子どもと子育て家庭を支援」。子どもを育てている家庭には、シングルのママやパパが1人で頑張っている家庭もあれば、残念ながら虐待をしてしまっている家庭もあるでしょう。千葉県では、すべての家庭を支援していきます。
3つ目は「地域全体で支える子育て」。子育てというと、子どもと保護者だけがやるものと思う人もいるかもしれません。しかし千葉県では、子どもや保護者と関わる地域の人たちみんなで子育てをサポートしていこうと考えています。

この3つの基本的視点のもと、子育て政策を作っています。

ママやパパの孤立化を防ぐことが大切

――地域の人たちとの交流は、子どもはもちろんのこと、ママやパパの孤立化を防ぐことにもつながるので大切ですね。

熊谷知事:子どもの教育や保育の充実は、当然、私たち行政がやらなければいけないことです。同時に、児童虐待の防止対策として「親への支援」も大事だと考えています。たとえば、仕事が忙しすぎてワークライフバランスを崩してしまっている保護者の方もいます。そういった方をどうやってサポートしていくのか、などです。

――具体的にやっている取り組みなどはありますか?

熊谷知事:ワークライフバランスを重視している企業を表彰して、ママやパパが働きやすい環境を整える。子育て中の保護者を支援するためには、その雇い主となる企業側へのアプローチを行っていくことも大事だと考えています。子どもを育てるためにはお金が必要なので、仕事をがんばる人も多いでしょう。しかし仕事をがんばりすぎたために、体を壊して倒れてしまったら、それこそ子育ても大変になってしまいます。そうならないためにも、我々ができることはなにかを、しっかりと考える必要があります。

子どもの虐待は誰にでも起こりうる

――子育ての大変さから、子どもを虐待してしまう保護者の方もいます。

熊谷知事:児童虐待についての発信は、じゅうぶん気をつける必要があると感じます。というのも児童虐待の事案は、保護者を責める報道になりがちです。でも、虐待したい親なんていないんです。
高齢世代の方のなかには「私たちの時代は、虐待なんてなかった」という方もいます。でも、当時は虐待だと思われていなかっただけで、今と変わらないようなこともあったと思うのです。そう考えると、「虐待=保護者が悪い」とも言い切れないんじゃないかと思います。

「虐待は、誰にでも起こりうることなんだ」と考えて、そのうえで「じゃあ、地域社会はどうしたら虐待してしまう親を守れるのか。虐待されている子どもを守ってあげられるのか。どうサポートすればいいのか」という視点で考えることが必要です。

児童相談所を信頼して、積極的に活用して

――千葉県では、虐待をしないためにどのような対策を考えていますか?

熊谷知事:育児に奮闘するママやパパたちには、児童相談所をもっと活用してほしいと伝えたいです。またマスコミの方には、虐待事件のときだけ児童相談所の対応などを取り上げるのではなく、普段から児童相談所が保護者の方たちとどんな交流をしているのかを取り上げてほしいと思います。

報道の内容が変われば、児童相談所へのイメージも変わり、育児で困ったときにママやパパも相談しやすいと思います。そうなれば、虐待してしまう前に改善できることがたくさんあるはずです。

――子どもに障害があるママやパパも、支援が必要ですよね。

熊谷知事:障害のあるお子さんを育てているママやパパも、積極的に児童相談所を活用してほしいですね。専門のスタッフがいるので、行政のサポートにつなげることもできます。子どもを虐待してしまう前に、まずは児童相談所や関係機関に相談をしてほしいということを、私は一生懸命伝えていきたいです。その前段階として、妊婦健診からはじまり、子どもの6か月健診、1歳半健診、3歳児健診などを通して、支援が必要な家庭を行政につなげていくことが大切だと考えています。

子どもは社会全体で育てていくべき

――妊娠したときから支援があると、気持ちが不安定になりがちな出産までの間や、産後も心が安定しやすくなりますね。

熊谷知事:「誰も助けてくれない」と感じている妊婦さんは、実際に何人もいます。私たちは千葉県のホームページや「ちば県民だより」などから情報を発信していますが、それもアクセスをしてもらわないと、届けられないですよね。だから行政もSNSを使って積極的に情報発信していく必要があります。

私は、「子どもを産んだら、子どもがひとり立ちするまで家族が面倒をみなければならない」というのは違うかなと思います。ママとパパが面倒をみてあげられればベストですが、実際には病気や収入の問題で子育てが難しい家庭もあるでしょう。虐待してしまうくらいツライ状態なのであれば、いったん子どもを安全なところに預けて、守ってあげることも必要です。一時的に里親さんに預け、1~2年して状況が改善したら迎えに行くこともできます。それは悪いことではないですし、誰かに責められるようなことでもないのです。子どもを守りながら、同時にママやパパ自身も心身や経済状況の回復を図れるはずです。

行政としても、もっと子育て中のママやパパたちと積極的に話して、どんな支援が求められているのかを知る必要があります。今の支援で改善してほしいところがあれば意見を聞き、政策に取り入れていきたいと思います。

【第3回】へ続く。

取材、文・長瀬由利子 編集・荻野実紀子 イラスト・Ponko

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