子どもにスマホや動画を見せるときの注意点を発達心理学の専門家に聞く
子どもにスマホで動画を見せることも珍しくなってきた現代の子育て環境。公共空間で子どもが騒いでどうしようもないときや家事などで目が離せないときなどには、サッとスマホを与えたり動画を見せたりするママは少なくないのではないでしょうか。
アサヒ飲料が、「『アサヒ 十六茶』子育てサポート事業」の一環として子ども向け見守り動画チャンネル“十六CH”をYouTubeで開設しています。これは十六茶に含まれる16素材がキャラクターとなり、クイズや歌、工作など教育につながるさまざまなストーリーを展開したもの。子どもが楽しく、前向きに学ぶ姿勢や創造性を育むきっかけが作れる内容になっています。企画監修には脳科学者・茂木健一郎さんをはじめ、心理学や育児の専門家が参加しました。
企画監修者の1人で、発達心理学を専門とする法政大学の渡辺弥生教授に、スマホ育児や子どもに動画を見せることについての疑問をいろいろと聞いてみました。
動画やスマホは親子のコミュニケーションの道具だと捉えて
――まず先生も監修された「十六CH」の動画はどのような点が子どもにとっていいのでしょうか。
渡辺弥生教授(以下、渡辺):子どもは生まれて放っておいたらすくすく育つわけではなく、誰かが世話をして自立させ、社会に出る人間に育てなければいけません。その“育てる”機能をどういう動画コンテンツなら果たせるのかを考えて監修しました。物事を記憶したり知識を学んだりするだけでなく、人と関わることや粘り強さ、気分の切り替えといったことを子どもに教えるためにアシストできるような内容になっていると思います。
また今のお父さんやお母さんのなかには「子どもとどう遊んだらいいかわからない」という方もいます。「十六CH」の動画はゆったりとしたスピード感になっているだけでなく、果物の皮をむいたり箸であずきを掴んだりと、親子で遊びを見つけやすいアイデアも豊富に取り入れられています。動画を見ている間は親子が会話をしながらコミュニケーションを取りやすく、さらに観た動画で知った遊びを実際の生活に取り入れられる内容になっていると思います。ぜひ、親子で一緒に観てほしいですね。
――今回監修されたものに限らず、子どもに動画全般を見せる上で大事なことは何でしょうか。
渡辺:実は医学的にも心理学的にもスマホ育児や動画視聴による子どものへの悪影響のエビデンスはなく、また研究も難しいのが現状です。ただ明らかに暴力や残忍な描写がある動画を見せる、親子のコミュニケーションもなく長時間なにもできないほど見せる、といったバランス感の欠如したやり方はよくないでしょう。また勉強をさせようと思って知育系の動画ばかり見せるのも、子どもは疲れてしまって面白みがないと思います。
大事なことは、親自身が「これは見せたいな」と思うものを見て判断した上で子どもに見せること。そしてスマホでもテレビでもタブレットでも、そのツールの特性が生きるコンテンツがあることや、子どもの教育において動画が手助けできる場合もあることを理解することではないでしょうか。私たちも小さい頃はアニメでいろいろなことを学びましたよね。親が「世の中はこうなんだよ」「大人はこういうことをするんだよ」と口で説明するには限界がありますが、同じ内容を動画で見ることで子どもが理解しやすくなることはたくさんあります。「絶対にスマホは与えない!」「動画は見せない!」と極端な考えになる必要はなく、さまざまなメリットやデメリットを考えた上でスマホ育児や動画視聴を柔軟に捉えてほしいと思います。
子ども自身や家族が写る写真や動画は見ても大丈夫?
――私はアニメやYouTube動画を見せることには罪悪感を持ちがちな一方で、子ども自身や家族が映る写真や映像を見せることがあります。これは発達心理学的にはどうなのでしょうか。
渡辺:人間はだいたい1歳半くらいから鏡を見て、自分の顔を認識できるようになり、2歳くらいから映像や写真でも「こないだの運動会のときの僕だ」と時間軸と一緒に自分を認識できるようになります。これは当たり前のようで、発達心理学的には不思議ですごい力なのです。そして5歳くらいになると親から「これは幼稚園の頃のあなたよ」と映像を見せられたときに、「あの頃はこんなにはしゃいでいたのか。今の自分とは違うな」と、今の自分と過去の自分を比較できるようになります。
こうしたことを考えると、自分が映る映像を見せることは学びの機会にもなりますし、親子のコミュニケーションにもなるのでいいことだと思います。過去を振り返ったり未来を考えたりと時間軸を理解することは、人間にとって大事な認識能力です。スマホで子どもの写った写真や動画を、思い出を親子で一緒に振り返るように見せるのは、とてもいいことではないでしょうか。
――スマホや動画を何時間も見せて放置することは論外ですが、かと言って「絶対にダメ!」と意固地になりすぎる必要もないということですね。
渡辺:スマホや動画に関することに限らず、育児とは親がどう子どものことを考えてあげるかが重要だと思います。完璧な育児は誰にもわからないので悩むのは当たり前。「これは大丈夫かな?」と親が考えながら、子どもに見せるものを選ぶこと自体がとても大事な過程です。極端な考えをもってイライラしたり「みんなこうやってるから」「こうしたほうがいいと聞いたから」といった他人任せとも言えるやり方をしたりするほうが問題。親がイライラすれば子どもにも伝染してしまいます。いかに余裕のある状態で子どものことを考えてあげるかを改めて大事にしてほしいと思います。
親がスマホばかりいじっていると子どもは……
――スマホに関しては、今は子どもよりも親のほうがスマホに依存しているケースも少なくないかと思います。親がスマホをいじってばかりいることで、子どもにはどのような影響があると思いますか?
渡辺:大人もそうですが、子どもは自分に関心を寄せてほしいもの。まず最愛の親が自分よりもスマホに注意を向けていることで「自分には関心がないんだ」と自分の存在感を薄く感じ、親からの愛情を感じにくくなるかもしれないと思います。
また感情の発育という点でも心配です。子どもは、快と不快しか感じられずただ泣くしかなかった赤ちゃんを経て、親から「悲しかったんだね」と言葉でフォローしてもらうようになることで、「これは悲しいことのか」「オモチャを取られたから悲しかったんだ」と体験に言葉を後付けして理解できるようになります。そしてそれらが繰り返されていくうちに、感情を自分から表現したり言葉で伝えたりできるようになっていきます。また人間が感情を理解する上では表情以上に、声や話し方、仕草も重要。大人が子どもにしっかりと顔を向け、仕草や声のトーンを使うことで感情を教えることができるのです。
しかし親がしかめっ面でスマホばかり見ている状態では、このように感情を育てるために良い環境とは言えません。「親が表情豊かだと子どもも表情豊かになる」ともよく言われますから、子どもの感情を育て愛情を伝えたいのであればスマホばかり見ずに子どもとしっかり向き合ってほしいと思います。
スマホや動画に対して極端な考えになる必要はない
スマホや動画を育児にどう取り入れるかは、現代の親なら誰もが悩むポイントでしょう。しかし渡辺先生のお話を聞いていると、子どもを見守らずスマホに夢中になっていたり長時間動画を見させ続けたりしなければ、「スマホは悪!」「動画はダメ!」と極端な考えになる必要はないことがわかります。コロナ禍で外遊びや外出がなかなかできない今だからこそ、親子ともにスマホや動画と上手に付き合う習慣をつける契機としてはいかがでしょうか。
取材、文・AKI 編集・しらたまよ