子どもの幸せを科学的に分析する「ウェルビーイング」活動とは?【衆議院議員・下村博文】
AIが普及してきて、これから10〜20年後は今ある職業の半分がAIに置き換わるといわれています。「子どもたちが成長して社会にでたときに必要な能力を身につけるためにも、どのような教育をしたらいいのか、考えなければいけない」と話すのは、元文部科学大臣と教育再生担当大臣を兼任した下村博文先生。詳しく伺いました。
10年後、職業の約半数がAIに置き換えに。これから先求められる教育は?
子どもの頃、大人になったらどんな仕事をしたいかという話をすることがあります。今だったらパティシエ、幼稚園の先生、サッカーや野球の選手などが人気かもしれませんね。子どもたちが大きくなったとき、実際に就く職業はこれとは大きく変わってくるかもしれません。というのも、今ある職業の約半数がAIなどによって置き換えることが可能だと言われています。これまでのように暗記記憶型の教育を行う必要がなくなってきているのです。これからの教育に必要なのは、AIに負けない能力です。
「教育」の役割は子ども自身の力を引き出すこと
ところで、教育、エデュケーションの語源について知っていますか? 元はギリシャ語で「引き出す」を意味します。しかし「教育」は教え育てると書きますよね。当時の日本では、エデュケーションに当たる言葉が見当たらなかったため「教育」という言葉に置き換えましたが、本来は「啓育」という言葉のほうが適切でしょう。教育とは、教え育てるのではなく、本来その人が持っている能力を引き出すことが大切です。そもそも何のために経済成長する必要があるのかといえば、人が幸せに生きるためです。教育は、人が幸せになるために行われるものであるはずです。にもかかわらず、このコンセプトが社会で共有できていないというふうに私は思っています。
経済的豊かさだけではなく、心から幸せを実感するために必要なことは?
今の日本の教育というのは、明治時代にできたものを基礎としています。明治時代は西洋に追いつけ、追い越せで、幸せを計るものとしてGDP(国内総生産)を上げることで国民一人ひとりの生活が豊かになり、それによってみんなが幸せになると考えていたのです。
しかし、今の時代、経済的な豊かさだけでは幸せを実感しにくくなってきています。「じゃあ、どんなことで幸せは測れるの?」といったときに注目を集めているのが「Well―being(ウェルビーイング)」(幸福学)というものです。
人生100年時代。健康で幸せに暮らすことが目的
「ウェルビーイング」といっても、多くのママからしたら「なにそれ?」という感じではないでしょうか。「ウェルビーイング」とは、経済成長も大切にしながら、一人ひとりの国民が夢や目的を持ち幸福感を感じることで国全体の発展につなげようとするものです。幸福の基盤として、長寿、健康、子育てなど7つの分野に相乗効果を期待し、政策の実現を目指しています。
幸福度を科学的に分析する「ウェルビーイング」って?
具体的には、道徳などの時間にこの「ウェルビーイング」を取り入れることで、子どもたちと一緒に「幸せ」について科学的な視点から考えていこうというものです。今後、私が責任者として「日本Well―being計画」を推進していきます。現在はAIなどの発展もあり、これまでの暗記型教育を行う必要がなくなってきています。さきほどもお話しましたが、子どもたちが大きくなったときは、今ある仕事の半数の職業がなくなるといわれています。AIの時代でも必要となる能力を、子どもたちは身につける必要があります。そのためにも、今後どのような教育が必要なのか、より真剣に考えていく必要があります。
経済的な豊かさとともに福祉活動にも注目すべき
また、忘れてはいけないのは、福祉の問題です。年をとっても、男性でも女性でも、若い人でも、障害者でも、どんなハンディキャップがあっても、一人ひとりが人間として生きていて役にたちたいと思っているわけです。自分一人が幸せであればいいと思っているわけではありません。自分という存在が家族のために、地域のために、社会のために、国のために、そして人類のために役に立つことができ、居場所があって、認められていて、イキイキと暮らすことができることが大切です。私が思うに、今までの日本や世界のビジョンには、この福祉という視点が十分ではなかったと思います。
子どもたちのやりたいことを見つけるのが教育の本質
これからの日本は、教育によって国を作る教育立国ではなく、「啓育立国(けいいくりっこく)」というふうに言葉を変える必要があります。そのためのキーワードは「志」です。つまり、国が「これをやりなさい」という価値を押し付けるのではなく、一人ひとりがやりたいことは何なのかということを見つけることが大切です。
「私は花屋さんになって、美しい花を通じて多くの人たちに、その美しさの感動やゆったりした気持ちを提供したい」という子がいるかもしれません。このようにやりたいことが見つかった子どもたちは、ぐんぐん伸びていきます。今、自分のやりたいことを見つけるために日々努力している若い人たちがたくさんいることを実感しています。彼らに光があたる環境を作っていったら日本はもっとよくなるだろうと思っています。そのためには、今ここにいる私たち大人が教育について考え、変えていくことが必要なのではないでしょうか。
取材、文・長瀬由利子 編集・山内ウェンディ