「幸福学」を教育に取り入れると子どもの学びの質が高まる理由とは
「感謝すると幸せになる」という話、聞いたことありますか? これを科学的に証明したのが「幸福学」です。「幸福学」を教育に取り入れると、子どもたちがイキイキと学び、授業でも積極的に発言するなどの良い効果が現れるといいます。実際に「幸福学」を取り入れた倫理学(道徳)の授業を実施している慶應義塾大学大学院の前野隆司先生に伺いました。
子どもが幸せを感じる「4つの因子」とは?
幸せについて科学的に分析する学問を「幸福学」といいます。人が幸せを感じる因子は、大きく4つの要素に分けられることがわかりました。1つ目は「自己実現と成長」。2つ目は「つながりと感謝」、3つ目は「前向きと楽観」、4つ目は「独立と自分らしさ」です。
どんな小さなことでもいいから「やってみよう」、誰かを喜ばせ感謝されることで感じられる「ありがとう」、悲観的ではなく楽観的に考える「なんとかなる」、自分らしさを持つ「ありのままに」。この4つの要素がバランスよく満たされると、人は幸せを感じやすくなるのです。
幸福学を用いた授業を実施
今、大学の倫理教育や「現代幸福論」という授業で「幸福学」を教えています。子どもたちの学びを高めるために、ある小中学校に赴いて「幸福になるための4つの因子」を総合的学習の時間に教えています。
たとえば「人には優しくしなさい」と教えることがあると思います。そんなとき、「幸福学」を取り入れた教育では、ITや数字などを取り入れながら、「幸せな人は創造性が3倍になります」などというデータも活用していきます。
今までの道徳は「いい人になりましょう。理由はないけど昔から言われているから」という授業のスタイル。それに対して「幸福学」は科学の観点から伝えることで、子どもたちがポジティブな考え方になる、未来型の道徳といってもいいでしょう。
今後はアクティブラーニングを取り入れた「未来型道徳」を実施したい
幸福学を通して子どもたちには「人には優しくしなさい」ではなく、「人に優しくすると、より幸せになるよ」「仲良くするほうが幸せを感じられるよ」と伝えるようにしています。一見、少し言葉の言い回しを変えたくらいにしか思われないかもしれませんが、「その行動をすることによって、どうなるのか」ということが理解できると、子どもは動きやすくなるのです。この「幸福学」を取り入れた教育を私は「未来型道徳」と呼んでいます。
2018年、「道徳」の授業はアクティブラーニングを取り入れるなど、改革が進んでいます。これから数年かけて、主体的で対話的な深い学びを重視するものへと変わっていきます。そこへさらに「幸福学」を用いた「未来型道徳」を導入し、「道徳にサイエンスを取り入れましょう」ということを始めたいと考えているのです。
「幸せの4つの因子」を取り入れたらクラスの団結力がアップ
「幸福学を取り入れた未来型道徳を実施すると、どうなるの?」という質問をよく受けます。一言でいうと、子どもがイキイキしていきます。一番効果的だったのは、クラスの団結力が高まったことです。
とある学校では担任の先生と一緒に生徒が幸福学の「4つの因子」(やってみよう・ありがとう・なんとかなる・あなたらしく)について学ぶ授業を取り入れたことで、お互いを応援し合い、励ましあい、それによって団結力が高まりました。クラスが一体化すると授業もうまくいき、授業中も「はい!」と手を上げる子が多くなるほど、授業に前向きな子が増えていきます。そして生徒のボランティアスピリッツ(見返りを求めずに相手のために何かをする精神)も高まります。もちろん、積極性や理解度も高まるでしょう。子供達が「幸せだ!」と思っているクラスと「こんなクラスは嫌だ……」と思っているクラスでは、学びの質が違ってくるのです。
今、私は「幸福学」を教育の中に取り入れる取り組みを、各地の小学校で実施しています。学校から声をかけていただくこともあれば、PTAの方からご依頼をいただくこともあります。10年後、「幸福学」を多くの学校の授業に取り入れて、子どもたちの学びの質を高められるよう、今後もできることからやっていきます。
取材、文・長瀬由利子 編集・北川麻耶