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「幸せ」が科学で解明できるって本当?子育て期にこそ取り入れたい「幸福学」とは

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「幸福学」という言葉を聞いたことはありますか? 「幸福学」とは、人が幸せを感じる仕組みを心理学や統計学を用いて科学的に研究する学問です。子育ての中に「幸福学」を取り入れると、親も子も幸せになる子育てができるといいます。慶應義塾大学大学院で幸福学の研究を行う前野隆司先生に伺いました。

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「幸福学」ってどんなもの?

あなたはどんなときに幸せを感じますか? 子どもが笑ったとき? それとも家族で穏やかに過ごせたとき? 「幸せ」については心理学や哲学でも語られていますが、私が研究している「幸福学」は、心理学・医学・経済学・経営学・工学など、あらゆる面からアプローチするものです。

これまで「幸せ」というのは、100人いたら100通りの幸せがあり、科学的に解明できるものではないと思われていました。アメリカの心理学者であるエド・ディーナー先生が、幸せを測るアンケートを開発したり、何が幸せに影響するかを明らかにする学問を作ったことから、「幸福学」(well-being study)は広く世間に知られるようになりました。

謙虚な日本人は幸福度が低くなりがち

心理学では、アンケートで幸せかどうかを調べた結果が高ければ幸せ、低ければ不幸せと考えます。哲学は、本当の幸せとは何だろうと考え抜く学問ですが、幸福学は「多くの人のアンケートの結果が高ければ、幸せだと考えましょう」と、心理学的、統計学的に考えてみます。

ただし、アンケートには課題があります。たとえば、日本人は謙虚なので、アンケートに低めに回答してしまう傾向があるのです。とても幸せな場合も「まあまあです」とか「普通です」と答えてしまう。そのため、毎年行われている世界幸福度調査の結果、日本人の幸福度は先進国中最も低い値が出てしまいます。「日本人は先進国の中で一番不幸」なのか「日本人は先進国の中で一番謙虚」なのか、区別がつきません。実際は、両方の重ね合わせだと思います。また、「低いからいけない」と思うのか、「自分はまだまだだ」と思うのかでは、全然違いますよね。「まだまだだ」ということは「伸びしろがある」ということでもあるので、成長できる幅が大きいと考えることもできるんです。

「幸せ」と「年収」は比例する?

「幸せ」には、2つあります。1つはカネ・モノ・地位など、他人との比較で満足を得られる短期的な幸せ。「地位財」による幸せです。もう1つは自由や自主性・愛情など、形がない心的要因による長期的な幸せ。「非地位財」による幸せです。

地位財型の幸せの研究として、年収と幸せの関係についての研究が進んでいます。カーネマンの研究によると、アメリカ人の場合、幸せと年収は年収約7万5000ドル(約800万円)までは比例するという結果が出ています。しかし、それ以上の収入になると比例関係はなくなります。
人によって、年収400万円で満足する人もいれば、2000万あってやっと満足する人もいますよね。

一方、長期的な幸せは、環境や健康に対する幸せのほかに「心の要因による幸せ」が大きく関係しています。心は実態がないので判断しづらいですが、私は日本人1500人を対象にしたアンケートで、この長期的な幸せに関する要因を分析しました。
それによると、人が幸せになるためのカギは「4つの因子」に分けることができたのです。この4つの因子が満たされれば、私たちは幸せを感じられることが、科学的に判明しました。

子育て期にこそ活用したい「幸せの4つの因子」とは?

人が幸せを感じるとき、「4つの因子」が関係しています。この「4つの因子」を子育てに活用すれば、ママも子どもも、今よりもっと幸せを感じられるようになるでしょう。

1「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子)

どんな小さなことでもいいので、自分や子どもが興味のあることを見つけて挑戦してみましょう。ママ自身の強みや子どもの強みがわかり、それを通じて自己実現できたり達成感を得たりすると、幸福度は高まります。

2「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)

友達や家族とのつながりを大切にし、感謝したり、親切にしたりすると、人とのつながりによって幸せを感じることができます。年齢・性別・国籍などを超えて、幅広い人間関係を築けると、より幸せを実感しやすいといえます。

3「なんとかなる!」因子(前向きと楽観の因子)

子育てをしているとき、つい「できなかったこと」ばかりに目がいってしまいませんか? そんなときは、「なんとかなる」と楽観的に考えてみましょう。「なんで自分はできないのだろう」と考えるのではなく、「できたことに目を向けて自分を褒める」。視点をポジティブにするだけで、心の満足度は高まります。

4「ありのままに!」因子(独立と自分らしさの因子)

「○○ちゃんのママはできているのに、自分はできない」「もっとお金があったらいい環境で子育てできるのに」など、つい他人と比べて落ち込むことはありませんか? 他人と自分を比べたり、他人や環境のせいにするのをやめると、自分らしく生きられるようになります。

最近の研究によると、「子どもが生まれてから子どもが大きくなるまでの“子育て期”は幸福度の平均値が低い」ことが分かっています。あどけない子どもとママ、パパがともにいる姿は一見幸せの象徴のようですが、見た目よりも子育ては大変ですよね。実際は子育て期に感じる幸福度は低く、子どもが成長して巣立っていくと幸福度は高くなるというショッキングな研究結果が出ているのです。

幸福度が低くなりがちな子育て期でも、「幸せの4つの因子」を意識した子育てや生活をすれば、幸せな子育て期を実感できるようになります。ママもパパも大変ですが、「幸福学」を取り入れて、子育てや家族との暮らしを楽しんでほしいと思います。

取材、文・間野由利子 編集・北川麻耶

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