出すべきか出さぬべきか、それが問題。おならルール、我が家の場合
遥か遥か遠い昔高校生だったころに、私は、「長年夫婦をしているが、お互いのおならの音を聞いたことがない」という大物芸能人夫婦の逸話を聞いて、「いつまでも初々しさを忘れない夫婦って、ステキ! 自分も結婚するならこういう夫婦になりたい!」と思っていたのですが……。
四六時中一緒にいる相手におならの音を聞かせない生活って、すごくムズカシイのだと大人になって気がつくのです。いやだって、モヨオしたらトイレに行けばいいという説もありますが、体調によりけりで、意図せずともつい出てしまうことだってあるじゃありませんか。意図していない不意打ちのおならの場合、普段聞きなれないパートナーの無粋な音を聞いて、正直反応に困りませんか?
私達夫婦は、お付き合いの期間も含めて今年で15年目です。付き合って早々に当時独り暮らしのワンルームに転がり込んできた実家暮らしだった夫。付き合い始めてから今まで、ほぼ毎日顔を合わせています。ですから、不意打ちのおならで気まずい思いをしないように、我が家では独自のルールが敷かれています。
きっかけは夫の一言
夫が一緒に住むことになり、独り暮らしの気軽さゆえおなら事情に関しては無法地帯だった生活が一転、二人暮らしになり、彼氏とは言え赤の他人が常に家にいるということが、生理現象に対しては想像以上にストレスがかかります。実家では「家族のおならは基本的にスルー」が暗黙の了解だった私は、他人におならの音を聞かれることが恥ずかしく、夫と一緒にテレビを見ていても、おならがしたくなるとこっそりトイレへ立ち、トイレでおならをするのです。
ただ、ここでも油断は禁物。ワンルームマンションのトイレは居室への距離が近いことから、音漏れの可能性が大。アラフォーでもアラサーでもない当時の若い私には、彼氏におならの音を聞かれるなど、死刑宣告に等しいのです。音漏れしないように、静かに静かにコトを果たすのです。
夫婦生活は、お互いの育ってきた環境の擦り合わせの連続。
その日もお互い無事仕事が終わり、帰宅後恒例の晩酌中。付き合いたてのバカップル全開の会話が飛び交います。現代のように、スマホで録画されたこの頃の動画がもし残っていたら、恥ずかしさのあまりに自ら穴を掘って入り込み、一生出てきたくなくなるようなラブラブトークです。
そんな雰囲気の中、床にあぐらをかいていた彼が、おもむろにお尻を片方上げた次の瞬間、
「ぶっっ」
豪快な音を響き渡らせたのです。
甘い雰囲気から一転、「家族のおならは基本的にスルー」で育った私は軽いパニックに襲われます。
えーと、えーと、どないしたらえぇねやろ……。
恐らく動揺というよりは真顔で固まっていただろう私に、少し恥ずかしそうに頬を赤らめた彼が言いました。
「ちょー、返事してぇな。」
はい?
「今呼んだんやし、返事してぇな。」
おならで、ワタクシを呼んだ、と。
「は、はぁい?」
それでよし、とばかりに満足げにうなずいた彼は、そのまま何事もなかったかのように会話の続きを再開したのです。
あ、我慢しなくていいのか。
言うてしまえばたかがおならです。単なる生理現象です。健康な人間なら、一日平均14~15回のおならをするといいます。常に一緒にいたいラブラブカップルなら、相手のおならに遭遇するのは必然です。公共の場や食事中ならいざ知らず、おならの度にトイレに立つのにも限界があるというものです。
彼の言葉で楽になった私は、我慢を止めました。とはいえおならが「何となくタブー」な家庭で育った私は、おならでトイレに立つことはやめたものの、長年培われた習慣は変えにくいもの。その場で音なしでこっそりするようになりました。(臭い? それはしゃーない。お互い様ということで) たとえ失敗しても、あるいは音はせずとも臭いが予想よりも強烈だった時も、夫が「はぁい、呼んだ?」と反応してくれるので、一緒にいることでかかる生理現象におけるストレスがなくなりました。
私の場合、妊娠中は特にお腹にガスがよくたまったので、夫の対応のお蔭で余計なストレスを抱える必要がなく快適な妊婦生活を送ることができました。
どうでもいいことのように思えますが、私にとっては夫の返しは、目からウロコだったのです。
唯一の心配事といえば、我が家のルールで育った子どものこと。
下の子(1歳3か月)は、自分がおならをすると周りが「はぁい」と反応してくれるので、おなら後に「したったでぇ」とばかりにどや顔で笑います。解放された心地良さも相まって、それはそれは嬉しそうに。このまま大きくなって、幼稚園や小学校で、おなら後にうける初めての周囲の冷たい視線に耐えられるのか……。被害妄想が激しい母は、心配します。
ただ、上の子(もうすぐ4歳)はおならの後周りに返事をされると、笑いながらも恥ずかしそうに照れているので、集団生活を送るうちに「家ではいいけど、外では控よう」と学習してくれるのではないかと、他力本願なことを願っています。
どうでもいいことなだけになかなか話し合われないことですが……、家族の数だけある「おならルール」、皆さんのご家庭ではどうしていらっしゃいますか?
文・桃山順子 イラスト・めい