離婚ではなく「卒婚」という選択
近年、熟年離婚などとともに話題にのぼるようになった「卒婚」という言葉を知っていますか? 卒婚とは、子育ても終り仕事も終わり、リタイアした夫婦が、離婚はせずにそれぞれ別の場所に住み、自分の好きな環境で生活することだそう。
熟年離婚とはちがって、夫婦のきずなは保ちつつ、お互いの趣味や生き方、暮らしたかった場所などを尊重できること。子どもから見ても、両親が離婚していないので介護問題や細かい手続きなどのわずらわしさが増えるわけでもないとメリットがあるようです。
なぜ「離婚」ではなく「卒婚」を選択するのか
「卒婚」に至る理由はさまざまでしょう。旦那が仕事ばかりに目が向き、そのぶん妻は家庭にばかりに目をかけるしかなく、いつしかまったく違う方向を向いていた……これでは、いくらお互いの生活がひと段落しても、「一緒に楽しむ」という気持ちにはなりませんよね。それから、遠方に住む両親の介護をするために、お互いに別居を選んで卒婚、ということもあるようです。
私の身近にも卒婚をしたい人や卒婚に近い生活を送る人たちがいます。長らく夫婦をしていれば、少しずつ感覚のズレや不満がたまっていき、大きなものになっていくのは私もよくわかります。特に女性は、結婚や出産によって収入を減らしてしまう人が多いので、経済的に離婚は大きなリスク。「子育てが終わったら離婚したい」という人も、いざ子育てが終わった年齢から再就職というのもいばらの道でしょう。そこで選ぶのが卒婚という選択のようです。
「第二の人生」のタイミングは夫婦で違う
私の身近で「卒婚」的な暮らしを送っている女性は、最初から積極的に卒婚を選んだわけではないのだそう。50代となり子育てが一段落したとき、ご主人に「子育てもひと段落だし、これからは夫婦でどう楽しもうか」と声をかけたそうです。ところが、そのときご主人は長年の出世競争に勝ち抜き、仕事に油がのっているとき。「いや、俺いま仕事に力入れたいときだから。そういうのは考えられないわ」と冷たく言われてしまったそう。ショックをうけたこの女性はそれ以来、ご主人のことは構わずに自分の好きな旅行や登山を楽しんでいます。
夫婦の生活を考えるタイミングはそれぞれが人生で大きく抱えていた「仕事」や「子育て」が落ち着いたり、「介護」などの新たな人生のステージが始まるときです。しかし、このタイミングが夫婦で合わないと、どちらかが「卒婚」を選ぶのかもしれません。
「卒婚」の盲点
決定的ではないものの、夫婦の長年のすれ違いに悩む女性には良い選択に思える「卒婚」。でも、「夫婦関係を継続」するからこそ逃れられないこともあります。たとえば、金銭の管理。今まで妻側が家計を管理していたものの、別居によって費用もかさみ旦那側がお金にルーズだと、とたんに家計が破たんしてしまうことも。万が一、借金が発生した場合にも夫婦でいることはリスクです。
さらに、身の回りの世話を何もできない旦那だと、卒婚後も掃除・洗濯は妻の仕事で、定期的に自宅へ帰っては、たまった家事を片付けるということもあるそう。食事などの体調管理も自分でできなければ、年齢的にもとたんに病気になって、要介護となり、むしろ離婚しておけば……なんていうのも想像がつきます。将来的に気ままな「卒婚」を目指すなら、やっぱり旦那に身の回りの家事ぐらいはできるようになってもらった方がよさそうですね。
「卒婚」は「別れたいけど別れられない夫婦」ではない
なんとなく「別れたいけど別れられない夫婦」のようなネガティブなイメージのあった卒婚ですが、調べていくうちに私はけっこういいなと思いました。今のところ、お互いに「子育てが終わったら○○したいね」なんて話し合っている我が家ですが、やっぱり子育てを通して将来やりたいことが変わってきたり、「一人で○○したい」という欲求も増えてきました。
でも、イコール夫婦関係の終了ではないので、「別れたいけど別れられない」というよりは、「夫婦のきずなと長年の情を持ちつつ、お互いの余生を尊重しあう」という風に考えると自然と受け入れられそうです。そもそも、結婚=同居して常に一緒に同じことをする……ということ自体が古い考えなのかもしれません。お互いがお互いの人生を夫婦として楽しむ、本来は当たり前のことであって、今までの結婚スタイルが「お互いが何かを我慢しながらするもの」(特に女性側)というイメージが強すぎるのでしょう。
そう思えば、「卒婚」なんて言葉はなくなっていくのかもしれません。
さてあなたは「卒婚」してみたいですか?
文・犬山柴子 イラスト・マメ美