ヤングケアラーなど「困難を抱える子ども」を守る【福岡市 高島宗一郎さん 第3回】
前回からの続き。社会問題として注目を集める「ヤングケアラー」。子どもだけでは解決が難しく、また周囲からも気づかれにくいことから十分な支援が行き届かないなどの問題があります。福岡市では、ヤングケアラ―を始め、困難を抱える子どもへの支援にも力を入れています。高島宗一郎市長に福岡市の取り組みを伺いました。
ヤングケアラー「困難を抱える子どもを守る」ことを柱に
――福岡市在住のママたちから高島市長宛へ「ヤングケアラーの家族支援が素晴らしいです。高島市長の思いを聞かせてください」というメッセージが届きました。
高島宗一郎市長(以下、高島市長):今、ニュースなどでも頻繁に取り上げられるようになったヤングケアラー。これは、両親や祖父母など大人の代わりに、家族の介護や家事を日常的におこなっている子どもたちのことを指します。子どもたちのなかには、自分自身がヤングケアラーだと自覚していない子もいます。そのような子どもたちのSOSをキャッチし、支援につなげることが重要です。
――具体的にはどのような支援を行っているのでしょうか?
高島市長:福岡市では、2021年にヤングケアラーの相談窓口を開設しました。本人はもちろん、家族や学校関係者、地域の方からの相談も受け付けており、専門のコーディネーターが、本人や各家庭の状況に応じて、解決策を一緒に考え、支えています。
また、ヤングケアラーを見逃さないように、福祉、介護、医療、教育など、様々な分野の関係機関の職員に研修を実施し、ヤングケアラーの支援体制の強化を図っています。
子どもの個性や才能が伸びるきっかけをなくさないために
――ヤングケアラーのほかに、困難を抱える子どもへの支援は行っていますか?
高島市長:たくさんの支援メニューがあるのですが、いくつか紹介すると、例えば、市内の保育園や小学校、中学校には、医療的ケアが必要な子どもたちのため、ニーズに合わせて看護師を配置しています。2023年度からは、看護師が乗った車で医療的ケアが必要な子どもを学校へ送る通学支援をスタートします。
また、家庭の経済的な事情で、子どもの個性や才能が伸びるきっかけが奪われ、将来の可能性が狭められることがないよう、経済的に苦しい家庭に対し、子どもが習い事に通うことができるように、小学校5年生、6年生と中学生で、月に最大1万円を支援しています。
さらに、里親ショートステイ事業を全市に展開して、急な用事や一時的な休息のために子どもを預けられる身近な場所を増やしたり、施設や里親で暮らす子どもたちの声を代弁する「アドボカシー」の取組みも推進したりしています。
――障がいがある子どもを育てる親の負担は大きいと思いますが、そのあたりへの対策は何かありますでしょうか。
高島市長:障がいのある子どもに対しては、それぞれの状況にもよりますが、将来的に自立し、社会参加ができるように、また、家族の負担を軽減できるように、様々な支援があります。
例えば、子どもが専門の施設に通い、日常生活を送る上での困りごとに対応できるように、生活習慣や社会性を身に付ける通所支援や、放課後等デイサービス、親が仕事などでいないときに自宅で食事などの介助をおこなうホームヘルプサービスなどがあります。
これらのサービスの利用料を、学校に入る前の0~5歳の子どもは完全無償化し、学校に通う6~17歳の子どもは、月額3,000円を上限としてご利用いただけるようにします。
子どものSOSを行政が吸い上げる仕組みを
――困っている子どもの存在は、福岡市ではどうやって把握しているのですか?いくつかあるかと思うのですが、例を教えてください。
高島市長:市内の小中学校に通う子どもたちに、1人1台タブレット端末を配っていますが、そこから相談できる仕組みを導入しました。学校の問題だけじゃなく、家庭内の虐待や困っていることなど、子どもたちが臨床心理などの専門の相談員に直接メッセージを送れるようになっています。命に関わるものなど、必要に応じて関係機関で情報を共有し適切なサポートをおこなうようにしています。タブレット以外にも、LINE、電話など、様々な手段で相談を受け付ける窓口も用意しています。
――子どもを守ることで、同時に親を守ることにもつながりそうですね。
高島市長:ヤングケアラーや医療的ケアを必要とする子どもに限らず、子どもへの支援策は、親子を同時に守ることになります。妊娠中のママたちのなかには、この先の生活に不安を抱えている人たちもたくさんいるでしょう。福岡市では、妊娠期から相談に乗って悩みや不安にしっかりと寄り添い、必要なら訪問支援や親子宿泊などいろいろな方法で親子を一緒にサポートしていけるような事業も拡大していきます。切れ目のない支援によって、誰もが安心して出産し、育てていける街にしていきたいです。
取材、文・長瀬由利子 編集・荻野実紀子 イラスト・マメ美