オンライン授業は不登校の子どもの学習支援やつながりに【福岡市 高島宗一郎 第2回】
前回からの続き。全国に先駆け、オンライン授業を出席扱いにすることにした福岡県福岡市。高島市長は「オンライン授業は、不登校の子どもたちが学校とのつながりを感じるきっかけにもなっている」と話します。コロナ禍であっても積極的に活動してきた、福岡市の教育への取組みについてお話を伺いました。
コロナ禍で孤立する不登校の子どもたち
――今、全国的に不登校の子どもの問題が大きく取り上げられています。福岡市として不登校の子どもに対してどのような取り組みや支援がありますか?
高島宗一郎市長(以下、高島市長):福岡市教育委員会の方でいろいろな取り組みをおこなっています。例えば、子どもの心のケアをおこなうスクールカウンセラーや、家庭や学校における子どもの環境に働きかけ、関係機関と連携して支援するスクールソーシャルワーカーを配置し、不登校の未然防止や早期対応に取り組んでいます。また、不登校の子どもたちがオンラインで授業に参加できるようにもしています。その他、学校には登校したけど教室に入れない子どもたちのために「ステップルーム」という居場所をすべての中学校につくっています。
――オンラインで授業を受けられるというのは、どのような取り組みですか?
高島市長:2020年、新型コロナウィルス感染症が蔓延していた頃、市内の小中学校では1人1台タブレット端末を配付してオンライン授業にも対応できるようにしました。ところがオンライン授業の対象となるのは、子どもや家族に基礎疾患がある子や感染症が心配で登校できない子どもたちだけ。不登校の子どもたちは対象外でした。
不登校の子どもをもつ親からは、「コロナ禍で、ますます学校とのつながりが切れてしまっている。なんとかオンライン授業を……」という声があがっていたのです。そこで市の教育委員会とかけあい、不登校の子どももオンラインで授業を受けられるようにしました。
さらに、2020年12月からは新型コロナウィルス感染症が心配で登校できない子が、オンライン授業に出たら出席扱いとできるようにしました。今でこそいろんな地域に広がってきましたが、はじめたばかりの頃は「前例がない」と言われましたね。前例がないのであれば、福岡市が前例になればいいと考えたのです。
――子どもたちには何か変化はありましたか?
高島市長:授業の様子はもちろんのこと、休み時間もオンラインでつないでいるときは、不登校で自宅にいる子も教室の様子がわかるんですよ。なかには「こっちにおいでよ。一緒に遊ぼう」と声をかけてくれる子もいます。それを聞いて「ちょっと学校に行ってみようかな」という子もいました。そういった際に、さきほど話した「ステップルーム」があるので学校にも足が向きやすいのではないかと思っています。
オンライン授業のはじまりは新型コロナウィルス感染症でしたが、不登校の子どもたちが学ぶきっかけにもなっているため、配信は続けていきたいです。
授業のあり方、教師の役割に変化が……
――オンライン授業のように、教育を取り巻く環境は大きく変化していますが、今後、学校での学習はどのようになっていくのでしょうか?
高島市長:オンライン授業もそうですし、ICTの活用によって、いろいろなことができるようになるはずです。今、学校の教室には、プロジェクターとスクリーンが完備されています。こうした設備を活用し、授業は質の高い動画コンテンツを活用して行うことも考えられます。
――そうすると、先生たちはどんな役割になるのでしょうか?
高島市長:これまで学校の先生に求められていたのは「正しい内容を伝え、教える」ことでした。しかしこれからは、子どもたちのケアやコミュニケーションをサポートするなど、学習の質を高める役割が期待されるのではないでしょうか。動画で学んだ内容をもとに、子どもたちが意見を出し合うアウトプットの場を設け、ファシリテーションをおこなうなど、学んだことを定着させたり、一人ひとりが新しい考えを創り出せるよう促す部分により力を割いていくイメージです。授業についていけていない子のサポートも先生の重要な役割となりそうです。
より人間的な部分が大切になってくるのではないでしょうか。
子どもたちの将来のために大人ができること
――教育がかわっていくと、子どもたちの未来はどう変わるのでしょうか?
高島市長:現実社会ではそもそも正解がないことばかりです。学校で正解のある問題を解くだけではなく、子どもたち自身が課題を立て、まわりの仲間とコミュニケーションを取りながら協力してやっていくことで、夢や目標の実現のために必要なことを、自分の頭で考え、行動する、「生きる力」につながっていくのではないかと考えています。
少し話はそれますが、子どもには良い大学へ行ってもらい、大手企業に勤めて、安定した生活を送ってほしいと思っているママ、パパも少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。私も子どもがいるので、わが子の将来を心配する親の気持ちはよくわかります。けれど、大企業に勤めても、ある日突然会社が倒産してしまうことだってあるわけです。
そう考えると、学校でも家庭でも、「正解」を学ばせるだけではなく、先ほど述べた「生きる力」を身に付けさせていくことが、結果的に、子どもたちの将来の選択肢を広げることに繋がるのではないかと考えています。子どもたちにはいくつもの可能性があるので、自ら選択肢を限定するのではなく、どんどん新しいことにチャレンジしていってほしいですね。
取材、文・長瀬由利子 編集・荻野実紀子 イラスト・マメ美