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「子どもにお金をかければ経済も良くなる」明石市が行う5つの無料化とは?【明石市 泉房穂市長・第4回】

明石市市長④

前回からの続き。子育て世代から高い支持を得ている兵庫県明石市。「子どもを応援しない国に未来はない」という泉房穂市長は、市長就任以来、おむつの無料宅配&育児相談、第2子以降の子どもは幼稚園・保育園ともに無料など、さまざまな子育て支援策をスピーディーに実施しています。明石市の子育てに関する取り組みについて、「自分の住んでいる自治体で実施してもらいたい」という視点で見てみるといいかもしれません。
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3つの子育て支援「経済的な負担の軽減」「不安の軽減」「教育環境の整備」

――明石市は、子育て支援策が充実していると聞きました。

泉房穂市長(以下、泉市長):子育て支援は、大きく分けて3つあります。1つ目は「経済的な負担の軽減」、2つ目は「不安の軽減」、3つ目は「教育環境の整備」です。

1つ目の経済的な負担の軽減として、「5つの無料化」を実施しています。「子育てサービスにかかる費用は、もうすでにみなさんから税金や保険料でいただいているので二度払いは必要ないですよ」という感じです。いうならば遊園地の年間パスポートみたいな感じで、最初にお金をいただいているから、あとは基本的には無料でいいという発想です。

――子育て世帯にとっては非常にありがたいですね。

泉市長:今の日本社会は、子どもに対して冷たすぎると私は思っています。だから私が市長に就任したあとは、子どもにかける予算を倍以上にして、さらに子どもに寄り添う職員の数を3倍以上にしました。「子どもを応援しない国に未来はない」という思いは、40年以上前から私が主張していることです。

【経済的な負担の軽減】「5つの無料化」とは

――経済的な負担の軽減として実施されている「5つの無料化」について教えてください。

泉市長:すべての子どもを対象に「所得制限なし」で実施しています。
1.こども医療費の無料化
全国の中核市としてはじめて、18歳まで通院も、入院も、薬代も無料にしました。

2.第2子以降の保育料の完全無料化
明石市在住で第2子以降の子どもは、幼稚園、保育園ともに無料です。明石市在住であれば、市外の施設でも同様になります。

3.中学校の給食費が無料に
子どもが中学生になる頃から、親が子どもにかける教育費が増えてきます。そのため少しでも負担を減らすために給食費を無料にしています。本当は小学校もできればいいですが、まずは予算的に無理のない範囲で中学校給食からスタートしました。

4.公共施設の入場料無料化
明石市内には、天文科学館、文化博物館、明石海浜プール、親子交流スペース「ハレハレ」といった子どもたちが知識を習得したり、思いっきり体を動かして遊んだりできる施設があります。明石市在住の小学生以下の子どもと保護者は、すべて無料で遊べます(天文科学館は高校生まで無料)。

5.0歳児の見守り訪問「おむつ定期便」
子どもが生後3カ月から満1歳になるまで、市の研修を受けた配達員が、毎月紙おむつや粉ミルクなどの子育て用品(3,000円相当)をご自宅にお届けします。その際に育児の不安や悩みを聞いたり、アドバイスしたりしています。おむつの宅配をきっかけに、孤立化を防ぎ、育児の悩みをサポートをするというのが狙いです。

――5つ目の「おむつ定期便」は、ただ単に紙おむつなどを配るだけじゃなく、そこから子育て支援につなげていこうという狙いがあるんですね。

泉市長:そうです。ほかにも「保育施設等での使用済み紙おむつの保護者持ち帰り」は2022年4月から廃止にし、保護者の負担軽減につながりました。またこども食堂が全28小学校区47か所あり、こちらも地域の子どもたちの居場所になり、見守り機能も果たしています。

【不安の軽減】病児保育を作り保護者が安心して働ける環境を整える

――子育て支援策2つ目の「不安の軽減」に関しては、どんなことに取り組まれているのでしょうか?

泉市長:不安の解消に向けては、夫婦共働きで急な休みが取れない、子どもの面倒を見てくれる祖父母の手を借りられないという場合、病気の子どもを専門のスタッフが預かる「病児保育」を作りました。簡単にいうと、明石市のみなさんが子どもたちのおじいさん、おばあさんになります、という発想です。

【教育環境の整備】全国初の小中一貫校、30人学級を実施

――子育て支援策3つ目の「教育環境の整備」はどのようなものでしょうか?

泉市長:明石市では全国初の小中一貫校、30人学級を実施しました。文部科学省で学級編制の標準を5年間かけて計画的に40人(小学校第1学年は35人)から35人に引き下げることを閣議決定したのが2021年のこと(※1)。もちろん学級編成によって1クラスあたりの生徒数がもっと少ない学校もあると思いますが、明石市では既にすべての小学校で1年生の30人学級を実現しています。学童保育に関しては、職員の半分以上が教員免許を持っていて、待機児童もありません。

ほかにも「本が好きになってほしい」との思いから、駅前に大きな図書館を新設しました。また「本のまち」として「ブックスタート」「ブックセカンド」として、子どもの4カ月健診、3歳半健診の際にそれぞれ絵本をプレゼントしています。

「親の所得制限」を設けない本当の理由

――明石市では、子育て支援を受けるのに親の所得制限はないんですね。

泉市長:子どもたちは、将来この街を背負って立つ若者になります。同時に、税収の担い手でもあります。親にお金があろうがなかろうが、社会で子どもを育てることが、この街の未来を作っていくのです。だから所得制限は設けていません。

――泉市長が就任してから、子育て世代の人口が大きく増加しているそうですね。

泉市長:2021年の合計特殊出生率は、全国1.30でした。それに対して明石市は1.65を記録しています。明石市は、「住みたい街ランキング」でも人気が急上昇しているんですよ。子育て世帯が増えたことで、街が活性化し、経済面を見ても8年連続の税収増です。子育て支援にお金をかけることで「選ばれる街」になり、結果として経済は良くなったんですね。

家計と一緒「無駄遣いをやめれば支援はできる」

――ところで、これだけ無料化をするのには相当な予算が必要かと思います。どうやって賄ったのでしょうか?

泉市長:私が就任したとき、市にお金がないからじゅうぶんな支援ができないと思っていました。しかし、それは違います。まずは何にお金をかけるべきか、優先順位を決める。そのあとは残った予算でほかのことをやればいいだけの話です。みなさんの家庭の家計と同じですよ。家の外壁の工事にお金をかけるのか、子どもの教育費にお金をかけるのか。難しいことはなにもないです。

――子どもが生まれたら、家計を見直して子どもにお金をかけますもんね。ちなみに、明石市はどんなところを見直したのでしょうか?

泉市長:私が就任した1年目には、市営住宅の建設をすべて中止しました。ほかにもゲリラ豪雨対策として、600億円かけて下水道整備を行う計画がありましたが、これを150億円にまで縮小しました。ただそのかわりに、要配慮者が早い段階で避難できるようにするなど、ハード整備とソフト面を組み合わせてしっかりとした支援策を実施しました。こうした見直しによって、財政が黒字化し、貯金額70億円を121億にまで積み増しをしました。

明石市ではこのほかにもさまざまな子育て支援を行っていますが、やろうと思えば全国どこの自治体でもできるはずです。そのため今後は、明石モデルを全国へ広めていきたいと思っています。明石市でできることは、当然国でもできるはず。国政にもどんどん働きかけて、全国の子育てをしている人たちがもっと暮らしやすい国にしていきたいですね。

【明石市 泉房穂市長・第5回】へ続く。
取材、文・長瀬由利子 編集・荻野実紀子 イラスト・おんたま

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