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「子どもの教育にお金をかけない国に未来はない」弟の障害で知った社会の冷たさ【明石市 泉房穂市長・第3回】

明石市市長③

前回からの続き。「子どもの頃から市長になりたかった」と語るのは、兵庫県・明石市の泉房穂市長。4歳下の弟さんに障害があることから、時には理不尽な思いをしてきたそうです。そのため、冷たいまちをやさしいまちに変えることを目標に活動してきました。今回は泉市長から見た行政の問題点について考えてみましょう。
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障害のある弟も地元の小学校に通わせたい

――子どもの頃から市長になりたかったと伺いました。その理由を教えてください。

泉房穂市長(以下、泉市長):理由はシンプルです。私の4つ下の弟に障害があったからです。私は、明石の西の端にある漁師町で生まれました。両親は中卒で、お金もなくて家は貧乏でした。

弟は生まれつき障害があり、歩行が困難でした。自力で歩けるよう家族一丸となって弟をサポートし、5歳でようやく歩けるようになったんです。そんな弟が、私と同じ小学校に入学したいと言ったとき、明石市は「歩きにくいなら養護学校ヘ行け」と言いました。その養護学校に行くには、電車とバスを乗り継いでいかなければなりません。すごく悔しかったし、子ども心に「なぜそんなことを」と信じられない思いがしました。

両親は、なんとか家の近くの学校に弟が通えるようにしてほしいと訴え続けました。その結果、弟は私と同じ小学校に通えることになったのですが、2つの条件があったんです。それは「なにがあっても行政を訴えないこと」と「送迎は家族が責任を持つこと」。

忙しい両親に変わって、私が毎日弟を学校に連れていき、連れて帰りました。私が小学5年生、弟が1年生のときです。私のランドセルに2人分の教科書。それをひとりで往復運ぶ毎日。周囲は冷たく、誰も手伝ってはくれませんでした。

「理不尽な世の中に対してもっとやさしいまちを作りたい」「冷たい社会をやさしい社会に変えたい」。そのために自分が全身全霊で頑張って形にしてみたいと思ったのが、小学5年生の頃ですね。

日本ほど子どもにお金をかけてない国はない

――その後、中学、高校と進むにつれて途中で目標が変わることはなかったのでしょうか?

泉市長:軸がぶれることはなかったです。

――大学生のときに、子育て支援のレポートを書かれていたそうですね。

泉市長:「日本ほど子どもにお金をかけていない国はない」「子どもを応援しない国に未来はない」とレポートに書きました。

私は早熟な子どもだったこともあり、高校時代からいろんな本を読み漁っていたんですよ。大学では経済系統に入ったんですが、その後「人について学びたい」と思い、教育哲学に転部しました。そしてフランスの思想家ジャン=ジャック・ルソーの哲学について勉強したとき、日本の置かれた状況があまりにもひどいことに気がついたんです。

その当時、日本は他国の半分くらいしか教育費を使っていなかったんです。子どもにかける予算が、世界の平均以下であることを異常だと感じ、そんな日本社会に未来はないとレポートを書いたのが20歳の頃でした。

「国が支援しなくても子どもは家族で育てればいい」

――なぜ日本は他国よりも子育て支援や教育費にお金をかけていないのでしょうか?

泉市長:日本はかつて大家族が多く、村社会で一緒に生活していました。離婚したとしても、障害のある子が生まれても、子どもの面倒を見てくれる親族が近くにいっぱいいたから、生活ができていたんですよね。「社会」が子育てをしなくても各家庭で生活が成り立つ世界です。すると政府は、子育てに関するお金や教育を十分にかけなくなります。

ところが、日本社会もかつてのような大家族、村社会ではなくなってきました。現在の日本の家族形態は、いわゆる普通のサラリーマン社会であり、核家族。それならば他の国並みに手厚く子育て支援をしないとダメでしょ、というのが40年前に私が思ったことです。

日本はもっと子どもの教育や子育て支援にお金をかけなければなりません。そうしないとこの国に未来はない。経済が止まり、少子化もより進んでしまいます。残念ながら40年前に私がたてた予測が、まさに今当たってしまったということです。

――具体的には、どんな支援をしたらいいとお考えでしょうか?

泉市長:これに関しては、「明石市の子育て支援」を具体的にお話させていただきます。

【明石市 泉房穂市長・第4回】へ続く。
取材、文・長瀬由利子 編集・荻野実紀子 イラスト・おんたま

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