子どもへの性教育はどうしてる?「おうち性教育」を受けてみました【助産師 谷垣律子さん】
みなさんはお子さんから性についての質問をされたら、どう答えていますか? 「赤ちゃんはどこから来るの?」「僕だけおちんちんがあるのはどうして?」……など、答えに困る質問を受けた経験のある親御さんは少なからずいるのではないでしょうか。
親が頭を悩ませるわが子への性教育についての、民間の取り組みがあります。助産師として28年以上活躍されている谷垣律子さんは、京都北部の子どもたちとその親御さんを対象に性教育をおこなう「おうち性教育」をされています。
実際に、「おうち性教育」を体験してきました。どのように子どもに性教育をすればいいのか悩んでいる親御さんは、ぜひ参考になさってください。
幼児や小学生と一緒に!「おうち性教育」体験
参加したのは筆者と筆者の子2人(長男小学4年生、次男年長)、友人と友人の子3人(長男小学6年生、次男3年生、長女1年生)の計7人です。
『これから先生がお話しすることが「怖いな」「聞きたくないな」と思ったら聞かなくていいよ』
と谷垣さんが子どもたちに前置きしたうえで、おうち性教育が始まりました。
おうち性教育「自分がイヤだなと思ったらイヤと言っていいんだよ」
まず谷垣さんは3枚のカードをテーブルに置きました。
『この3つのうち自分が1番気になる、なんとかしたいと思うのは誰の気持ちかな?』
と谷垣さんは子どもたちに尋ねます。3枚のカードには次のように書かれていました。
『(1枚目)ためいきをついているおかあさん
(2枚目)おこっているおともだち
(3枚目)いやだな、っておもうじぶん』
子どもたちは思いおもいに、カードを指さします。子どもたちがカードを選び終わったあと、谷垣さんはどうしてそのカードを選んだのか、子どもたちに尋ねました。
(1枚目を選んだ子)「お母さんがしんどいのかなと思ったから」
(2枚目を選んだ子)「友だちがなんで怒っているのか気になるから」
(3枚目を選んだ子)「自分の周りの人の機嫌が悪いと自分もイヤな気持ちになるから」
もちろん、正解はありません。答えを聞いたうえで、谷垣さんはこう子どもたちに伝えました。
『お母さんやお友だちを気にかけることはとても大事だけれど、まず大事にしてほしいのは自分の気持ち。自分がイヤだな、と思ったら「イヤだ」と言っていい。「お母さんがため息をついていると僕もなんだか悲しい」や、お友だちには「私に怒っているって思ってイヤな気持ちになる」って言ってもいい。「自分の心と体は大切な自分のもの」と思ってね』
子どもたちのなかには「言ってもいいの?」と目を丸くする子も。子どもでも自分の気持ちを表に出すのをためらうことがあるようです。
自分のからだの名前知っているかな?
男の人と女の人の体の違いを見てみよう
次に谷垣さんは図を使って男女の体の違いについて話し始めました。
『胃や腸は男の人にも女の人にもある。でもお腹の中にも外にも違う部分があるよ。知っているかな? 男の人にはペニスや精巣、女の人には卵巣や子宮といった赤ちゃんを作るための生殖器があるんだよ』
それぞれの生殖器の役割を聞いた子どもたちには、疑問がいっぱい湧いたようです。
「子宮ってなんかモンスターみたいな形!」「私のお腹の中にもある?」「精子はいっぱい作られるのに、卵子は1個だけ?」
男女の体の違いを知ったことで盛り上がる子どもたち。知識が増えたことを喜んでいるようにも見えました。
とても大切なプライベートゾーン
谷垣さんはプライベートゾーンについて子どもたちにこう伝えました。
『みんなのお股にあるペニスやワギナは「性器」といって、お尻の穴やおしっこの出口と同じく体の中に繋がる大事な部分。
この大事な部分を「プライベートゾーン」と呼ぶよ。口や胸もそうです。プライベートゾーンは命に関わる部分だから、自分だけの大切なもの。自分以外の人にふざけて自分のプライベートゾーンを見せたり触らせたりしてはいけないし、反対に誰かのプライベートゾーンを見たり触ったりしてはいけないよ』
谷垣さんのお話の最中、次男の顔を覗くと、なにやら神妙な顔つきをしていました。おうち性教育を受ける少し前、幼児園の身体測定のときに、自分の大事な部分をわざと出してみんなを笑わせていた次男。プライベートゾーンの大切さを、心に刻んでくれたらよいのですが……。
赤ちゃんはどうやってできるの?
命が生まれる瞬間を知ろう
話は「性交について」に移ります。
『赤ちゃんがお母さんのお腹の中で育つのはみんな知っているかな。じゃあ赤ちゃんはどうやってお母さんのお腹の中にやってくるのかな?』
子どもたちは、「精子と卵子が……」となんとなく知っている子がいるものの肝心なところは分からない、といった様子です。谷垣さんは図や動画、模型を使って命が生まれる瞬間、受精について丁寧に教えてくれました。
『男の人の精巣の中にある精子と、女の人の卵巣の中にある卵子が出会うことで命ができるよ。でも精子はとても弱くて空気に触れると死んでしまう。だから女の人の体の中に直接精子を送り込む必要があります。男の人のペニスを女の人のワギナに入れて、体の中に精子を送り込むことを「性交(セックス)」と呼びます』
次々と飛び出すワードになんだか筆者の方がソワソワしてしまいそうでした。反対に子どもたちはというと、真剣なまなざしで谷垣さんの話を聞いています。隠してしまいがちな事実を臆することなく科学的に伝える谷垣さんの姿勢が、子どもたちを引き付けているようでした。
お腹の中で育った赤ちゃんはどうやって外に出てくるの?
『お母さんのお腹の中で十分に育った赤ちゃんが、どのようにしてお腹の中から出てくるかをお人形を使って説明するよ』
赤ちゃんの大きさ、重さを再現した人形を骨盤の模型に通しながら、谷垣さんは出産について説明してくれました。
『赤ちゃんは子宮の収縮によって押し出されながら、お腹の外へ出てくるよ。赤ちゃんはお母さんの骨盤という骨を通り抜けるために、アゴを引いたり体を回転させたりして頑張って外へ出ようとします。このときお母さんは腰やお腹がとてもとても痛くなります。ときにはお腹を切って赤ちゃんを取り出すこともあるんだよ』
「お腹を切るの!? そんなことして大丈夫?」お腹を切ると聞いてビックリした子もいました。骨盤を無事通り抜け赤ちゃんが誕生する瞬間の再現には、親・子どもたち一同「おお~っ」と声を上げます。「出てきた出てきた!」「へその緒切る~」「このへその緒にくっついてるの何?」「へその緒って切るとき痛くない?」子どもたちの興奮と疑問は尽きることなく、おうち性教育は終わりました。
知ることの大切さ
後日、筆者の次男がおうち性教育で聞いたことを急に話しだして驚かされました。
『おたまじゃくし(精子)がタマゴ(卵子)の中に入ったら、他のおたまじゃくしはもう入れなくなる。そしてタマゴの中に入ったおたまじゃくしは尻尾を切り離して、DNAをタマゴに渡すんだって~』
年長の次男でも命の始まりについて、科学的に理解をしているようでした。谷垣さんの話すとおり、子どもが大人の話を理解できる年齢になったら性教育を始めてもいいんだな、と実感した出来事でした。親の先入観で性教育をためらわず、事実と科学的な仕組みを伝えればいいのだ、とおうち性教育を通じて筆者も学ぶことができました。
子どもには性被害に遭ってほしくない。そして加害の側にもなってほしくないと思う親御さんは少なくないでしょう。親が臆さずに性教育を行うことができたら、「自分も他者も同じように尊重する」という教養を子どもに身につけさせることができるはずです。
もし「わが子に性について教えたいけれど、どうしたらいいか分からない」と迷う親御さんがいたら、まずは性教育を行っている人が身近にいないか探してみましょう。もし見つからなければ性教育に関連する書籍を参考にするという方法もあります。専門家や研究者のホームページを見てみるのもいいですね。子どもの人生をより豊かなものにするために、性教育を始めてみませんか?