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性行為だけじゃない。性教育の根幹は「自分や他人を大事にすること」【助産師 谷垣律子さん】

みなさんはお子さんから性についての質問をされたことはありませんか? 「どうしてお母さんにはおっぱいがあるの?」「赤ちゃんはどうやってお腹に来るの?」など、答えに困る質問を受けた経験のある親御さんは少なからずいるのではないでしょうか。自分たちがわが子に教えるよりも「学校の保健体育で詳しく教えてくれるのでは?」「自然と知識が身に付くでしょう」と感じている人もいるかもしれませんね。

親が頭を悩ませるわが子への性教育について、助産師として28年以上活躍されている谷垣律子さんにお話を聞きました。谷垣さんは助産師として働きながら、京都北部の子どもたちとその親御さんを対象に性教育をおこなう「おうち性教育」をされています。谷垣さんが性について子どもたちに伝えようと思ったきっかけから、性教育の重要性までを伺いました。

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性教育で教えるのは性行為のことばかりではない

――谷垣さんは、なぜ性教育を始めたのですか?
谷垣律子さん(以下、谷垣さん):以前から若者が性被害に遭う事件を、耳にするたび胸を痛めていました。助産師としてお産と性について長く関わってきた経験から、何か自分にできることはないかと考えたのが、性教育についての活動を始めたきっかけです。

――性教育は、何歳くらいから始めるのがよいのでしょうか?
谷垣さん:私はお子さんが大人の話をある程度理解できるようになったら段階的に性について教えていいと思います。大体5歳くらいでしょうか。子どもは素直ですから、こちらが伝えたことを「そうなんだ」とすんなり受け入れることも少なくありません。

――とはいえ性教育と言うと、「性について表立って言うべきではない」と考える人もいると思います。これについてはどう思いますか?

「性教育」と言うと性交や男女の生殖器についての話と受け取られがちですよね。もちろんそれらについて学ぶのも性教育の1つです。ほかにも、「相手がイヤがることはしてはいけないよ」「自分の体を触られてイヤだと感じるなら、イヤと言っていいんだよ」というような、自分を大切にする話など、教えられることはたくさんあると私は思います。

――性教育は、性交や男女の生殖器の話だけではないのですね。自分の気持ちを表現することの大切さを学ぶ教育でもあるのですね。
谷垣さん:そう表現してもいいと思います。性教育の根幹は、自分や他者の人権を尊重することにあると思っています。

日本には、「他人に迷惑をかけてはダメ」で、自分を大事にすることはわがままと捉えられる風潮があるように感じています。もちろん他者に危害を加える行為、尊厳を傷つける行為はいけません。でも自分を大事に思うこと、自分の心と体を守ることを理解するほうが先だと思っています。自分を大事にすることを理解すれば、他者への思いやりを育めるのではと思います。

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谷垣さんがおうち性教育の際に使用する人形

正しい知識を子どもたちにどう教えるか

――性教育への抵抗感や難しさから、「性教育は学校に任せたい」と考える親御さんは少なくないようです。これについてはどう思いますか?

谷垣さん:性教育については、文部科学省が定めている学習指導要領に基づいて、教育課程に組み込まれています。ですので男女の生殖器の名称や、精子と卵子とが出会うことで妊娠するなどの“結果”は授業で学ぶことができます。

ですが小学校・中学校・高等学校の学習指導要領では、性行為について取り扱わない旨が定められているのです。性交で受精が成り立つことや、生殖器がどのように働くのかという科学的な過程を教えてもらえないのでは、子どもたちは混乱すると思います。学校ではすべてを教えられるわけではないため、正しい性についての知識を子どもたちに伝える役割は、親が担うことになります。

――子どもたちは性行為について、自分で情報を得ることも考えられますよね。この状況をどう思いますか?
谷垣さん:子どもたちが親からも学校からも性交について正しい知識を教えられないまま、アダルトサイトやネット上の性情報を通常の性行為だと思い込む、そんな可能性は非常に高いと思います。現代社会は情報に溢れ、子どもたちでも手軽に真偽も定かではない情報に繋がれますよね。アダルト向けコンテンツの目的は、大人が性的興奮を得るために作られているものです。なのでその内容は過剰に過激で、実際とは異なるもの。私は「ファンタジー」なんて呼んだりもしています。

――そういう「ファンタジー」なアダルト向けコンテンツは、たとえ子どもが興味を持っても見せない方がよいのですね。
谷垣さん:子どもがインターネットを利用する機器に、親がフィルターをかけることがありますよね。それは子どもに「その情報が正しいのか、間違っているのかが判断できる経験値」が備わってないからだと思います。情報の正誤を判断できる大人になれば、非現実なものという認識を持ってアダルト向けコンテンツを利用できるのではないでしょうか。

――過激、あるいは間違った性情報から子どもたちを守る方法はありますか?
谷垣さん:子どもに小さな頃から生き方や人権、人間関係も含めた性教育をおこなうことではないでしょうか。それは子どもが「おうち性教育」を受けるだけでなく、日々大人が家庭や幼稚園・学校で子どもとどう接しているかが大切になると思います。

プライベートゾーン(口、胸、性器/体の中に繋がる部分)だけでなく、自分の体はどの部分でも大切な場所であること。同意なく他者から見たり触れたりされそうになったら拒否していいこと。自分の気持ちは大切にしていい、逆に言えば相手がイヤがっていることはしない。それらが理解できていれば、ネット上の性情報の中で過剰で過激な間違った情報と、正しい情報とが判断できるでしょう。ひいては性被害、性加害を自分で防止することにも繋がるのではないと考えます。

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谷垣さんは「自分の意思は表に出してよい」と子どもたちに伝えている

性教育に早すぎる・遅すぎるはない

――これから性教育を始めようと考える親御さんに向けて、何かコツがあれば教えてください。
谷垣さん:親が性について口にするのを恐れない、ということです。子どもから「女の人はどうやっておしっこしているの?」「ちんちんはどうして大きくなるの?」などを聞かれたら、淡々と事実のみを科学的に伝えることが大事かと思います。親が恥ずかしがったり、怒ったりしたら、子どもはそれらが「聞いてはいけないこと」「口にしたら怒られること」と思ってしまうでしょう。知りたいことは教える、それがお子さんの教養になるのではないでしょうか。

子どもと性についての話題になったときには、「お友だちのなかにはそういう話を聞きたくない人もいるかもしれないから、そういうことはお母さん(お父さん)に聞いてね」と付け加えると、より伝えやすいかもしれませんね。

――思春期の子どもの場合はどうでしょうか? 好きな人がいる子どもに、親が性について伝えるのは難しい気がするのですが、してもいいものなのでしょうか?

谷垣さん:恋愛関係となった相手から理不尽な要求を受けるケースを考えてみましょう。たとえば「付き合っているのだから、いつもメールや電話でお互いの行動を把握するべき」とか「多少相手がイヤがっていても、付き合っているのだし、愛していれば性交をしていい」と、相手の考えを押し付けられたとします。そんなとき「愛されるためには、相手の期待に応えなければならない……」と思って不本意に要求を飲むことは、対等な関係とは言いにくいですよね。ハラスメントが起きやすい関係にあると言えるでしょう。自分がイヤだと思うことに対しては、「NO」と言っていい。パートナーと対等な関係でいるための知恵を身につけることも、性教育の役割の1つなのです。他者に無理強いをすることは間違っている、おかしいことだと理解していれば、自分の心と身体を守ることができます。なのでお子さんが中高生、またはそれ以上の年齢であったとしても、必要だと感じるなら伝えるべきかと思います。

私は今、未就学児や小中学生のお子さんを中心に、おうち性教育をおこなっています。でも実は高校生やその親御さん向けにもおうち性教育ができたら、と考えています。実際にパートナーができる年齢だからこそ、性教育ができる最後の砦との意味も込めて、自分を大事にすることを伝えたいですね。

――最後になりますが、谷垣さんは、今後の性教育がどうなってほしいですか?
谷垣さん:学校での性教育においても「性教育=性行為 ではない」の考えが見受けられますが、それでも正しい知識を子どもたちに教えるには仕組みが不十分です。子育て世代の親御さんに性教育の知識を持ってもらって、私自身が子どもたちに教えなくて済む、そんな世の中にしたいなと思っています。

――谷垣さん、お話ありがとうございました!

取材、文・子持ち鮎

【つぎ】の記事:子どもへの性教育はどうしてる?「おうち性教育」を受けてみました【あもがね助産院 谷垣律子さん】

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