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ママなら誰でもなりうる「産後うつ病」。予防するために医師としてできること


赤ちゃんが生まれることはとても喜ばしいことです。しかし実際に育児が始まると、言葉の話せない赤ちゃんのお世話は想像以上にハードで、日々の疲労と命を育てている責任感に押しつぶされそうになった経験のあるママも少なくないのではないでしょうか。

順天堂大学と東京都監察医務院が行った調査によると、2005年から2014年までの10年間で、東京都23区の妊産婦のうち63人が自殺によって亡くなっていることも明らかになっています。産後に限って見ると40人が自殺し、そのうち半数近くが「産後うつ病」と診断されているのです。産前産後のママがうつ病を患い、自殺にまで追い込まれてしまう現状や対策について、産婦人科医の重見大介先生に伺いました。
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妊産婦の「自殺」の現状

先日厚生労働省の勉強会でも話題になりましたが、東京都23区で原因がわからない死亡である「異状死」について調べたところ、2005年からの10年間で、産後の母親の自殺が40例ありました。日本は医療レベルが高いので母親の死亡は滅多にないのです。それに比べると、精神的なことが原因となる「自殺」が断トツで多いことが最近わかってきて我々も驚いています。

産後のうつ病については、もともとうつ病や精神的な病気の方が産後悪化した場合と、産後に負担がかかって初めてそうなってしまった場合の2パターンあります。

医師が行う現在のうつ病のチェック体制ですが、妊婦健診ごとに不安はないかをチェックします。産後は1ヶ月健診などの際に「エジンバラ産後うつ質問票」を使うのですが、病院や自治体の判断に委ねられているため、すべての病院で必ず行うものではありません。しかしこの1年ぐらいで、産後の1か月検診でうつ病について必ずチェックしようという病院が増えてきました。病院や自治体によっては、1か月検診前の、産後2週間に行うところもあります。

国としての取り組みは「早期発見と治療」

自治体ごとに産後に精神的に問題のある方のチェックを行い、産後うつ病のハイリスクな人を抽出して、訪問や電話などで毎月サポートしたり、治療が必要な人を医師につなげたりする仕組みを用意しています。

このような取り組みで、精神的に不安な方を早く見つけ、医師や薬剤師・看護師・保健師・カウンセラー・ソーシャルワーカーなど含め、みんなで治療をサポートしようと国は力を入れています。しかし、あくまで早期発見と治療に限ることなので、産後の精神的な負担を予防するわけではないのです。

産後のうつ病になりやすい原因は「医学的な内容」と「社会背景」

産後のうつ病を予防するために、絶対にこれを行えばいいということはないのですが、産後うつ病にかかるリスクを上昇させる原因はわかってきています。それを一つ一つ潰していくことで、予防につながると考えています。

原因は医学的な内容と社会背景の2つが関係しています。医学的な内容とは、ママ自身がもともと精神的な病気を持っていること、妊娠中にうつ病など精神疾患を患ってしまうこと、生まれた赤ちゃんが障害を持っていることなどです。これらは病院も発見しやすく把握もしやすいため、フォローしやすいのです。また生まれた子どものトラブルも病院でわかるため、比較的産後はサポートしやすい状況です。

見落としやすいのは社会背景が問題の場合です。シングルマザーの場合や、妊娠中に離婚・離別・死別があった場合、そして妊娠中に旦那さんとの関係が悪くサポートがまったく得られないことや、妊娠中から継続して不安を感じている場合なども原因として考えられます。

産前産後は誰しも不安があるものですが、普通だったら気にしなくていいことをずっと考え続けたり、子どもの成長に少しでも問題があった際にすべて自分のせいだと考えてしまったりする場合は注意が必要です。

「産後うつ病を予防したい」その思いでサービスを立ち上げる

健診の際は時間も限られていて医師がお話しすべきことも多いので、病院では妊婦さんが個人的な悩みを言いにくいですよね。特に家庭内のことを言うのが恥ずかしいと感じる方もいるかと思います。そういう場合にインターネットでの相談が役立つのではないかと思い、「産婦人科オンライン」を立ち上げました。今後は株式会社Kids Publicで正式なサービス展開を見越していて、現在はテストサービスを運営しています。

かかりつけの病院の医師や看護師ではない第3者になら、ちょっとしたことでも気軽に話せると思うのです。お母さんの気持ちも軽くなると思います。予約時には妊娠週数、かかりつけの病院名、年齢、出産経験回数などを伺い、あとは問診で内容を伺います。

妊婦健診で聞きたかったことが気軽に聞ける「産婦人科オンライン」

妊婦健診で相談できなかったり、つい言い忘れてしまったり、何かと小さな不安や心配事が積み重なってしまうケースも珍しくありません。そんな中で、私が関わっている「産婦人科オンライン」では、スマホで気軽に医師や助産師へ無料で相談いただけます。

予約制のため相談時間内は1対1で相談が可能ですし、相談もどんな些細な内容でも構いません。こうした「ちょっとした心の安心」を積み重ねて、妊娠から産後までを少しでも健康的に過ごすことができれば、産後うつ発症も減らすことができるのではないか、と考えています。病院ではどうしても「早期発見」や「重点的な治療やサポート」に重きが置かれますが、我々は「ちょっとした心の安心の積み重ね」を通して、皆さんの笑顔へ貢献できれば嬉しいですね。

取材、文・山内ウェンディ  イラスト・ちょもす

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