「挨拶をしない子」でも注意はしない。できたときこそ「ほめ」タイミング
近所の人や、友達、保育園の先生に会ったとき、元気よく挨拶ができると、お互い気持ちがいいもの。しかし、子どもによっては恥ずかしがってなかなか挨拶ができない子もいます。こんなときは、どうしたらいいのでしょうか。全国に17園ある保育園「天才キッズクラブ」の理事長であり、『天才キッズクラブ式「最高の教育」』の著者である田中孝太郎先生にお話を伺いました。ポイントは「待つこと」だというけれど……?
恥ずかしくて挨拶をしない子どもにはどう伝えたらいい?
子どもの教育について、保育園に子どもを送迎するママやパパからたくさん話を聞きます。そんななかでよくママたちが話題にするのが「うちの子どもは、知らない人に会ったときに挨拶ができなくて困っている」というもの。
毎年4月になると、保育園には新しい子どもたちが入園してきます。主に0歳の子が多いのですが、1歳、2歳、3歳の子もいます。うちの保育園では、朝会ったら必ず子どもも大人も「おはよう」と挨拶をしますが、まだ慣れていない子は、先生やお友達に声をかけられても挨拶しない子もいます。そんなとき、どう対応するのがいいのでしょうか。
挨拶をしない子にも毎朝「おはよう」と言い続ける
一般的には、先生が「おはようといわれたら、ちゃんと相手の目を見ておはようと返そうね」というかもしれません。でも、「天才キッズクラブ」では、そうは言いません。何をするのかというと、「なにもしない」のです。
「え? 挨拶させないの?」と思うかもしれませんが、無理強いはしません。挨拶しない子は、ずっと挨拶しない子になってしまうのでしょうか? 大丈夫。ちゃんと挨拶するようになるのです。しかも、自然と。
なにをするかといえば、挨拶を返さない子どもにも毎日挨拶しつづけることです。「○○ちゃん、おはよう。今日も元気だね」という感じです。あるとき子どもが「おはよう」と一言でもいえたら、「すごいね! 挨拶できたよね。先生、○○ちゃんが挨拶してくれてすごくうれしいよ」と、ほめてあげる。
なぜほめているのかを子どもにわかるように伝えること
ほめるときのポイントとしては、「なぜほめているのかを子どもにわかるように伝える」ことです。きっと挨拶をしない子は、最初はまわりが気になって挨拶どころではなかったのかもしれません。少しずつ園に慣れてきて、友達や先生が挨拶していることに気が付いたのでしょう。
「まわりの子たちはみんな楽しそうに挨拶している。その姿を見て自分も挨拶してみようと思って、一言挨拶をしてみた。たった一言「おはよう」といっただけなのに先生たちがたくさんほめてくれた。それが嬉しくて、また翌日も言ってみた。そしたらまたほめてくれた。お友達も笑顔で挨拶し返してくれた」。子どもは心の中でこんなふうに感じているのかもしれません。
挨拶一つで子どもの世界はグンと広がる!
挨拶することが楽しいと思ったら、こちらが「挨拶しなさい」といわなくても子どもは自分からどんどんやるようになります。私たち大人がやるべきことは、子どもが自分から挨拶したくなるような環境を整えてあげることです。そして、ほんの少し待つこと。挨拶一つで子どもの世界はグンと広がります。
今まで話したことがなかったほかのクラスの子とも仲良くなれた。お友達に挨拶してそこから輪が広がっていくことが実感できると、子どもはどんどん自分からいろんな子に話しかけるようになっていきます。そうやって気づいたときには人見知りがなくなっていたり、積極性が出てきたりするのです。
もし、「うちの子、挨拶ができないからちゃんとさせないと」と思っているママがいたら、無理にさせないで子どもが自分から挨拶できるようになるのを待ってあげてください。その間、ママはたくさんの人に楽しそうに自分から挨拶することを心掛けてください。楽しそうに挨拶をするママの姿を見たら、子どもは自分から挨拶できる子に変わります。1回でも挨拶できたら、たくさんほめてあげくださいね。ママからのほめ言葉が子どもの自信につながり、次へのステップにつながるのですから。
お散歩の途中で出会う街の人全員に挨拶をする
「天才キッズクラブ」がまだ無認可園だった頃、私が子どもたちを連れて散歩に行っていました。公園に行く間の道で、近所を歩いている人にたくさん会います。おじいちゃん、おばあちゃん、買い物に出かける途中の女性など、1日何人もの人とすれ違います。そのときに私をはじめ、一緒に行動している保育士たちは、会う人、会う人みんなに大きな声で「おはようございます!」と挨拶をして歩きました。
一緒に手をつないで歩いている子どもたちは、最初「何が起こったんだろう?」というような顔をしてみていましたが、徐々に先生たちと一緒に「こんにちは」というようになり、途中から全員が自分たちから挨拶できるようになっていました。これは今でもやり続けていることです。
「今日のあいさつチャンピオンになろう」
さらに、公園についたら「今日公園にくるまでに挨拶がかっこよかった人のチャンピオンを決めるよ」というのです。それを聞いた子どもたちは大喜び! 「はーい」「私できたよ」とたくさんの子どもたちが手をあげてくれます。
子どもは「挨拶をしなさい」といわれると、恥ずかしいのと同時に強制されているようで嫌になってしまいます。しかし、大人が楽しそうにやっている姿を見たら、自分もやってみたいと思うのです。さらにそこに「あいさつチャンピオン」というゲーム的要素を入れてあげることで、自ら進んでチャレンジできるようになるのです。1回でも、小さな声でも挨拶できたら、子どもをたくさんほめてあげてくださいね。繰り返しているうちに、「挨拶しなさい」といわなくても、自然と挨拶できるようになるのです。
取材、文・長瀬由利子 編集・山内ウェンディ