答えがでない問題に直面したときこそ思考力を伸ばすチャンス【花まる学習会 高濱先生】
「子どもの考える力、思考力を身につけるためには「好奇心を追求する時間」を取るのが一番」と話すのは、「花まる学習会」代表の高濱正伸先生。新型コロナウイルス対策での臨時休校中はこの「好奇心を追求する時間」をとるのには、とてもいい機会だという高濱先生に詳しくお話を伺いました。
子どもの思考力がアップする方法とは?
例えば算数が得意な子には、ある特徴があります。それは思考力がすぐれていること。この思考力とは、数を使って正解のない問題に対して、誰もが納得できるように証明するための方法です。簡単にいったら、答えのない問題に解答するとき、いかに数字で根拠を示して、みんなが納得できる答えを導き出せるかということです。
思考力の最も良い伸ばし方は、難しい問題をずっとわかるまで考えるということです。たとえば、予備校や大学などで数学を専門に教えている先生というのは、この思考力が非常に優れているのです。このポイントは何かというと、ひたすら自分で考え抜くということ。
逆に、時間内に解答できないからといって大人が正解を言ってしまうと、子どもは問題の解き方のパターンだけを覚えてくるということにもなりかねません。中学受験の際に最短で合格を手に入れるためにこの解き方を覚えるのなら無駄とは言いませんが、本当に伸びる子は解き方だけを覚えるというやり方はしません。
自分で納得するまで考え続ける「好奇心を追求する時間」
日本人でノーベル賞を受賞した26人(うち米国籍2名)のうち25名が都内以外の地方出身です。なせノーベル賞を取るほどの賢い人たちが地方から多く出てくるかといえば、学生の頃に好奇心を追求する時間が取れたからなんです。たとえば、ノーベル医学生理学賞を受賞した大村智さんは、科学教育において最も重要だと思うのは小さい頃から自然に触れることだと折に触れて語っています。塾に行けば知識としての情報はたくさん教えてくれるし、効率よく勉強できるから処理能力だけは高められるかもしれません。しかし、本当に大事なことは「なんでこうなるのかな」ということをずっと考えていくことです。今、コロナウイルス対策で臨時休校している間は、子どもが「好奇心を追求する時間」をとるのにちょうどいいのです。
たとえば、なぜ秋になったら葉っぱが落ちるのか。自分の頭でじっくり考えることができる子の場合は、この問題についてずっと木と葉を見て考えるかもしれません。しかし、知識ばかりを詰め込んできた子は「落葉樹ですよね。知ってます」の一言で終わってしまうのです。
つまり、葉っぱが落ちるという出来事を見て考えるのではなく、知識として処理して、わかった気になっていることも多いのです。知識として知っているだけだと感動はありませんよね。
葉っぱが落ちることを疑問に思って調べる子は、直接触ったり、図鑑を見て頭に浮かんだ疑問を解決しようと調べたりするんですよ。その結果、「秋になって植物が大きくなるために必要な栄養を作る役割を果たしたから、葉緑体がこわれ、葉の寿命がきたのか」ということを理解し、納得するのです。身の回りには、考えれば考えるほどおもしろいことがいっぱいあります。そうやって答えが分かるまでずっと考えていくための時間というのが子どもには必要なのです。
臨時休校中にチャレンジしたい思考力を鍛える問題集
僕も小学6年生の1年間、ひたすら算数の問題に挑戦していたことがありました。1つの問題を解くのに約2カ月半もかかったことがあります。当時、僕のことをかわいがってくれた先生がいて、解答を見ることはその先生のことを裏切るような気がして、絶対に見ないぞと思って挑戦していたんですよ。だから、問題が解けたときはものすごくうれしかったですよ! この経験が僕にとってはすごく大きくて、自分の中で価値のある経験になりました。これからの社会は、答えのない問題にどう立ち向かっていくかが問われる時代です。今回の新型コロナウィルス感染症への対応をどうすべきなのか、ということを考えるためにも思考力をつけておくことが大切なのです。
この臨時休校を使って、“ちょっと難しい問題にチャレンジ”してみてください。日本にはすごく良いパズルがいっぱいあります。「考える力がつく なぞぺ~シリーズ」のドリル、算数オリンピックで出題されている過去問などもいいでしょう。これらの問題に挑戦し自分でしっかり考え抜くことで、子どもたちの考える力、思考力を身につけることができるのです。
取材、文・長瀬由利子 編集・山内ウェンディ