今井絵理子:第5回 目と目でコミュニケーションをするので、怒る時は辛いです
全8回でお届けしている、今井絵理子さんへのインタビュー。
第5回目となる今回は、聴覚障がいを持つ息子さんの育児についてのお話を伺っていきます。
耳が聞こえない息子さんを育てていく中で、どんなことが大変でしたか?
耳が聞こえる子を育てたことがないので、自分の子育てが大変と思ったことがないんですよね。
私にとっては、これが普通だから。
もちろん、遠く離れたところから「おーい!」と呼んでも聞こえないから、近くまで言ってトントンとしなきゃいけないとかいう大変さはあるんですけど(笑)
でも、それも小さい時からそうやって育てているので慣れましたね。
障がいを持っている、持っていないにかかわらず、子育てって大変なことだらけじゃないですか。お母さんはみんな大変だし、でも、それを大変だぁ!とばかり思っているお母さんはいないし。
だから、私が特別「大変」ということはないんじゃないかなって思っています。
赤ちゃんの頃は、泣いたりするときに音ではなく、どのような方法であやしていたんですか?
彼は、目で見る情報が全てなので、視覚であやしたり、落ち着かせたりしていました。
絵本や写真を見せたりしていましたね。
少し大きくなってからも、何が食べたいのか知りたい時は、食べ物の写真をたくさん並べて「どれが食べたい?」と聞いたりしていました。
目と目を見る分、息子さんとは深くコミュニケーションが取れますね。
そう。ちゃんと顔を合わせて話をしないと、伝えたいことが伝わらないので、話をする時は、目と目を合わせてコミュニケーションを取らなくてはいけないんですよね。
台所でご飯を作りながら、テレビを見ていたり、宿題をしている息子と会話をするというのは無理なわけですよね。目を反らすと会話が終了となってしまうので、怒る時は辛いです。目を見て、真剣に叱らなくてはいけないので。叱る方もパワーを使います。
息子さんの成長によって、育児方法を変えていますか?
そうですね。年齢によって、接し方はもちろん変えてきています。
今はもう10歳なので彼の中に意見、意志というのがあるので、それを優先してあげられる子育てをしています。
他のママを見ていて、自分とは違うなぁと思うことはなんですか?
子どもと電話で会話ができないことですね。その代わり、うちはfacetime(ビデオ電話)を使って話をします!
息子さんは、何歳から手話を習っていますか?
3歳からです。
それまでは話す人の口の動きや表情を読み取る口話法というのを教えていたんですけど、彼にはそれがあまり合わなかったみたいで、見ていると、よく指を動かす子だったので「この子には、手話が向いているんじゃないかな?」と思って始めてみました。
手話の上達は早かったですか?
早かったですねぇ!やっぱり、視覚から入る情報なので、吸収力がすごかったです。あっという間に習得して、今では、息子が友達と手話で話していることが分からない時があります。
手話にも、方言というか、友達同士だけで使うものがあるんですよ。
だから、見ていても「何を話しているんだろう?」と思うことがあるんです。
手話は、一つの言語だと思っています。
私たちの母語は日本語ですが、彼の母語は手話なんです。だから、日本語がわからないんですよね。
読み書きも少しづつできているんですけど、学習面に関しては難しいこともあります。
なので、私は息子に日本語を教えて、私は彼から手話を教えてもらうという日々です。
今井さん自身が手話に触れるまでのことを教えてください。
最初の3年は、病院で薦められることを試すこと、勧められた病院に通うことでいっぱいいっぱいだったんです。
その最初の3年間は、同じ障がいを持った子を持つママ達とたくさん交流しました。その中で、手話を息子にも始めさせて、私自身も手話を身につけようというところに辿り着きました。
息子が産まれてから3年間は、本当に分からないことだらけなので、人に対して甘えるということを覚えた時期でもありました。
10代の頃は、そういうことがすごく苦手だったときもあるんですけど、崖っぷちに立たされて、人の支えの大事さに気づいたんです。
たくさん支えてもらえた分、私はこれからたくさん恩返しをしていかなくてはと思うんです。
息子さんのお話をしてくださるときの今井さんは、とてもキラキラした笑顔で話されるのが印象的でした。
明るい彼女の裏には、母としての強さを感じました。
次回も、息子さんの育児についてお話を伺っていきます。
(取材・文:上原かほり 撮影:chiai)