「日本の義務教育は良くない」は嘘!?じつは世界トップレベル、変える必要はない?
「日本の義務教育は良くない。だから教育改革をする必要がある」という話を聞いたことがあるママもいるかと思います。海外と比べて「詰め込み式の日本の教育は遅れている」と感じるママもいることでしょう。しかし「日本の義務教育は良くない」は、本当なのでしょうか? 「日本の義務教育は世界トップレベル。変える必要がない」と話すのは、「百ます計算」やインターネットの活用などの教育メソッドを生み出し続ける一方で、政府の教育再生会議委員を務める教育者・隂山英男先生です。「義務教育を変える必要がない」とは、いったいどういうことなのでしょうか?
1番の問題点は現実と世間の認識のズレ。2020年からの義務教育はそれほど変わらない
――2020年から教育改革がスタートしますが、隂山先生はこの改革についてどう思いますか?
今、2020年の教育改革が大変注目されています。なかには「戦後最大の教育改革だ」という人もいますが、義務教育はそれほど変わりません。英語やプログラミングは入ってきているけれども、主要教科の改革は峠を越えています。逆に、「変えていかなければいけない」という焦りが様々な問題を引き起こしています。今世の中で起きていることの一番の問題点は、現実に起きていることと、世間の認識が大きく認識がずれていることです。その1つが「日本の教育力」についてです。
かつて学力を落とした日本、2012年では世界トップクラスに返り咲いている
――現実に起きていることと世間の認識にギャップがあるとは、具体的にはどのようなことをさしているのでしょうか。
よく「日本の学力は落ちた」と言われています。国際学力調査「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」の結果では、2000年から2003年に順位を落としました。
――PISAとは、どのようなものですか?
PISAは、経済協力開発機構(OECD)加盟国が実施する、子どもの知識・技能・問題解決力などを測る調査です。調査内容としては、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシー、問題解決能力にアンケート調査を行います。日本は、このPISA調査で順位が落ちたのは「ゆとり教育がだめだったんじゃないの?」ということになり、脱ゆとりに向かったんです。
その結果、2006、2009年と上がり続けて、2012年では韓国やフィンランドよりも上になりました。日本よりも上は中国の一部の地域だけ。ただ中国は国単位ではなく、香港、上海といったように地域単位で参加しています。PISAの調査結果では、総合順位で1位上海、2位香港、3位シンガポールときて、日本は4位です。しかし、人口数千万人を抱える規模の国の中では、日本は世界ランキングトップです。
――つまり、2012年の時点ですでに日本は世界ランキング1位になっていると考えていいのでしょうか。
その通りです。この結果から見ても、日本の義務教育は世界トップクラスだといえます。よく教育関係者の人が「日本の教育はダメだ。変えなければいけない」というけれど、僕からしたら「何を見てそう言っているんだ」と思います。
2020年の教育改革、変えるべきは義務教育ではなく「大学入試」
――文部科学省(以下、文科省)は、今回の教育改革についてどう考えているのでしょうか。
文科省が一番力を入れて変えなければいけないといっているのは、大学入試改革です。というのも、日本の大学の世界ランキングはどんどん下がってきています。
(※第16回QS世界大学ランキング2020)
なぜ大学のランキングが下がっているかといえば、大学生が未来を見定めて活動していないから。大学の講義では、1人の教授が言ったことを100人の学生がメモを取るスタイルがいまだに続いています。国際的に見てもこのスタイルで授業をやっている大学はありません。大学の学びのスタイルを根本から変えなければいけないというのが、2020年の教育改革の目的なのです。
――変えるべきところは、大学入試なんですね。
小学校、中学校と義務教育で基礎をつくり、そのうえで高校に進みます。本当は高校で応用力をつけるとさらに高い学力、ひいては生きる力がつくのです。しかし高校は大学入学のためにマークシート方式の受験に備えなければいけない。この大学入試改革をしない限り、せっかく伸びてきた学力が「試験に受かるための学習」になってしまうのです。
義務教育で基礎基本を徹底しているからこそ子どもの学力は向上する
――義務教育については、変える必要はなかったのでしょうか?
日本の義務教育は、世界に誇れるものです。文科省は、義務教育は変える必要がないと言っています。文科省の発言は過去のものをさかのぼっても同じで、一切ぶれていません。今回の改革では、英語教育とプログラミングが始まること、道徳が教科教育に追加されたことが大きな変更点ですが、基礎となる国語や算数、社会、理科などの基礎教科教育はそれほど変わりはありません。
――「日本の義務教育は詰め込み式だ」という批判もあります。
そんなことはありません。昔に比べれば子どもたちは学びに対して意欲的になっています。なかには「子どもが参考書を開いてもっと積極的に勉強してくれればいい」と思う親もいるかもしれないけど、それは期待しすぎ。親が「“積極的に勉強しないから”うちの子はだめだ」と落ち込んでいるだけじゃないですか? 僕が見ている限りでは、今の子どもたちは相当すごいと思います。なぜすごいのか。それは2003年から始まった義務教育における基礎基本の徹底があるからです。
――日本の義務教育の良さはどこですか?
基礎基本を徹底してやっていることです。基礎がしっかりできているからこそ応用問題になったときに学力が伸びるのです。お母さんたちは「教育改革」という言葉を聞いて「うちの子、大丈夫かしら」と思うかもしれませんが、心配する必要はありません。これまで通り、基礎をしっかりやっていけば大丈夫です。
取材、文・長瀬由利子 編集・しらたまよ