子どもが学習でスランプに陥ったらやることはひとつ!下の学年の勉強をしなおすこと
「今まで学校の成績もよく、子ども自身も勉強を楽しんでやっていた」という子でも、「スラスラ解けていた問題が、急にわからなくなった」「思うように成績が伸びなくなった」といったように、スランプに陥ることがあります。見守るママとしてはどうしたらいいのか心配になることも……。子どもが勉強でスランプになったときの対処法について、長年子どもの学習について研究されてきた、隂山英男先生に伺いました。
ホームランバッターだってスランプに陥る。学習においても対策は同じ
――「これまで学習意欲も高く、順調に伸びていた我が子が、急に簡単な問題が解けなくなる」というのはよくある話なのでしょうか?
はい、どんなに学力が高い子でも、スランプになることはよくあります。
スランプに陥ったときに大切なことは、基礎の基礎に戻ることです。たとえば、ホームランバッターがスランプに陥ったとき、彼らは何をするかといえば、素振りの練習ですよね。スランプに陥るときは、基礎がおろそかになっていることがあるから、基礎の基礎である素振りに立ち戻って、もう一度正しいフォームを確認します。
難関中学受験を前にスランプに陥った男の子……。彼がスランプ解消のために徹底したことは?
――勉強でスランプに陥った場合は何をしたらいいですか?
勉強もスポーツと一緒で、基礎学習つまり読み書き計算からもう一度やることが大切です。中学生であっても算数の基礎の基礎となる「百ます計算」にまで戻ってやってみるとか。
――「百ます計算」とは、10×10の最上部と左端の空欄のマス目に、数字を記入し、それぞれ交差するところに足し算や割り算などの答えを書く方式の計算ドリルですね。
そうです。計算する力は、スポーツでいえば基礎体力のようなものです。足し算、引き算、かけ算、割り算の四則演算を繰り返し練習することで、もう一度、基礎からしっかりと身につけることができるのです。
以前、あるお母さんから「息子がスランプで困っています」という話を聞きました。彼は難関中学校に合格するだけの実力があるのに、夏休みをあけたあたりから、今までだったら簡単にできていた計算問題ができなくなってしまったのです。休み明けにスランプに陥るのは、何も彼だけが特別なわけではなく、誰にでもあることです。
――その後、彼のスランプは解消したのでしょうか?
改善してきましたよ。それも徹底した基礎の見直しで。
僕がお母さんに、「百ます計算のドリルをやり直したんですか?」と聞いたんです。そしたらお母さんは「違います」と言うんです。「じゃあ、何をやったんですか」と聞いたら、「十ます計算のドリルです」とのことでした。「十ます計算」ドリルというのは、僕が「百ますドリル」の数を減らして1×10のますにした教材で、幼児用に作ったんですよ!
僕がお母さんに「なんで十ます計算のドリルまで戻ったんですか?」と聞いたら、「何を言っているんですか。“スランプに陥ったときこそ基礎基本に戻るべき。中途半端に戻るな。戻れるところまで戻れ”と言ったのは先生でしょう?」と言われました。確かに僕も「戻れ」と言いましたが、まさか彼らが幼児用ドリルまで戻るとは思っていなかったので、びっくりしました(笑)。
「下の学年の学習に戻るのは学力がないから」は勘違い。もっと気楽に戻っていい
――親や本人からしたら、「下の学年のことを勉強しなおすなんて恥ずかしい」という気持ちがあるのではないでしょうか?
先述のお母さんも同じことを言っていました。基礎学習に戻るということは、親からしたら「我が子はそこまで戻らないといけないくらい学力がないのか」と思って恐怖するそうです。しかし本来はもっと気楽に戻っていいんです。むしろ基礎に戻るのが鉄則なのに、「基礎に戻る=学力がない」と勘違いして気持ちにハードルを作ってしまっていると、ずっと苦しみ続けなければいけない。
そのお子さんはスランプから2週間ほどで元に戻り、成績が伸びて難関中学校に合格することができました。基礎の基礎まで戻って学習したことでかえって基礎学力がつき、おかげでラクに合格することができたのだと思います。基礎ができたら、難しい問題に多くの時間を使うことも減ります。
応用問題ばかりやっていると基礎が抜けてくるときがあります。その基礎を正すために、中高生になっても基礎の基礎に戻ることを忘れないでください。
取材、文・長瀬由利子 編集・しらたまよ イラスト・加藤みちか