息子の担任の先生が結婚。オランダの学校で驚いたこと
厳しいと評判の先生
ある年の新学期に、息子が異様に落ち込んでいたことがあります。新しい担任の先生は子どもたちの間で厳しいと評判で、その先生が担任にあたったのです。
息子は友達から、
「大変だね。悪いことをするとすぐ休み時間を減らされちゃうから、気をつけなよ」
と同情されていました。
筆者は当時オランダに住んでいて、子どもが通う小学校は女性の先生が圧倒的に多かったのですが、その先生は男性で年齢40代半ば。赤毛のひげを生やしていて、背は高くはないけれどがっちりとした体格で、怒るときの静かで低い声がすごく怖いと評判だったそうです。
授業中おしゃべりをやめないと、教室の後ろに連れて行かれ、一人隔離されてしまいます。ほかの先生の場合は、席を変えさせられて、おしゃべりしている子と離されるくらいなので、ワンランク上をいく厳しさのようです。
宿題を忘れたときに自分から申告しないと、減点。先生が聞いていることに返事をしないと、減点。細かいところにもよく目が行き届く先生のようでした。
先生の結婚
ある日、学校からその担任の先生がお休みするという事前のお知らせがありました。
「先生は、パートナーの○○さんと結婚することになったので、休暇を取ります」
私はパートナーの名前のところを何度も読み返してしまいました。典型的なオランダ人男性の名前だったのです。
「今度の担任の先生、怖いって言うけれど、でも細かいところまで目が行き届いて女性らしい先生じゃない? 前に担任だった女の先生の方が肝っ玉母さんというか、男気あったよね」
なんて夫と話していた筆者ですが、このお知らせには驚いてしまいました。
でも、ここはLGBTに寛容な国、オランダです。特別ママ友同士の噂のネタになることもなく、普通のお知らせとして受け取られていました。
クラスの役員のママが取りまとめ役となり、お金を集めて先生に花束を贈りました。挨拶にハグをする習慣がある母さんは、先生にハグしていましたし、完全に振る舞いが日本人の筆者のようなハグの習慣がない親は握手して、思い思いに「ご結婚おめでとうございます」を言いました。
子どもたちに対しては、先生自身から結婚の報告がさらっとあったようです。結婚相手が同性だろうが異性だろうが、学校生活には関係ないことでした。同性と結婚するのは普通のことで、なんでもないこと。筆者だけ過剰に反応してしまっていたようで、ちょっと恥ずかしくなりました。
実際にオランダに住んでいると、洋服屋の店員さんやレストランのウェイターさんなど、男性でも物腰の柔らかい丁寧な方が時々います。お客さんである筆者にしてみると、丁寧でよく気がついて、とても素晴らしいサービスを提供してくれるのですが、そういう方たちももしかしたら、担任の先生のような個性を持っている方たちなのかもしれません。そういう個性がむしろ素敵だな、と思った瞬間でした。
先生としても素晴らしかった!
その後、先生は幸せいっぱいな新婚生活で、生徒に対する厳しさも少し緩和された……ということは全くなく、面倒臭がり屋な息子は、
「ノートの書き方が汚い」
「宿題を丁寧にやらない」
「テストでケアレスミスが多い」
と再三にわたって注意を受け続けることになりました。
「一つ一つの課題をもっと丁寧に」
先生が息子に言っていたことは、基本中の基本で当たり前のことなのですが、それができない息子にしつこいくらい言い続けてくれました。
息子自身は先生に怒られるのが怖いから渋々やる、という様子でしたが、いつの間にか、宿題をやる前に計画を立てたり、やった後に見直したりすることを、自主的にやるようになりました。そうなるまでは本当に時間はかかったのですが、そこまで粘り強くフォローしてくださった先生は本当に貴重な、ありがたい存在だったと思います。
文・野口由美子 編集・山内ウェンディ