子どもは「思いやり」の気持ちを経験から学んでいく……。ひとりの男の子の決断が起こした”奇跡”
わが子には自分のことばかりでなく相手の気持ちを考えて行動できるようになってほしい、と考えるママは少なくないでしょう。ただ、親から子どもに他者への思いやりについて教えるとき、具体的にどのようにしたらよいか、わからないママもいるかもしれません。小学校の教員免許を持つ筆者が塾講師をしていたときも実際にご相談をいただいたことがありました。
思いやり行動は「正しいこと」や「すべきこと」とは違うため、教え方に悩んでいまいがちなのかもしれません。
思いやりを広めてくれた年長Aくんの事例
筆者が学習塾で子どもたちをキャンプに連れて行ったときのことです。冬の雪国に行き、雪あそびを満喫する2日間の旅。筆者は子どもたちのトイレサポートをしていました。
大人の判断が子どもにとって正解ではない!ひとりの男の子の決断が友達を救った
あるとき、Aくん・Oくん・Rくんの年長さん3人をトイレに連れていくことになりました。急いでそれぞれの帽子やウェアを脱ぐのを手伝い、なんとか皆、無事にトイレに入りました。ホッとしたのもつかの間、勢いよくドアが開きます。そして元気な声が響き渡りました。
「よっしゃ〜! でっかいゆきだるまのつづき〜!」
スッキリしたAくんは、早く雪で遊びたくてウズウズしています。驚くほどスムーズにウェアを着て自分の支度を整え、準備万端! 今すぐにでも遊びに行きたいAくんの
「まだ〜?」
が響きます。焦りながらもRくんが準備を終えたのですが、Oくんがなかなか出てきません。様子を見に行くと、どうやらOくんはお腹が痛い様子。Aくんが待ちきれずに今にも外に出ようとしている状況で、このまま待たせることは難しいと感じました。
「よし、Oくんは先生が助けるね。二人は先に雪遊び場に行こう!」
少し考えてそうと声をかけると、Aくんがじっと考え、こう言いました。
「いやだよ。おいていくなんて……! なかまだから、まつ!」
それを聞いたRくんは驚きの表情を見せましたが、そんな表情も一瞬で笑顔に変わり
「そうだね! まつ!」
二人ともOくんを待つことになったのでした。
思いやりを受け取れば嬉しい。一人の学びが皆の学びに
後からトイレから出てきたOくんはそれはそれは嬉しそう。3人揃って出発することになったときには、全員がほっこり笑顔でした。手を繋いで雪遊び場に向かう3人がまぶしく見えました。
思いやりが連鎖した!受けた優しさを周囲に伝えた子どもたち
さらにすごかったのは、その後です。Aくんだけでなく、RくんもOくんも、その後の活動で他の子どもたちに
「ここでまってるね!」
「みんなでいこうね!」
と積極的に声をかけ、子どもたち全体を優しい雰囲気に変えてくれたのです。年長さんが多い宿泊体験ではなかなか見られない光景に、筆者はとても驚きました。やってもらって嬉しかったことは、自分もしたいと思うのが子どもなのかもしれません。
思いやりの心は子どもたちの社会で育つ。答えを教えるよりヒントを
大人からの指示では“やらされ”感を感じることでも、子どもが自らの経験で学べばその後も自発的に行動できるようになっていくでしょう。大切な人だから大切にしたいと思えるし、大切にしてもらったから自分もしたいと思えるはず。子どもの周囲の大人たちは子どもに「こうあるべき」と伝えるよりも、子どもの自発的な考えや行動から逆に学ぶことができるのかもしれません。
筆者もわが子には「こうなってほしい」ではなく「●●ちゃんにこうしてもらえて、嬉しかったねぇ」「〇〇ちゃんにそうしてあげた△△(わが子)はとってもかっこよかったよ」などと、子どもたち同士の経験と紐づけて伝えるようにしています。大人が「すべき」だと感じることを子どもにそのまま教えるのではなく、あくまで子どもが思いやりをもちながら考えて行動できるようにすこしずつヒントを与えていくといいのかもしれませんね。
文・Nao 編集・しのむ