勉強嫌いの5年生Mちゃんが急に「中学受験したい!」と言い出した!両親の対応は……
筆者が学習塾で講師をしていた頃、お母さんからいただく相談の中に「子どもが急に受験したいと言い出したが、成功するとは思えない。大失敗して自信を失ってしまわないように、慎重に考えたい」というものがありました。
公立中学校に進学する予定だったMちゃんのお母さんが悩みを相談してくださったのは、Mちゃんが5年生を終えようとする2月ごろ。急に「受験をしたい!」と言い出したのだそうです。
子どものやる気を最初から否定してしまうと、後悔の元になる
今まで全く勉強してこなかったのに!?5年生の終わりに、「受験したい」と言い出した……
Mちゃんが「受験したい!」と言い出したとき、すでに受験まで1年をきっていました。それまで、あまり自主的に勉強するような子でもなかったことから、「無理なのではないか」とお母さんは伝えたそうです。しかし、Mちゃんはお母さんの意見に耳を貸さず、「やりたい!」の一点張り。受験をすると今から決めた場合に必要な学習量や、不利な状況であることなど、現状をわかっていないにも関らず、急に「受験がしたい」と言ってきたので、お母さんは不安になっているようでした。
通常、多くの子どもは中学受験をすると決めたら、早い子だと小学校2年生や3年生のうちから準備を始めます。志望校によって対策は異なるとはいえ、勉強に打ち込める時間が1年弱しか残されていない5年生の終わりの時期からスタートは、遅すぎると感じるのも無理はありません。今までも勉強を積極的にやってきたタイプではないため、基礎から学ばなければならないとなると、時間が足りないように感じます。また、今までが積極的に勉強をやるタイプではなかったことも、お母さんにとっては不安要素だったようです。
子どもの「受験したい」気持ちは尊重したほうがいい
子ども自身が受験へのやる気を示している場合、その気持ち自体は尊重してあげたいところです。有無を言わさず大人側が反対すれば「あのとき頑張っていれば違う人生を歩んでいたはずなのに……」と後々後悔してしまうケースもあると聞くからです。また、大人側が判断して受験を諦めさせると「私は勉強ができないんだ」と自身を失い、勉強に対し、苦手意識をつけてしまうことになってしまうこともあるかもしれません。
そこで、ご両親とMちゃんの意見を聞き、塾講師の立場で今の現状を伝える面談をしてみることにしました。
まずは子どもの前向きな気持ちに寄り添う
面談でわかった、Mちゃんの本心
Mちゃんの気持ちを確認したいと設けた面談で、初めて勉強に前向きに向き合えたMちゃんの熱い思いを聞くことができました。
『1月に算数のテストで高得点を取ったことをきっかけに、もっと勉強したいと思えるようになった。友だちが頑張っている姿を見て、頑張れば私も勉強できるようになるかもしれないと思えた。私には無理だと思ってきたことを、初めてやれるかも!と思えた。そう思えてからは、学校の授業も、塾の授業も楽しく、頑張れるようになった!』
確かにやる気になってから、Mちゃんの塾での様子に変化が見られ、勉強に対し自主性が見られるようになっていました。授業中もわからない問題があれば分かるまで質問して帰るなど努力しているようです。
なにより、受験について語るMちゃんの目は真剣そのもの。今回のMちゃんの気持ちの変化は、Mちゃんの学力を高める大チャンスかもしれません。
とはいえ、簡単ではない中学受験。1年弱の準備期間での受験の厳しさとリスクを伝え、家族会議をし決断してもらうことにしました。
家族会議を重ねMちゃんが出した結論は、中学受験を「しない」
家族で話し合った結果、出した答えは「中学受験はしない」だったようです。
受験の厳しさとリスクを考えると、不安が残るご両親をMちゃんは説得できなかったそうです。しかし、Mちゃんは「勉強が楽しみになった。中学受験はしないけれど、4年後に志望する高校に行くためにも、今から頑張る!」と前向き。子どもが勉強や受験に前向きなのときに、親が望み通りに応援してくれないと「どうして親のくせに応援してくれないの?」とやさぐれてしまう子もいます。どうしてMちゃんが納得して中学受験を諦め、しかも勉強に前向きに取り組もうとできたのでしょうか。
子どもの心に寄り添うことで、自主性とやる気を育める
Mちゃんが前向きに受験をやめることができた裏側には、ご両親の寄り添う姿勢があったようです。
家族会議では、ご両親が中学受験の可否を判断せず、あくまでも中学受験の現実と、公立中学に進学した後のイメージを伝えてあげたとか。
子どものやる気を親が決め付けて、気持ちをくじいてしまうのではなく、進みたい将来に向かって進めるよう、ご両親がとことん話し合ったようです。
それ以降、自分から自主的に勉強に取り組めるようになったMちゃん。しっかり親と話し合って「自分で決めた」ことで、自分の行動を振り返るきっかけになったそうです。
大人側ができる・できないを判断するのではなく、その子に寄り添う。そして現実を伝えつつも、子どもに判断させたことで、それまでの姿勢が変わった事例でした。子どもたちが「自分の力で前に進もう」とする力を伸ばすためには、子どもを導くのではなく、“一緒に歩む”姿勢をもつことが大切なのかもしれませんね。
文:Nao