放任とは異なる、アドラー心理学に基づく「賞罰のない子育て」とは? #アドラー式子育て術から学ぶ
ママが急いで出かけたいとき、子どもが靴を履かないから「○○してあげるから靴を履いて!」と言ったり、宿題をしない子どもに「宿題をしないと今日のおやつはなし!」と言ったりしていないでしょうか? アドラー心理学に基づく育児プログラム「パセージ」では、子どもを褒める、叱るなどの「賞罰」を使わない育児をします。どのように子どもにしつけるのでしょうか? 『3歳からのアドラー式子育て術「パセージ」』の著者である清野雅子さんと岡山恵実さんにお話を伺いました。
子どもを褒めたり、叱ったりしないアドラー式子育て
——アドラー心理学に基づく育児プログラム「パセージ」では、子どもを褒めたり叱ったりすることをしないそうですね。そうは言っても、叱らなければいけない場面はないのでしょうか?
岡山さん:アドラー心理学でも子どもをしつけしたいんです。子どもに自立してもらいたいし、社会と調和してもらいたいんです。アドラー心理学の言葉遣いをすれば、「責任を持って、社会に貢献する大人になってほしい」と考えているんですね。裏を返せば、社会的に反する行為、例えば、お子さんだったら電車の中で騒ぐ、物を盗む、友達を殴る、そういったことはしてはいけません。
ただそれを怒る、叩くなどの親の対処で子どもに教えると、親が怒らなければやっていいんだと思い、そういう行動を続けてしまうので、結局何のために適切な行動をしたらいいのか自分で考える心が育たなくなるんです。
罰をすると、ある子どもは親に反感を持ったり、ある子どもは消極的になったり、またある子どもはもっと反抗的になって違うことをするなど、副作用の方が大きいんですね。素敵なことをしつけるためには、叱るという行為で子どもに強制するのではなくて、子どもの話を聞くとか、どうすればより適切な行動ができるのかを”一緒に考える“というのがパセージの考え方です。
清野さん:もちろんパセージでもしつけたいんですよ。なんでもありは大反対ですから、人として、していいこと・いけないことを教えるために、賞や罰を使わないで勇気づけを使うということが私たちが提案する考え方です。なぜなら賞や罰は、副作用や良くない効果があるからです。
岡山さん:賞罰はコインの表と裏なのです。いいことをすれば褒める、悪いことをすれば叱ったり罰を与えるというのを続けていると動物の調教と同じなので、人参をもらえるからやる、もらえないからしないとなると、自分から行動しようと思わなくなってしまうんですね。
賞罰の唯一の利点は、短期的にうまくいくことですが、長期的に考えると多くの副作用があるということなんです。長期的に賞罰を使っていると、「私は能力がある」「人々は自分の仲間だ」という信念が育たなくなり(※こちらの記事参照)、ママは私を評価する人だと学んでしまうことがよくないと考えています。
「子どもと共に生きる」という心構えを学ぶ
——子どもを褒めたくなる場面も多々ありますが、そんなときはどうしたらいいのでしょうか?
清野さん:何か上手にできて子どもが喜んでいたら、一緒に喜んだらいいと思います、正直に。「よかったね、嬉しいね」というように、一緒に喜ぶというのは褒めるのとは違うと思うんです。私が上で子どもを評価する人、そういう心構えではなくて、子どもと一緒に並んでいて一緒に喜ぶというような、その心構えが大事だと思います。
岡山さん:アドラーが好んで使っていた言葉で、私の好きな言葉でもありますが「ミッドレーベン(ともに生きる)」というドイツ語があります。パセージでは「子どもと共に生きる」という心構えを学びます。子どもが喜んでいたら一緒に喜び、子どもが悔しがっていたら一緒に悔しがるというのが共に生きる仲間ですよね。だから、私が上で子どもが下、私ができている人で子どもができていない人という心構えで、「すごい」とか「えらい」という褒め言葉を使うと、子どもは「自分には能力がある」「親は仲間だ」とは感じないでしょう。
親の意識や心構えの問題だから、子どものよいところを見て、信頼・尊敬・感謝の心構えで、子どもと一緒に喜んでいる上での「素敵」、「素晴らしい」と言った言葉は、子どもが「自分には能力がある」「親は共に喜んでくれる仲間だ」と感じることができるでしょう。アドラー心理学に基づく育児プログラム「パセージ」においては、対処法とか技術ではなくて、子どもを見る目を変える、親の心構えを変えるのです。
『3歳からのアドラー式子育て術「パセージ」』
出版社: 小学館
定価:1404円(税込)
取材、文・山内ウェンディ 編集・横内みか