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定期テスト・宿題全廃、全員担任制。公立名門校の学校改革とは

pixta_32239784_M「番町小学校・麹町中学校・日比谷高校・東京大学」と、国公立エリートコースへの道として知られる公立名門校、千代田区立麹町中学校。2014年4月から着任した工藤勇一校長は、「定期テスト全廃」「宿題全廃」「全員担任制」などの新しい教育方針を打ち出し、実施しています。高校受験を控えた公立中学校、しかも名門校はなぜ教育改革を行ったのでしょうか。工藤勇一校長にその理由を伺いました。

「全国学力・学習状況調査」ではない新たな評価軸を作る

現在の日本の教育は、全国的に子どもたちの学力状況を把握する「全国学力・学習状況調査」が教育の中心となっています。「国語や数学のテストは何点だったか」ということを元に、生徒たちが学習の内容をどれだけ理解をしているかを評価します。この「全国学力・学習状況調査」を否定して、新しい教育の機軸を作るというのは、とても大変です。

僕がやろうとしていることは、この機軸をソフトランディングさせていくこと。つまり「全国学力・学習状況調査」の機軸を守りながら、現代にマッチした新しい教育の軸を作り、軸を移していくことが必要だと考えています。そのため、麹町中学校では以下のことを実施しました。
・定期テスト全廃
・宿題全廃
・全員担任制

定期テスト・宿題全廃、全員担任制を実施したワケ

「宿題もテストもなくて、生徒の学力は落ちないの!?」と思うかもしれませんが大丈夫です。それどころか、生徒たちは以前より高い学習意欲を持っています。

従来、中間と期末の定期テストは出題範囲を生徒に伝えて、そこから問題を作成していました。2018年度からはそれらの定期テストを廃止して、代わりに年3回だった「実力テスト」を年5回に増やしました。こちらは事前にテストの出題範囲がわかならいため、本当の意味での実力を試すことができます。

宿題についていえば、生徒たちがわからないところを自覚しわかるようにするためのものです。しかし、これまでのように一律に宿題を課すと、わかっている生徒にとっては無駄な作業をさせることになります。私の経験上、生徒たちは宿題の8割はやりますが、「難しい」「苦手だな」と思う2割のところはそのままにする傾向があります。教師も「8割できていたら良し」とします。これでは生徒の学力は伸びません。

全員担任制というのは、各学年に7人の担任をつけ、7人の教師で4クラス全員の担任という形のものです。チーム医療のように、教育もチーム体制にしました。ひとりの担任がマルチプレーヤーになるのではなく、それぞれの強みをいかすことで生徒一人ひとりに対してそれぞれの得意分野で子どもたちを見ていくことができます。また担任を固定しないことで、生徒自身も相談したい先生を自分で決めることができます。「全員担任制」を実施することで、生徒と保護者ともにより質の高いサポートができるのです。

学校は「人が社会の中でよりよく生きていける」ためにある

ところで、みなさんは学校がなんのためにあるか考えたことはありますか? 学校は人が社会の中でよりよく生きていけるようにするためにあると、私は考えています。その結果としてよりよい社会が作られるために必要なものです。そのために学校を作り、カリキュラムを作っています。文部科学省が定めている学習指導要領は、そのカリキュラムをコントロールするもののはずなのに、今の学習指導要領はカリキュラムをこなすことが目的となってしまっています。

日本の教育は、百何十年も前から教科をただひたすらこなすことが目的になってしまっています。今の学習指導要領には、「言語活動の充実」という言葉が書いてあります。僕からしたらあれは笑い話です。なぜなら、言語活動を充実させるためにカリキュラムを作ったのに、それをコントロールする学習指導要領に「言語活動の充実」と書いてある。ということは、今の学習指導要領は「形骸化してますよ」ということになるのです。

江戸時代では「読み書きそろばん」が最先端教育だった

学校の機能で注目すべきポイントは、「教える内容」「教え方」「学び方」です。江戸時代までさかのぼるとすごくわかりやすいです。寺子屋をイメージしてみましょう。

カリキュラムはその当時の最先端の初等教育、読み書きそろばんです。学び方は一斉授業型ではありません。子ども同士が学び合うスタイルでした。人が人とつながり、人が社会とつながる。そこにコミュニケーション活動と経済活動が起こる。読み書きそろばんは、そのための大事なカリキュラムであり、学び合いというスタイルだったわけです。

当時はそれでよかったかもしれませんが、今社会で求められるスキルは100年前とは明らかに違ってきています。100年間も変わらなかったカリキュラムを、現代にマッチしたものに変える必要があるのです。

一斉授業型から双方向への学びに転換

もう1つは、一斉授業型ではなくて双方向の学びが大事です。なぜなら教育を行う真の目的は「人と人がつながり、人と社会がつながるため」のものだからです。先生から生徒への知識の伝達というのは、本当の学びには適していないのです。しかし、僕ら教師も、お父さんお母さんたちも、長年自分たちが受けてきたこの教育が染みついています。

僕がやっていることは、この長年染みついた教育についての考え方を拭い去ろうという作業なのです。どこかの国と比べているわけではありません。本質を見極めて、「僕たち大人に染みついている教育についての考えをぬぐいさる作業をみんなでしませんか」ということを提唱しているのです。学校は現代にマッチしたカリキュラムを作り直すことが必要です。相互型学習を行うことが必要なのです。

ただ、今の文部科学省が教育を一変して相互型学習に移行できるかというと、たぶんできないと思います。なぜなら、かなり強固にカリキュラムが決まってしまっているからです。だったら、これまで教育の機軸としてきた「全国学力・学習状況調査」のほかに、もう1つ新しい軸を作り、軸が移っていくような学校を増やしていくことが大事です。

取材、文・間野由利子  編集・山内ウェンディ

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