茂木健一郎×小幡和輝:「学校に行きたくない」子どもに対する“親”としての選択肢
「学校に行きたくない」
子どもがそう言い出したら、皆さんはどうしますか? 「自分の子は大丈夫」と思っているママは少なくないかもしれません。しかし不登校児の数はここ数年で増えているそう。実際に自分の子どもが不登校になったら、親としてはどう対応すればいいのでしょう。
そこで「不登校」をテーマに、脳科学者の茂木健一郎さんと、不登校を経て現在は大学生起業家として活躍する小幡和輝さんにお話を伺いました。
脳科学者として活躍されている一方、不登校をテーマにしたイベントなどにも登壇している茂木さんと、10年間の不登校経験から現在学校に行けない子どもたちをサポートするプロジェクトを立ち上げている小幡さん。科学の面と経験談から、不登校に対する親の関わり方を聞いていきます。
学校に行きたくない理由は「なんとなく」
──子どもが「学校に行きたくない」と言ったとき、親としてはその理由が知りたいと思うんです。まずは不登校の経験がある小幡さんが学校に行けなくなったきっかけを教えてもらえますか?
小幡和輝さん(以下、小幡):何か明確なきっかけがあったわけではないんです。不登校になった小学2年生当時の感覚では、“なんとなく”行きたくないと思っていて。休みがちになると、学校では「ズル休みか」って少しずつ同級生からいじめられるようにもなり、そこから本格的に行かなくなりました。
──“なんとなく”というのは、学校の空気感に馴染めなくて、という感じですか?
小幡:そうですね。たとえば、勉強よりもっと興味があることがあるのに今は算数をやらなきゃいけないとか、組みたくもないのにグループを組まされるとか……そういう自分の意思と違うことをやらされることに違和感があったんです。でも当時はそんな気持ちを言語化できなくて“なんとなく”と感じていました。
茂木健一郎さん(以下、茂木):でもそういう感性を持っていたって立派だと思うよ。それに、ラクしたいから学校に行かないんじゃなくて、他に学びたいこととか熱中したいことがあったんでしょ?
小幡:はい。僕のところに相談に来る子も、なんとなく学校に行きたくないと思っている子が多いと感じています。
──とはいえ、親としては“なんとなく”では納得ができないと思うんです。小幡さんは、ご両親とどんなお話をされたのですか?
小幡:毎朝ケンカしていましたね。僕が「学校行きたくない」の一点張りで、親に「なんでだ、行け」と怒られる日々。行きたくない理由は「なんとなく」だけど、「なんとなく」なんて答えたら怒られるのもわかっていたので、全然違う理由を作っていたときもありました。
──何か理由があるのでは、と考えますよね。
小幡:行かないと怒られるから無理して登校することもあったんですが、親が仕事に行かなきゃいけない時間まで粘って休むことが多かったですね。結局親が仕事から帰ってきたら怒られるんですけど。そうしたやりとりが3か月くらいは続きました。
最終的には、それまでで一番大きなケンカをしたことで「本当に学校に行きたくない」気持ちをわかってくれたのと、同時期にいとこも学校に行かなくなったこともあって、親も無理に学校に行かせることは諦める結論に至ったんです。
茂木:親としては何か原因があって学校に行きたくないんだから、それを解決すればいいと思っているケースは多いですね。だけど、そのアプローチは間違っています。
親としての正しい対応は、子どもに充実した時間を持たせること。学校に行かなくても、充実した時間を持てていたら良いんです。それで脳は成長するんだし。
──学校に行く、行かないで揉めているときの脳は停止しているようなものなんですか?
茂木:そう。本当にもったいない。それなら「行かない」って決めて、ゲームなり読書なり勉強なり、とにかく“楽しい”時間を過ごさせたほうがいい。楽しいからってサボっているわけじゃなくて、子どもはそこで学んでいるんです。学ぶって学校の教科からだけじゃないんですよね。
親の役割は、無理に学校に行かせることではなく、子どもと社会をつなげること
──では「学校に行かない」ことを選択したときに、親はどうしたらいいでしょう。
小幡:僕の経験でうれしかったことは、親が適応指導教室という学校以外のコミュニティを見つけてくれたこと、自分の好きなことやらせてくれたことです。僕はゲームがすごく好きなのですが、当時は自分でボードゲームを作っちゃうくらい没頭していました。
茂木:それ、すごく重要。ユーザー側じゃなく作る側になるところ。ゲームばかりしているのを怒るんじゃなくて、そのゲームを作ったときに「こうしたらもっと発展するんじゃない?」とか「商品化できるんじゃない?」って言ってくれるようなメンター(助言者)がいたら、子どもの能力はもっと伸びるんだと思う。
──では親としては、コミュニティやメンターと子どもをつなげる役割を担っていくといいのかもしれませんね。
茂木:それは大事ですね。そうじゃないと自己流で閉じこもってしまいます。たとえば、将棋が強い子なら奨励会っていうプロ棋士が集まるところに行かないと、お山の大将になっちゃう。今は検索すればいろんな情報が出てくるから、親が子どもとコミュニティやメンターをつなぐことは昔よりも簡単だと思います。
小幡:あと、ひとりにならないことも大事です。不登校の子どもとよく話すのですが、なかにはひとりきりで引きこもっていたから笑い方がわからなくなってしまった子もいます。僕の場合は、同じ時期に不登校になったいとこのお兄ちゃんと遊んだり、適応指導教室に通ったり、自宅以外のコミュニティや関わり合いがありました。子どもの選択肢を増やすサポート役を親御さんが担えるといいのかもしれませんね。
何かにとことん熱中し続けることが成長に繋がる
──でも、正直「家にこもってゲームに熱中している」と聞くと不安になる親御さんもいると思うんです。小幡さんは「やめろ」と言われたことはありませんでしたか?
小幡:幸い、そういうことはありませんでした。ゲームをきっかけに、自分の世界が広がった部分もあるんですよ。例えば、ゲームの全国大会に出たり、ゲームがきっかけで友達ができたりもしていたんです。
茂木:それはいい。脳は褒められたり、ライバルと競争したりすることで成長します。うれしいときに脳から出るドーパミンという物質は、越えなければならないハードルが高ければ高いほどよく出るんです。
小幡:当時の経験や培った価値観は、今にも活きていると感じます。ゲームであれ、学校に行かない時間に何かにとことん熱中し続けることは重要だと思いますね。
茂木:学校に行かないことって、決してラクしているわけではないんだよね。やりたいことをするのにも大変なことだってある。必ずハードルにぶつかるわけです。でも自ら課題を見つけて改善しての積み重ねの中で、子どもは成長していきます。
小幡:子どもとしては、親が自分の好きなものに興味を持ってくれたり、ちゃんと理解した上で「すごいな」と褒めてもらえたりすると、すごくうれしく思いますね。
──親も一様に「ゲームだから」と不安になることはないわけですね。
茂木:最近はeスポーツなど、ゲームの概念も変わってきていますしね。実は子どものほうが時代の最先端を知っています。でも親はそういう世界を知らないことが多く、自分たちの時代の価値観や過去の経験を子どもに押し付けようとしがちです。子どもが見ているものがリアルな「いま」であって、「未来」なんです。親が子どもに教えてもらうという姿勢も大事だと感じますね。
コミュニティは自然に広がる。まずは家庭に安全基地を
──では最後に、お子さんが不登校だったり、そうなってしまったらと不安に思うママスタ読者の方にメッセージをお願いします。
小幡:「学校に行きたくない」と子どもが言った後の対応がすごく大事だと思います。100%正しい対応マニュアルはないですが、僕がいろんな不登校の子どもたちと会って大事だと感じたのは、学校以外のコミュニティの存在と、子どもの「熱中できるもの」に対する親御さんのサポートです。何かに熱中できればコミュニティは自然と広がっていきます。今はSNSもありますし、正しく使えばそこからコミュニティを深めていくこともできる。その気になったら、子どもは意外と自ら飛び込んでいけるものなので、見守っていてほしいと思います。
茂木:親御さんには、子どもにとっての「安全基地」になってほしいです。どんなことがあって、学校に行かなくなったとしても、その子を受け入れる。絶対に否定しちゃダメです。子どもなりに、よほどのことがあって行かなくなっているわけですし。子どもが学校に行かなくても安心できる学習支援をしてあげるといいと思いますね。学校を行かないことを前提に、いろいろと考えてあげてください。
【茂木健一郎プロフィール】
茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)/脳科学者1962年10月20日東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程終了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を出て現在に至る。専門は脳科学、認知科学。
「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。2005年「脳と仮想」で、第四回小林秀雄賞を受賞。2009年、「今、ここからすべての場所へ」で第12回桑原武夫学芸賞を受賞。
【小幡和輝プロフィール】
小幡和輝(おばた・かずき)/地方創生会議 Founder
1994年、和歌山県生まれ。約10年間の不登校を経験。当時は1日のほとんどをゲームに費やし、トータルのプレイ時間は30000時間を超える。
その後、定時制高校に入学。さまざまな経験、人と出会い人生が大きく変わり、高校3年で起業。和歌山を拠点に、商品開発、イベントやプロモーションなどを企画。
最近では47都道府県すべてから参加者を集めて、世界遺産の高野山で開催した「地方創生会議」がX(旧Twitter)のトレンド1位に。和歌山市観光協会のアドバイザーも務める。GlobalShapers「世界経済フォーラム(ダボス会議)が認定する世界の若手リーダー」に選出。2017年11月初の書籍となる「不登校から高校生社長へ」を出版。X(旧Twitter)は@nagomiobata
取材、文・友井夏凪+YOSCA、企画編集・FIREBUG 写真・栗原洋平