アナウンサーから福岡市長に。小さな声にこそ耳を傾ける【福岡市・高島宗一郎市長 第4回】
前回からの続き。子育て支援、若者や子どものサポートに力を入れる福岡県福岡市。市長の高島宗一郎さんは、「学生のころから政治家を目指していた」と語ります。政治家を目指しながらも、最初に就職したのは地方キー局のアナウンサーでした。一見遠回りに見えるアナウンサーを経由して福岡市長になったワケとは? また市民との交流を通して「小さな声にこそ耳を傾けたい」と思った理由など。子育て支援につながる原点を語ってくれました。
パレスチナのパスポート問題で知った日本との差
――高島市長は地方局のアナウンサーとして活躍されていました。市長選挙に出てみようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
高島宗一郎市長(以下、高島市長):きっかけは、学生時代に中東のパレスチナを訪問したことですね。初めての中東訪問でしたが、多くの人が日本の中東支援や文化、歴史に対して敬意を示し、熱烈に歓迎してくれました。
そのとき、パレスチナでは歴史的な問題からパスポートを取得することができない人がいるのだと知りました。この事実を知ったとき、自分が「自由に世界各国を訪れることができるのは当たり前」ではなく、「先人が築き上げてきた各国との信頼関係があってこそ」なのだと気がついたんです。この中東での出来事をきっかけに、「日本と生まれ育ったふるさとをもっと発展させるため、政治家になろう」と決意しました。
――政治家になりたい場合、まずは議員秘書などを目指すことが多いと思います。なぜアナウンサーを経由したのでしょう?
高島市長:一言でいうと「選挙に強い政治家になる」ためです。政治家になっても選挙に弱ければ、次の選挙のために様々な関係者に気を遣うことになります。その結果、政治家としてのほとんどの時間を「選挙運動」に費やすこととなり、本当に必要な改革ができないと思ったのです。
そこで自分ひとりでも選挙で戦えるよう、多くの人に自分自身を知ってもらえる職業であるアナウンサーを目指しました。アナウンサーは自分で課題を設定して取材し、多くの人に伝える仕事ですから、政治家になったときに必要な力も身につくだろうと思いました。
――36歳の若さで福岡市長に初当選しましたが、出馬にはどんなきっかけがあったのでしょうか?
高島市長:直接のきっかけは「市長として立候補したらどうか」と声をかけられたことです。当初は国政に出ようと思っていたのですが、最速で国を変えるためには、まずは地方自治体がそれぞれ個性を光らせて輝くことが大事なのではないかと思いました。アナウンサーとして13年間、朝の情報番組で福岡市の魅力を伝え続けてきたことともつながり、市長に立候補するという決断が、ストンと腑に落ちたのです。
小さな声ほど耳を傾ける必要がある
――高島市長は多くの市民の方とも交流していますね。インスタグラムなどでも、市民の方が高島市長と一緒に撮った写真などをたくさんアップしています。
高島市長:アナウンサーをやっていたこともあり、市民の方から「一緒に写真を撮ってください」と声をかけられますね。特に、子どもとは意識して写真を撮り、話をするようにしています。私自身、子どものころに有名な人と撮った写真やかけてもらった言葉は大きくなっても記憶に残っていて、自信につながりました。自分がたいそうな人物だと思っているわけではないのですが、私と写真を撮ったこと、話したことで、今の子どもたちが、少しでも自己肯定感や自信を持つきっかけとなればと思っているからです。
――住民の方と話す際に心がけていることはありますか?
高島市長:常に明るく前向きな言葉をかけることです。街の空気を変えていくのもリーダーである市長の仕事のひとつなんですよね。会う人をもポジティブにする明るさとか元気さはすごく大事だと思います。
――市民との交流で、とくに記憶に残っているエピソードはありますか?
高島市長:初めての選挙のとき、中学生の女の子が応援のためのメッセージを書いて渡してくれたんです。選挙権があるなしに限らず、あらためて市民一人ひとりの意見を聞くことの大切さを実感しました。
また団地に住んでいる1人の高齢女性の方が、私の姿を見たときに駆け寄ってきて涙ぐみながら握手をしてくれました。選挙が終わったばかりのころでしたので、福岡市長になった私に対して、いろんなことを期待されているんだろうなと感じましたね。中学生の子も高齢女性の方も、普段は自分から声をあげる人ではないのかもしれません。だからこそ、声をあげない市民の方の話も聞いていく必要があると感じました。
ママたちへメッセージ
――最後にママたちに向かってメッセージをお願いします。
高島市長:今回ご紹介したように、実は行政でいろんなサービスをおこなっているのですが、利用されてない方も多いのではないかと思います。私たちもできるだけ分かりやすく発信していくように頑張りますので、是非、気軽に利用してもらえるとうれしいです。
また、「自分がやらなきゃ」という責任感で、負担を背負いこんでしまっているママやパパもきっとたくさんいるのではないでしょうか。子育ては社会全体でしていくべきことですので、気負わず、もっと自分を甘やかしてもいいのではないでしょうか。
これからも、子育てに奮闘するママやパパに、しっかり寄り添い、社会全体が子育てを応援する、そんな街に福岡市をしていきたいと思います。
取材、文・長瀬由利子 編集・荻野実紀子 イラスト・マメ美