<発達障害のお仕事・第5回>障害者雇用のこれからと、困りごとを抱えての就労で知っておきたいこと
発達障害などで日常的に困りごとを抱えている子どもたち。そのような子どもたちのママにとって、わが子が将来社会に出て働くことに対する不安や疑問なども多いことでしょう。
そこで今回は、困りごとや生きづらさを抱える人たちと企業をつなぐ支援機関「株式会社 vulnerable(以下・バルネラブル)」の代表の山﨑さんと、三浦さん・江口さんのお三方に、障害者雇用や就労支援などについて伺いました。
第5回は、障害者雇用のこれからについて、お聞きします。
個人差が大きい特性。どこまで就労先に配慮を求めていい?
——自分から困りごとやわからないことを発信していくことが大切とのことですが、個人差も大きいですよね。働く上で会社側にどこまで配慮を求めていいものでしょうか。
江口さん:どこまで配慮を求めるかどうかの線引きは、「仕事のパフォーマンスを上げるために必要な対処であるかどうか」と考えてみるといいかもしれません。
音に敏感であれば、ヘッドフォンや耳栓を使わせてほしいという配慮を希望してみるなどは、かなりの会社が「全然構いませんよ」とおっしゃるケースが多いと思います。
一昔前に比べると、配慮してほしいことなどは言いやすくなっていると思います。ダイバーシティ(※)が進められているおかげで今は、障害がある・なしに関わらず従業員に配慮していく風潮が広まってきています。
——配慮を求めてもダメだったケースはありますか?
江口さん:職場の環境によって、どこまで応じてもらえるのか、受け入れてもらえるのかはまちまちですね。
私が就労支援をしていた方に、痰の吸引をしないといけない人がいました。この方は吸引をするためのスペースを求められていたのですが、ある会社はNGでした。もちろん生活する上で絶対に必要なことですから、救護室などの利用を許可してくださる会社もあります。配慮の判断は、会社によって本当にいろいろです。
——ほかに、これはまずNGになるというような要望はありますか?
江口さん:本人の社会性に関する要望は受け入れられないことが多いですね。たとえば、「私はこのタイプの方が苦手だから一緒に仕事ができません」「ミスしたときに指摘されると落ち込むので、指摘はしてほしくない」というような要望です。このような社会性に関わる部分で会社に配慮を求めすぎると、会社側は敬遠してしまう場合が多いので要注意ですね。
就労する上で求められる「社会性」の大切さ
——障害のあるなしにかかわらず、就労する上で社会性は大切ですよね。しかし社会性の部分に問題を抱えている方も多いような気がしますが……。
江口さん:第3回でも出ましたが、障害者雇用の採用は人柄が重視されます。そして社会性。会社側も社会性をある程度持っている方を採用したいのが本音でしょう。もちろんコミュニケーションがすごく難しくて困っているという、当事者の方々の気持ちもとてもよくわかるのですが……。
やはりお金をいただいて働くわけですから、自分が好きな人とだけ関わることはできません。周囲の人と協力して仕事を進めていかないとならない、ひとりでは仕事はできないということは、覚えておきたいですね。
また、当事者の方だけではなく、周囲の人も一緒に気持ちよく働けないといけません。そうでないと良い雇用は続いていかないのではと私は思います。ですから、社会性の部分に関しては大変ですが、最低限のマナーなどは、当事者がある程度頑張って身につけていかないといけないことだと思いますね。
障害者雇用の現在・これからと、情報を得ることの大切さ
——行政がおこなう支援以外に、就労支援をおこなう民間の企業は今後も増えていくと思われますか?
山﨑さん:今後増えていくと思います。しかし増えていっても、質の良さはまた別の問題です。親御さんや当事者が就労支援を行っている機関の質をしっかりと見極めることが大事です。
——情報の見極めについては、子育てをしているママたちは何度も壁にぶつかっていると思うんですね。就労支援に関する正しい情報はどこで得られるのでしょう。
江口さん:顔が見えて関係性が作れるところに相談することが、一番確実で正確な情報をキャッチしやすいのかなと思います。今はネットでもかなりの情報が手に入りますが、「障害者 就労支援」と検索した結果のどれが信憑性のある情報なのか、すごくわかりにくいですよね。だからこそ、顔の見える関係性をオススメしたいです。
具体的な場所を挙げると、自治体が設置している就労支援センターや障害者就業・生活支援センター、地域の発達センターや保健所、同じような悩みを持っている親の会などです。
——ネットだけに頼らないことも必要ということですね。わかりにくい部分も多いですが……。
三浦さん:そうですね。特に、「就労支援体系」はわかりにくいのではないでしょうか。福祉制度では18歳以上では成人として扱われるため、戸惑われる親御さんが多いと思います。子どもの頃から成人後、親亡き後を考えて情報収集していくことが大切です。そのためには我々のような機関も活用していただけると良いと思います。
親亡き後の問題について
——障害を持つお子さんのママたちが一番心配することかもしれませんが、自分が亡くなったあとも就労支援は継続してもらえるのでしょうか。
江口さん:就労支援は親御さんではなく御本人への支援ですから、必要とされる限り支援は継続可能です。親亡き後の心配は尽きませんし、ぜひ早いうちから親御さんやご家族以外の応援団をたくさんつけていただきたいですね。
山﨑さん:就労支援機関にもよりますが、生活や医療の支援機関への適切なパイプを持っていることが多いんです。当事者が就労支援を利用していて、親亡き後に困っていることが起これば、相談さえしてくれれば他の機関につないでいくことも可能になります。またひとつつながれば、その先へさまざまなパイプをつなげていくこともできます。
就労支援を利用することで障害者雇用の未来は明るくなる
——今支援をお願いしているところに、違和感を覚えたり合わないと感じたりしたら、別の支援機関に変えてもよいのでしょうか?
山﨑さん:私は変えることをオススメしたいですね。利用しているなかで変えづらいと思うことはあると思います。でもそれはご本人のためにはならないですよね。変えてみてそこで新たに動き出すことも必要かなと思います。
三浦さん:支援する会社によって対応もまちまちなので、ご自身にあった所を利用することがポイントになりますね。自分にあった支援が受けられれば働くモチベーションにもつながりますし、会社側にも変化が起こることが多いんです。何が適切かの判断は難しいですが、それでも適切に利用することが大事です。
(編集後記)
就労支援について不安や戸惑いなどさまざまな感情があるでしょう。しかし就労支援は決して子どもたちの未来を暗くするものではなく、歩む道を照らしてくれる明かりになってくれるのかもしれません。
就労支援を利用しながら自分たちに合った支援はなにかを考えることも可能です。未来の選択肢を増やすためにも就労支援について早い時期から親子で話し合ってみてもいいのかもしれませんね。
取材、文・櫻宮ヨウ 編集・しらたまよ イラスト・Ponko