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娘が息子になる驚き。戸惑っていた親が応援してくれるようになるまで【性の多様化・第4回】

04前回からの続き。トランスジェンダーであることを公表している、なでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)の元選手3人で結成した「ミュータントウェーブ。」。今回はご家族についてお話を伺います。まずは皆さんのご家族との関係性をお聞きしました。

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悩む姿を見せるくらいなら、はっきり口に出してほしい

──それぞれ親御さんとの関係性はいかがですか?

おおちゃん(以下、おおちゃん):僕の場合はもともとオープンにしていたので、中学生でそんな話をしたときに、母には「人生は一度きりだから後悔しないように生きなさい」と言われました。ただ父は、あえて何も言ってこなかったです。男社会で生きていてその大変さがわかっているので、僕の将来に対する不安もあったのだろうと。それに父にとっては“娘”として生まれてきた子なので、「今はこんなことを言っていても、いつかは戻るんじゃないか」みたいな思いもあったみたいです。でも僕が治療を始めてどんどん変わっていくなかで、父もどこかで踏ん切りをつけたのだと思います。手術に行くときの送り迎えもしてくれました。

──ごきょうだいはいかがですか?

おおちゃん:妹も兄も、普通に友だちやパートナーに話をしています。うちはみんなで協力的にやってきたところはありますね。あ、でも一度母と「なんでこんな身体に生んだんだ!」みたいな、ケンカはしたことがあります。母は「知らないよ!」なんて感じの反応でした(笑)。自分の育て方が悪かったのではないかとか、お腹のなかにいるときにホルモン異常があったのかとか気にするお母さんは多いと思うんですが、うちの母からは「痛い思いをして産んだんだから、こっちのほうが感謝してほしいくらい」と言われました。

まささん(以下、まさ):その話を聞いたとき、すごくカッコいい返しだなと思いました。

おおちゃん:僕の家は全部ストレートなんですよ。でも親があれこれ悩んでいる姿を見るよりは、はっきり言ってくれたほうが気楽かな。

あさひさん(以下、あさひ):うちはいろいろな意味で放任主義の家庭なんです。なんでも「好きにどうぞ」という。だから僕も基本的に相談しないし、いつも結果だけを伝えます。こういう生き方をすることになったときも「あ、そうなんだ」くらいの驚きはあったでしょうけど、それを僕に見せることはなかったです。後で「治療したあとに名前は変えるのかな?」と言っていたとか、姉からちょこちょこ話だけは聞いていましたけど。今はこの活動もすごく応援してくれています。ただ、仲のよいママ友にはありのままを話していたみたいですけど、それほど親しくないママ友には「どうすればいいのかな?」みたいな戸惑いもあったとか……。それは申し訳なかったなと思います。

──親御さんが悩んでいる姿は見たことがない?

あさひ:何かを言われたこともないですね。「人に迷惑をかけないのなら、好きなように生きなさい」と。放任主義に感謝です(笑)。

まさ:うちの場合は親父に、はっきり言われました。「俺には理解できない」って。僕の逆パターンのいわゆるオネエタレントと呼ばれる方なんかは、テレビで目にしているから「あれはわかる」と。でもこっちは「理解できない」と。母親はやっぱりすごく悩んだみたいです、僕は直接言われていないですが、姉から「育て方が悪かったんじゃないか」と悩んでいたという話は聞きました。自分を責めたと思いますし、何が違ったのかとめちゃくちゃ悩んだようですし。でも今僕らがこういう活動をしながら自分らしく生きられている姿を見て、理解まではできなくても、「楽しくやっているのなら」と応援してくれています。
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──お母さまが悩まれているようなときに、何かお話はされましたか?

まさ:いや、あまり話したことはないですね。ただこの活動のなかで一度成人式関連のイベントをしたときに、成人式をまともにしていなかったこともあって、僕が3人を代表して動画を作ったんです。そのとき初めて母親に、手紙を通してではありましたけど、気持ちを伝えることができました。20代の頃はいっさいそんな話をできなかったのですが、今になってようやく少し話せるようになったかなと。

「振り返ってみれば、そうだった」

──親が違和感に気づくのは、どのタイミングなんでしょう? 皆さんの場合はいかがでしたか?

おおちゃん:この前聞いてみたんですが「今思えば……」という感じのようです。「そういえば持ち物は”青や黒がいい”って言っていたよね」とか。でも、「だからそうだ」という発想には結びつなかったようですね。

あさひ:うちも似たようなことは言っていました。「今思えば、たしかに褒められるときは“かわいい”よりも“カッコいい”と言われたほうが喜んでいたね」みたいな。カミングアウトしたときも、「たしかに女の子らしい生き方は好んでいなかったっけ」と。

まさ:「言われてみれば」というような場合が多いんじゃないのかな。

どうにもできないことだから受け止めるしかない

──お母さまにカミングアウトされたのは、いつでしたか

あさひ:僕は高校3年生のときですね。

まさ:僕は19〜20歳くらいです。

おおちゃん:僕は小学生のときです。

──心の準備ができていたかどうは別として、それぞれがなんとなく気づいていたところはあるのかもしれませんね。

おおちゃん:「何を言ったって、もう(心の性を)変えられないじゃん」と言われたことはあります。「トランスジェンダーで生まれたいと思ってきたわけじゃないじゃん」って。実際、誰にもどうにもできないことなので。

まさ:僕のところもそうでした。親父は結局理解はできなくても「手術をする」と話したときに、「どうせ止めてもやるんでしょ」と言われましたから。

編集後記

子どもからのカミングアウトを受けて、そんなに驚いた様子を見せなかった親御さん。逆に、驚きとともに「理解できない」と率直に伝えてくれた親御さん。家庭での受け止め方はそれぞれですが、わが子を思う親御さんの気持ちは共通していることがよくわかるお話でしたね。子どもが成長し、生き生きと過ごす姿を応援する。それはわざわざ言葉にしなくても、「あなたのことを受け止めている」というサインなのかもしれません。さてインタビューも次回がラストです。「もしかして?」と思った場合、親はどんな対応をすべきかをお聞きしました。

第5回へ続く。

取材、編集・Natsu 文・鈴木麻子 イラスト・よし田

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