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カミングアウトをするのかしないのか。就職活動時の苦悩【性の多様化・第3回】

03前回からの続き。元なでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)のサッカー選手であり、トランスジェンダーという共通点を持つ3人組YouTuber「ミュータントウェーブ。」。今回は周囲の人へのカミングアウトについて、さらに就職活動にまつわる苦労などをお聞きしました。

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カミングアウトを後悔せずいられるのは、人に恵まれたから

──カミングアウトについてお聞きしたいです。皆さん公表されているわけですが、実際のところどうお考えですか?

おおちゃん(以下、おおちゃん):人によるのかなと思います。ただ日本では生きていくうえでジェンダーは何かしら付いてくるので、カミングアウトしているほうが過ごしやすいのかなと。余計なトラブルや、嫌な思いは避けられる気がします。

あさひさん(以下、あさひ):僕の経験でいえば、カミングアウトしたことがアウティング(※公表していない性自認・性的指向を、本人の了承がないまま第三者に伝えること)につながった過去もあるので……。当時つきあっていたパートナーが周りから無視されるようになったりと、ジェンダーを伝えることをネガティブに考えた時期もあります。ただその結果、今は「自分はこうで」という話をいちいちしなくても済むという、よかった面もあって。自分を表現できる場を作る意味でも、カミングアウトは必要だったのかなと思います。

まささん(以下、まさ):言うのも言わないのも本人が決めることなので、どっちでもいいかなというのが正直なところですね。ただ過ごしやすさという点では、カミングアウトできていたほうがいいかなと感じるのはたしかです。

おおちゃん:難しいな。僕らの場合はカミングアウトして、周りの反応が悪くなかったんですよ。でもそれで差別されたり友だちが一切いなくなっちゃうような経験をしていたら「カミングアウトしないほうがいい」という答えになると思います。

──伝える相手は選びますか?

まさ:選びます。

おおちゃん:僕の場合は、友だちに伝えたことで離れるのならそれまでの関係だなと思っていたので。あとは自分のなかで、カミングアウトすることで関係性が壊れていくイメージがあまりなかったんですよ。

あさひ:僕の場合は相手を選んでいたつもりだったにも関わらず、結果そういうこと(アウティング)になりました。僕はアウティングがあったけど、結果的には関係が変わらなかった人のほうが圧倒的に多いです。僕たちは本当に人に恵まれたなって思います。

面接なのに仕事のアピールができない!就職活動の苦労

──社会人になってからのことについてお聞かせください。例えば就職活動で、困った経験などはありますか?

おおちゃん:僕はサッカー引退後に就活を始めたんですが、ホルモン治療を始めて男性化している途中だったんです。女性の戸籍を持っての就活なので、履歴書の時点で「どういうことですか?」と絶対に聞かれますよね。相手にトランスジェンダーの知識があればまだいいものの、そうじゃない場合もある。「好きになるのはどっちですか?」とか、仕事の話をせずに終わることも多くて。「社内では他者と協力関係を築く必要があるから、あなたがトランスジェンダーとわかったときに信頼関係が壊れる可能性がある」と、内定を取り消されたこともあります。

あさひ:僕も面接で「自分はこうで」という話をしたらめちゃくちゃ驚かれて。事情の説明だけで終わってしまい、その会社に入るためのアピールが全然できなかったことがあります。何の話もできないし聞いてくれないし、興味本位の質問だけで終わってしまうのは辛いです。

まさ:あるあるだよね。

──隠したまま就職して、という方法もあるでしょうか?

おおちゃん:「どうしても内定が欲しいから」と、言わずに就職活動する人は実際いるようです。結局はいつ話すか、なんですけどね。まさにもあったよね? 「こっちは採用してやったんだから」みたいなことを、後々言われた経験が。

まさ:面接のときは“変更途中”だったんですが、「保険証とか、手続きが大変になるかもしれないです」と説明したら、僕とは逆の「MtF(※Male to Female 男性として生まれたが、性自認が女性の人)を採用したことがあるから大丈夫」と。それで入社したんですが、何かのタイミングで「こっちはおまえみたいなのを採用してやったんだから」と言われました。そんなことを言うのかと、衝撃で。もうここで働くのは無理だなと思いました。

ジェンダーに理解のある企業を探すには

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──LGBTというものが世間に認知されてきているからこそ、企業もそれに対応していかなくてはいけないという意識はあるのでしょうね。一方で、実際はまだ追い付いていない部分も多そうです。この先ジェンダーについて悩んでいる方が就職活動をするとして、どんなふうに企業を探していけばいいと思われますか?

おおちゃん:企業のホームページや広報活動を見ていると結構わかります。あとはプライドパレード(※LGBT文化を讃えるイベント)などに協賛している企業であれば、理解のある会社だなとわかります。面接のときに直接尋ねる子も多いようですよ。「どんな取り組みをされていますか?」と。今は働きやすさも含めて、そうした部分をしっかり勉強している会社でないと就職したくない、と考える子もいます。

──皆さんは実際に企業へ講演に行かれたりもしていますが、そのときに感じることはありますか?

おおちゃん:本当に意欲的に勉強がしたくて来ている方もいれば、会社に言われたからとりあえずいるような方もいます。

まさ:見ているとわかるんだよね、その違いが。

おおちゃん:寝てしまう人や、「さっきまでの話、聞いてた?」と思うような質問をする人もいます(苦笑)。「男性も女性も、どちらの気持ちもわかっていいですね」と言われることも。変に特別、優秀に思われるというのはあります。僕らは、なでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)という女性のコミュニティに長くいたので、たしかに女性の気持ちはわかるんですよ。ただトランスジェンダーは基本的に自認が男性なので、女性の気持ちがわからない人もたくさんいるんですけどね。

編集後記

カミングアウトをするのかしないのか。当事者にとっては大きなテーマだと思いますが、ジェンダーのことに限らず、その相手とどういう関係を築いていきたいのかが、その後の関係性を決めていくのかもしれませんね。就職活動での貴重なエピソードからも、企業によって温度差があることが感じられました。これからは企業も選ばれる時代。ジェンダーに理解のある企業は、働くママも含めた多くの人にとって働きやすいところであるだろうと想像できます。結局は、目の前の人を「ひとりの人間」として見ることができるかに尽きるのかもしれません。次回はママの視点から「もしわが子がそうだったら?」というテーマで話を伺います。親が見ていてわかるものなのかどうか、気になります。

第4回へ続く。

取材、編集・Natsu 文・鈴木麻子 イラスト・よし田

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