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女性→男性になった人たち。トランスジェンダー3人組が感じる社会の変化【性の多様化・第1回】

01ここ最近「性の多様化」「LGBT」「ジェンダー」などのキーワードをよく見聞きするようになりました。目に触れる機会が多くなるにつれ「わかったような気になる」ことも多いものですが、実際に「性の多様性とは?」「LGBTってどういう意味?」「ジェンダーについてどう思う?」と聞かれたら、みなさんはどう答えますか? また「わが子がそうかもしれない」と、まさに今、悩みを抱えているママもいるかもしれません。

今回は、3人組YouTuber「ミュータントウェーブ。」のおおちゃん、まささん、あさひさんに、ざっくばらんに性の多様性やLGBTの定義についてお話を伺いました。
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女性→男性。トランスジェンダーのYouTuberミュータントウェーブ。

3人組YouTuber「ミュータントウェーブ。」のおおちゃん、まささん、あさひさんについて、まずは紹介させてください。性別適合手術を受け、からだの性が「女性→男性」になった3人。3人の共通点は、現在は男性として生きるトランスジェンダーであること、そして、なでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)の元選手であること。社会に根付く、男らしさや女らしさの枠に縛られず、自分らしさを表現するグループとして、YouTubeチャンネルでは街行く人々にLGBTに関して問うインタビュー動画などを配信。さらに「知らなきゃ!を知りたい!に変える」を合言葉に、各地の学校や企業でジェンダー教育の出張授業を行っています。

そもそも「性の多様性」って?「LGBT」って?

性のあり方はとても多様で、「身体の性別(戸籍上の性別)」「性自認(自分の性をどう捉えているか)」「性的指向(好きになる対象)」の「性表現(表現する性。言葉づかい・服装・髪型・しぐさなど)」、4つの組み合わせで、さまざまなセクシュアリティ(性のあり方)が存在します。また性のあり方が少数派の人たちを指す総称のひとつに「LGBT」という言葉があります。

LGBTとは

L=レズビアン(同性を好きになる女性)
G=ゲイ(同性を好きになる男性)
B=バイセクシュアル(両性を好きになる人)
T=トランスジェンダー(生まれたときの身体の性別に対して、心の性が違和感を感じている人)

の頭文字をとったもの。

定義されることで、伝わりやすさが生まれる場合もある

──皆さんはこのうち「T」=「トランスジェンダー」であることを公表されています。まずは簡単に説明していただけますか?

おおちゃん(以下、おおちゃん):トランスジェンダーは心と身体が一致しない、身体の性に違和感がある人を指します。僕たちも心の性自認は男性ですが、身体の性は女性でした。

──「LBGT」という言葉は、ここ数年でよく耳にするようになった気がします。認知されてきた実感はありますか?

おおちゃん:僕たちは街頭インタビューもやっているのですが、「LGBTって知っていますか?」と聞いて「わからない」と答える方は意外と多いです。ただ「Lはレズビアンで……」と説明し始めると「ああ、知ってる」と。言葉自体は聞いたことがあっても、意味はあまりわかっていないのかなという印象です。

──「トランスジェンダー」という言葉でカテゴライズされることについては、どうお考えですか?

おおちゃん:僕らがいた女子サッカーの世界は、性について比較的寛容な世界だったと感じます。だからこそ区切る必要があるのかな、と考えることも。みんな同じ人間なのに区切っちゃうのはどうなのかなと、思いつつ……。

まささん(以下、まさ):「主婦だよね」って言われるのと同じかなという思いも、僕はあります。

おおちゃん:わかりやすくするためだけの定義かなとも思います。ただ、たしかにカテゴライズされるのが嫌な人もいますからね。

──私たちも「ママ」というカテゴリーのなかにいますが、たしかに「ママだから」ですべて片付けられるのはどうかなという疑問はあります。一方で説明するときにわかりやすいな、という実感もあって。それと似ているのかもしれませんね。

おおちゃん:わかりやすさは大きいですね。トランスジェンダーであるからこその困ることや生きづらさはあるので、それを伝える意味では必要かなと思います。

あさひさん(以下、あさひ):何も知らない環境下にいる人が「トランスジェンダー」という名称を知ることで、「ああ、こんなふうにも生きていけるのか」と知る入り口にもなるのかなと思います。

街頭インタビューで感じる“世間の感覚“の変化

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──「LGBT」などの言葉が少しずつ認知されてきたことよって、悩みを抱える当事者の皆さんの生きづらさに変化はありましたか?

おおちゃん:生きやすくなったかもしれないけれど、気持ち程度ですかね? 改善されてきているとは思います。以前なら「LGBT」という言葉に対しても、「それって、何?」という反応だったんですよ。ただ、今は街でインタビューしていても「好きなようにしていいと思う」という返答も多い。以前なら“好きにしていい”なんて言葉、絶対に出てこなかったと思うんです。どこか差別的な気持ちや“おかしな人たち”みたいな見え方だったものが、今はそうではなくなってきているなとは感じます。

──皆さんのYouTubeチャンネルでインタビューを受けている方々も、フレンドリーですよね。年代や地域によってなど、反応の違いは感じますか?

あさひ:一概には言えないですが、僕は全然違うなと感じています。やっぱり若い世代のほうが理解があるというか。

おおちゃん:おじいちゃんくらいの世代だと「普通じゃない」みたいな反応もあるんですよ。ただ「人の生き方に口出しするんじゃないよ」みたいなことを言ってくれるおばあちゃんもいて。「心が大事だから」とか。

──インタビューをするのは都内がほとんどですか?

まさ:全国です。ジェンダー教育の出張授業で行ったときは、その土地でやっています。

おおちゃん:渋谷などでは「実は私もそうです」とカミングアウトする若い人もいます。ただ地域によっては、LGBT自体を知らない人も少なくない印象です。地域差はあるのかもしれないですね。

不便なこと、面倒なことは至るところにつきまとう

──トランスジェンダーであることで、社会のなかで感じる不便はありますか? 例えば街なかの設備とか。

おおちゃん:男子トイレが汚いのは嫌ですね。便器の周りに汚物が付いているのも、よく目にしますし。用足しの音を消す流水音装置も、ほぼないんですよ。最近は増えたのかもしれないけど。

まさ:汚いのは嫌だよね。女性だったら、汚れたところは拭いたりするじゃないですか。男子トイレは違うんですよ。

おおちゃん:僕らは立ったままだと用が足せないので個室を使うんですが、男子トイレはそもそも個室の数が少なくて。それも不便だなと思います。“だれでも使えるトイレ”もありますが、僕らが使うと「健康そうな人が使うの?」といった視線をよく感じるので、もっと増えるといいなと思います。

──制度面での不便を感じることはありますか?

おおちゃん:日本では子宮や卵巣まで取らないと、戸籍の性が変えられないんですよ。だから戸籍を変えるのは手術がすべて終わった後になるんですが、手術を重ねると、かなりの年月がかかります。その間に本人証明の提示が必要な場所に行くと、見た目は男性になっているのに、戸籍上はまだ女性だから「あなた、他人の証明書を使っていますよね」と疑われることもあります。

性別適合手術をする場合に、保険が使えるか使えないかという問題もあります。該当者の多くは手術する前提としてホルモン治療を受けるのですが、そうすると混合診療扱いで保険適用外となってしまい、高額な費用がかかることになるんです。

戸籍もいろいろと面倒です。うちには僕より年上の長男がいて、僕が長女、妹が次女でした。僕が女性から男性に戸籍を変えたことにより、長女が長男になり、わが家の戸籍は長男2人で次女が1人になっています。

あさひ:僕の家も、今は謎の家族構成になっていますよ。15歳離れた弟が長男で、元々三女だった僕は三男です。そのあたりも、もっと柔軟になったらいいのになと思います。

編集後記

性の多様化について、社会的な認知が進んできているようにも見えますが、実際には不便なことや面倒なことがまだまだ多いようです。男子トイレの状況などは、なかなか知りえないことですよね。設備や制度が、現状に追いついていない印象です。また手術の際、保険診療を受けられるか否かなど、健康面や経済面にも影響があることがわかります。今回は世の中における性の話についてお聞きしましたが、次回はミュータントウェーブ。の子ども時代についてお聞きしていきます。

第2回へ続く。

取材、編集・Natsu 文・鈴木麻子 イラスト・よし田

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