【後編】幼稚園と保育園で、発達障害の子を取り巻く環境って違うものなの?
年少で自閉症スペクトラム軽度のお子さんが通う幼稚園から、「年中になったらお子さんはついていけないかも」と言われてしまった投稿者さん。保育園だったらもっとのびのびできたのかも? という思いもあるようです。
このトピックでは多くのママたちが「幼稚園か保育園かというよりも、園による」という意見でしたが、実はこんなコメントもありました。
『幼稚園は運動系とお勉強系と分かれるにしても、ある程度は指導についていけないと本人が辛いかも。保育園は生活に密着したことを教えてもらえるから、やっぱり幼稚園とは違うと思う』
私立幼稚園に入れるつもりが……【体験談】
筆者にも軽度の発達障害の娘がいます。娘は3歳になると同時に療育に通い始めましたが、当時3つ上の長男は私立幼稚園に通っていました。のびのびとした幼稚園で親子とも満足しており、園長先生も娘の発達障害を知ったうえで気持ちよく受け入れを伝えてくれたので、当初は娘をこちらの幼稚園に入園させるつもりでした。
しかし療育先で先生から勧められたのは「公立の保育園」。実際3歳半の春から市立保育園に通い始めました。これはあくまでわが家の選択であり、地域によっては選択肢が限られると思いますが、選んだ理由や入園後に痛感したことをお伝えしたいと思います。
幼稚園ではなく、保育園を勧められたワケ
これは療育先の先生の意見ですが、保育園を勧める理由は大きく2つ。
・保育園では子どもの生活リズムを大切にし、生活の流れを安定させることに重きがおかれている →“いつもと違ったこと”が苦手な発達障害の子にとって、“いつもの生活リズム”は情緒を安定させるために重要
・お昼寝がある → 心身ともにクールダウンさせることができる
入園後、娘はよく「くつをぬぐ」「げたばこにいれる」「コップを出す」「ぼうしを(フックに)かける」……といった“園に着いてからすること”をひとつひとつ順番に、覚えたての字で書いていました。こだわりが強く、次に何をすればいいのかわからないとすぐにフリーズしてしまう娘にとって、“いつもの一日の流れ”は安心のもとだったのかもしれません。
私立ではなく、公立を勧められたワケ
同じく療育先の先生に言われたのが「公立の先生は公務員として安定しているから、長く勤めているベテランが多い」ということでした。しかし当時、長男が私立幼稚園で成長していく様子に満足していた筆者は、「私立より公立」がいまいちピンときていなかったのです。
悩んでいた頃、近所の公立幼稚園の先生に会うことがあったので、正直に「公立と私立の大きな違いってなんですか?」と聞いてみました。すると「私立は経営を安定させるために園児を集める必要があるでしょ。そのためにどうしても、カリキュラムを充実させて『こんなこともしますよ~』とアピールしなくてはいけない場合が多いのよね。公立はそういったプレッシャーがないから、ゆったりしているのよ」と言われたのです。
時を同じくして、幼稚園に通う長男は運動会の練習の真っ最中。年長児だったため、最後の運動会は組体操や鼓笛隊など大忙しです。幼稚園でのカリキュラムをいつも楽しんできた長男でしたが、ここで初めて「僕はもっと遊びたい……」とポツリ。それを聞いて筆者は「あー、これは娘には無理だな」と痛感したのです。
実際に公立と私立、両方の運動会や発表会を経験してみると内容にかなりの差がありました。でも、いずれにせよ子どもが挑戦し成長していく様子を見られるのは親にとって喜びです。どちらが良いというわけでなく、子どもに合った、子どもが楽しめるカリキュラムの園に入るのがベストだと思います。
そのほかに園を選ぶ決め手になったこと
当時わが家が住んでいた市は、ありがたいことに3歳以上であれば保育園の枠に余裕がありました。筆者は在宅ではありましたが仕事をしていたので、入園することは可能。ただわが家から同じ距離にA園とB園、2つの市立保育園があったのでどちらにするかがまた悩みどころでした。
A園……1年齢1クラス。住宅地にあり、園庭がかなり狭い。思いっきり遊ばせるときは徒歩3分で行ける公園を利用
B園……1年齢2~3クラス。小学校の隣にあり、施設も園庭も広い。毎日のように裏山で自然散策
ぱっと見は明らかにB園のほうが充実しているのですが、見学に行ったとき先生たちが少しお疲れなのが気になりました。園長先生と話していると「ここは地域のイベントが多くて、保育園も参加することが多いんですよね……」とのこと。
次に見学したA園では、先生たちが必ず娘の目線に合わせてしゃがんで「こんにちは~」と挨拶してくれたのが印象的でした。さらに園長先生が「私たちは保育の専門家で療育の専門家ではないけれど、講習を受けたり療育の先生に教えてもらったりしながら、みんなで娘さんを見守っていきますよ」と笑顔で言ってくださったのです。ただ「大丈夫ですよ」と言われるよりも、「専門家ではないけれど」とはっきり言ってくださったほうがずっと信用できる……そう思いA園に決めました。
入園後、運動会や発表会など行事があるたびに不安定になる娘を見て、「イベントが多いB園にしなくて良かったかも」と思いました。また滑り台しかない狭い園庭だったため、お迎えに行ったとき「まだ遊ぶ~」と園庭でごねることもほとんどなし。当時の娘は気持ちの切り替えがなかなかできなかったので、これは助かりました(笑)。
ただ公立は先生の異動があるのがデメリットのひとつ。見学時に笑顔で対応してくださった園長先生が1年で転勤されたときは、かなり落ち込みました……。
初めての集団生活。ぜひ親子で見学や体験を
園を選ぶことができたわが家は、とても恵まれていたのだと思います。ママスタコミュニティのママたちのコメントからは、発達障害で入園自体が難しい状況に置かれている様子がうかがえます。
『うちの子の行ってる幼稚園は遊ぶのがメインで、子どもの意思を尊重してできるだけ自由にやらせるって方針。友達の行ってる園は発達障害の子の受け入れもあるけど、加配は付かないから授業やってて言うこと聞かない子は放置らしい。厳しい園だと「うちでは面倒見きれないので他所に行ってください」って言われたって人もいる』
『うちも1歳で保育園落ちて、2歳になってから子どもに発達障害があるかもとわかって、幼稚園選びに悩んでいます。幼稚園側から「この子には加配が必要ですね」と言われたけど、「うちの園では加配を付ける余裕はないから」と遠回しに断られました……行く場所がない……』
地域によって保育園や幼稚園の数、公立・私立の割合もかなり異なってくることと思います。そのなかで思うような園にはなかなか巡り合えないかもしれません。しかし子どもにとっては初めての集団生活です。発達がゆっくりだったり、周囲とのコミュニケーションが難しかったりする発達障害のお子さんは、先生たちが温かく受け止めてくれるかどうかでストレスがかなり違ってくるでしょう。役所の担当窓口や周囲のママ友、インターネットなどでできるだけ多くの情報を集めて、ぜひ実際にお子さんと一緒に足を運んでみてください。そこでママが「あ、ここなら……」と感じられたならきっと大丈夫。ハードルは高いかもしれませんが、親子ともに安心して過ごせるよう諦めずに探してみてくださいね。
文・千永美 編集・秋澄乃 イラスト・Ponko