乱暴なわが子から離れていくお友達やママ友。この先、子どもをどう育てたらいいですか?
わが子の乱暴な行動に悩むママからの相談内容です。
今日、学校から電話がありました。先生から「〇〇くんがお友達とトラブルになって……」と聞かされました。
自分の子どもがほかの子に手を出したと聞いたときはいつも、傷付けてしまった子や親御さんへの申し訳なさと、同時に子どもが暴力を振るったことへのショックで胸が締め付けられます。いつも親御さんへ謝りに行くものの、周囲からの「親のしつけができていない」というプレッシャーを感じ、私の育て方が悪かったんだ……と自分を責めるようになるのです。
悪いのはうちの子だって分かっています。けれど叱っても、成長しても直らない。ママがいくら頑張っても子どもの状態は変わらないのです。親としてできることは、もう残されていないのでしょうか?
これ以上の対策が思いつかないほど、途方に暮れている様子のママさん。
この相談に答えてくれたのは、子どものためのアート・絵画・工作・造形教室「アートスペース ネネムの森」主宰の篠 秀夫(しのひでお)さんです。
35年以上のあいだ、多くのお子さんの成長をサポートし社会へ送り出してきた篠さん。「乱暴な子どもはママのせいではない」と言います。今日からあなたの子どもに生かせる方法を一緒に探してみましょう。
乱暴な子どもになってしまう原因は「子どもらしさ」が失われていること
――周りを見ても落ち着いている子ばかりです。乱暴な子どもは他にもいますか?
篠:大勢いますよ。ママたちはあえて口に出して言わないだけで、多くのママが悩んでいます。またお母さんの前でだけいい子にしている子も多いです。
――なぜ乱暴な子どもになってしまったのですか?
篠:色々な原因が考えられます。乱暴と一口にいっても、子どもの状態もそれぞれです。わざわざ他の子の所まで行って暴力を振るう子もいれば、誰かに近寄られたときだけ攻撃する子、自分勝手な行動ばかりしていているのでそれをやめさせようとすると興奮して暴れ出す子もいます。
性格が関係している場合や身体の状態が関係している場合、親子の問題が関係している場合、生活環境が関係している場合、何らかの障害が関係している場合もあります。
そのすべてについてお話しすることは出来ないので、今日は一般的な話だけにさせていただきます。
子どもの育ちには安心が絶対的に必要です。基本的にその安心は自分の安全と、成長欲求が満たされたときに生まれます。子どもはその安心が失われたとき、心と身体の状態が不安定になり、それがストレスとなって、他者への攻撃性となって表れることがあります。
要するに子どもらしい欲求や、子どもらしい行動が肯定されていないとそういう状態になりやすいということです。
外で遊ぶ機会が減っていたり、お母さんが子どもの言葉に耳を傾けないことで子どもが不安を感じていたり、言いたいことをちゃんと大人に伝える能力が育っていない場合もあります。特に現代では、お母さんも周囲の大人達も「ダメ」と制限することばかりで、どんどん子どもが子どもらしさを発揮できる場が失われているのです。
原因は「心」ではなく「身体」。幼い子どもの身体の育ちで大切なのはスポーツ的な運動ではなく「心や感覚の働きと繋がった遊び」のこと
――叱っても、優しく見守っても子どもは変わらないんです……。
篠:変わらないですよ。ママたちはみんな、乱暴の原因を心の問題だと思ってしまうんです。叱ったり見守ったりして心を改善しようと試みますが、子どもの問題行動は身体にも原因があることが多いです。
例えばおしっこを我慢している子どもがいて、その子に「落ち着いて」と言っても無理ですよね。おしっこをしたいときは誰だってソワソワします。また女性なら生理のときにイライラしてしまうこともありますよね。それと同じで、身体に原因があるのに、心を直そうとしても何も変わらないのです。心を改善しても変わらないときは、身体の改善が必要かもと考えてみましょう。
――身体を改善するとは「運動させる」ということですか?
篠:違います。私のいう身体の改善とは肉体運動ではなく、心や感覚の働きと繋がった遊び的な活動のことです。そのような活動を通して、子どもは自分の心と身体を自分のものとして自由に動かすことが出来るようになるのです。その原因に関わらず乱暴してしまう子の行為の大部分は無意識的、本能的なものです。よっていくら叱っても改善しないのです。自分がどれだけ痛いこと(乱暴)を相手にしているのか感覚的に分からないのです。こういう状態の子でも、心や感覚の働きと繋がった遊び的な活動を通して無意識的、本能的な活動が減っていくのです。
乱暴な行為と同様の行為の遊びを取り入れる
――「身体で遊んでいく」とは具体的にどうしたらいいのでしょうか?
篠:幼児から9歳くらいの子は遊びの中で自分の成長に必要なものを吸収していくことが多いです。しかし自由に遊ぶ時間も空間も、一緒に遊ぶ仲間も奪われてしまっている現代の子どもたちは、遊びの中で「自分の育ちに必要なもの」を吸収していくことが困難になってしまっています。また子どもにとって遊びが大切であることを理解している大人も少ないです。
例えばですが、乱暴に物を投げたり叩いてしまうような子には、ボール投げや、太鼓で遊ぶような手を使った遊びが状態を改善する手助けになるかもしれません。お料理作りでもいいです。大事なのは、お母さんが先生ではなく、仲間や先輩として関わってあげるということです。
――遊ぶときにママが気をつけることはありますか?
篠:ボール遊びなどでは、お母さんがちゃんと子どもの目を見て、子どもと心を通わせた状態で軽いキャッチボールをするといいです。「いくよ」などの声がけも大事です。このようなボール遊びは、子どものコミュニケーション能力を育ててくれます。そして「コミュニケーション能力」が育てば、乱暴な行動は減っていきます。
私が見ている範囲でのことですが、すぐ暴力的な行為をするような子はコミュニケーション能力も低いような気がします。特に聴くことが出来ない子が多いです。
また土の上を裸足で走らせたり、野山のようなでこぼこしたところを歩かせたりするのもいいです。身体の統合性が整いますから。身体の統合性が整うと、心が落ち着いてくるのです。絵本を読み聞かせたり、一緒に歌を歌うのもいいです。
――外だけでなく、家の中でできる遊びはありますか?
篠:室内なら工作や絵を描かせるなどの造形や、コマの紐をまくなど指先を使う遊びを取り入れてください。ただ指先を使う遊びをすると、イライラしてしまうような子の場合は、身体を思いっきり動かすことが出来るような外遊びの方がオススメです。そして身体を思いっきり動かした後でなら、室内での落ち着いた活動に取り組むことが出来る場合も多いです。
生活環境からできるだけ「刺激」を減らしてあげる。叱る役目はママではなく第三者
――他にも何かできることはありませんか?
篠:できるだけ強い刺激を避けることです。乱暴な行為をする子どもにとっては「刺激=非常事態」なんですよ。刺激に意識がいってしまい、安心して生活が送れません。せっかくの成長に向かうエネルギーが非常事態に取られてしまうんです。
刺激を避ける具体的な方法としては、可能な範囲でいいですからテレビやゲームを少なくすること。テレビやゲームは音でも映像でも子どもの感覚には過剰なものが多いので、それ自体が強いストレスを生み出してしまうのです。また強い刺激に慣れてしまうと、今度は刺激の少ない遊びや、場所を嫌うようになります。勉強にも興味を持てなくなります。
それからあまり甘い食べ物を与えすぎないことも大切です。甘いものは一時的な幸福感をもたらしますが、血糖値をあげるため効果が切れたときの反動でだるくなります。寝る時間や起きる時間を規則正しくすることで、心と身体が落ち着き、集中力が整うこともあります。
――それでも子どもがいけないことをしたら、どうしたらいいですか?
篠:子どもに問いかけるように話し合ってください。すでに先生や第三者が子どもに注意をしている場合は同じように怒ってはいけません。このとき大切なのは「先生、なんで怒ったんだと思う?」など、子どもの頭で悪かった行動を考えるような働きかけをママがしてあげることです。ただしこれは子どもが自分の頭で考える癖を付けさせるためであって、正解を教えるためではありません。大人が決めた正解に従わせるのではなく子どもの成長を促すことで問題が解決するようにするのです。そしてそれが仕付けの意味でもあります。
大きい声を出したり、強い口調で責めたりすると子どもは心を閉ざすようになってしまうだけなのでやらない方がいいです。またやっても無駄です。
――ただ、ママの言葉はまったく響かない気がします……。
篠:4、5才以降の子どもは憧れの存在に注意されるのが1番効果的です。そして残念なことにママは子どもの憧れの存在にはなれません。子どもにとってママは、食事を与えてくれたり、身の回りのお世話をしてくれたりする存在だからです。ママのことは大好きでも自分の成長の目標としては考えていないのです。だから何回言っても、ママの声は子どもに響かないのです。子どもが憧れている年上のお兄ちゃんやお姉ちゃん、先生、近所の人など、第三者に協力してもらって伝えていきましょう。
ママの育て方が悪いわけじゃない。乱暴さは「子ども自身の苦しみの表れ」
――他のママたちに「育て方が悪い」と思われているようでつらいんです。
篠:乱暴な子どもに育つのは親の育て方が悪いからではありません。これは今社会全体で変えていかなければならない大きな問題です。
子どもがママから学べるのは「ママとの関わり方」だけです。ママ以外の仲間と関わる時に必要になるコミュニケーション能力や社会性はママには伝えようがないのです。また生活の場でのママとのコミュニケーションは限られています。現代の子どもたちは、兄弟や祖父母といった他の家族との関わりも少ないです。地域の子どもや大人との関わり合いも減りました。よって乱暴な子どもが増えてきているのです。
本来、社会性の育ちと繋がるようなコミュニケーション能力は、群れ遊びの場や学校や園などの集団生活で学ぶべきものなので、家庭の外で教えてもらうしかないんです。本来子育てはママだけの仕事ではなく、地域みんなでやるものだったのです。太古の昔からそうだったのです。そういう活動の場を子どもに与えるということがそのような子どもの状態の改善につながるのです。
――子どもの行動の改善にはどのくらいの期間が必要でしょうか?
篠:私の経験上、こういった乱暴な子どもは多くの場合10歳を過ぎた頃になると落ち着くことが多いです。今できることとしては、本来人間がいるべき場所に子どもを戻して解放してあげること。ようするに外に出て、自然を感じて仲間と一緒に遊ぶことです。
裸足で走り回らせたり、キャッチボールをしたり、葉っぱの匂いを嗅いだり、お花を見たりするだけでも構いません。親子でお話をすることも、自然な遊びです。自然の中で感覚をたくさん使っていってください。
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お友達に乱暴をして、相手の子を苦しめてしまう子ども。
子どもが「こわい子」というレッテルを貼られ、周囲が少しずつ離れていってしまうことが、ママとして苦しくて、親御さんに申し訳なくて、でもどうしようもできず悔しくて……。
しかし篠さんは乱暴をしてしまう子どもも苦しんでいる、「苦しみが乱暴として表れている」と教えてくれました。
親としてまだ子どもにできることがあるのだと知るだけでも、明日からの生きる糧になるのではないでしょうか。そして子どもが友達と仲良くできて、親子ともに楽しい時間を過ごせるようになればいいなと願っています。
『人間脳を育てる』灰谷孝著 花風社
『ケーキの切れない非行少年たち』宮口辛治著 新潮新書
取材、文・編集部