【日能研・小嶋隆さん2回目】答えのない問いに対してどう考えるか。子どもの思考力を鍛える学習が今求められる
新型コロナウイルス感染症により、学校の入学時期を世界基準の9月に変更するという案が出ています。これについて、日能研関東の小嶋隆さんは「海外に留学する子どもの数が少ない日本ではあまり関係ない」と話します。小嶋さんには、9月入学とともに、現在変わり始めている学習や入試問題についてもお話を伺います。子どもの塾選びをサポートするサイト「塾シル」代表の古岡秀士さんの対談でお送りします。
9月入学はコロナとは切り離して考えるべき
古岡秀士さん(以下、古岡):「9月入学」について様々で場で議論がされています。小嶋さんはどう考えていますか?
小嶋隆さん(以下、小嶋):現在コロナの影響で学習が遅れていることもあり、次年度から9月入学にするという案もありますよね。しかし私はコロナの件と9月入学は切り分けて考えるべきだと思っています。
9月入学については、以前から日本が4月入学なのに対して、他国の学校では9月入学が標準になっていて、日本も世界に合わせるべきだという話があります。しかし9月入学にすれば世界基準になるということではありません。
もし本当に9月入学にするのであれば、企業の就職試験や夏休みの概念、会社の決算や国の予算の問題なども大きくかかわってきますから、学習以外のことも足並みを揃えて変えていく必要があります。
また9月入学になった場合、義務教育は何歳からスタートするのか。今ある学年はどこで切り分けるかということも考えていく必要があります。そういった意味で、私は9月入学には賛成なものの、実際に変更を検討するのであればコロナとは別に考えたほうがいいという気はしています。
古岡:入学時期が9月に変更された場合のメリット、デメリットを教えてください。
小嶋:9月入学にはメリットはあまり感じないですね。もちろん海外に留学する子どもたちもいますが、日本全体の数からしたら留学する子どもはごく一部です。一方デメリットもそれほどないと思いますが、夏休みがどうなるかについては気になるところです。
正解のない問題に対してどう答えを出していくかが問われる時代
古岡:今後子どもたちに対してどのような教育が必要になりますか?
小嶋:正解のない中で何をどう考えていくかということが、これからの世の中では求められることです。それに従い学校の教育カリキュラムの中身も変わっていくのではないかと思います。
今まではジグソーパズルのように、いかに正確に速く答えを見つけるかという学習だったのが、今はブロックを渡してそれぞれの子どもによって作るものが異なるという教育に変化してきています。例えば、ある子どもは飛行機を作り、別の子どもは電車を作る。一定条件を与えることによってどんなものが作れるのか。そういった思考力を鍛えるカリキュラムに移行すると思います。
中学受験は「穴埋め問題」から「記述式問題」へ
小嶋:実際に中学受験の入試問題を見ていても、1つの正確な答えを出す問題に比べ、子どもたちの考えや発想を問う問題の比率が高くなってきています。日能研でも答えが1つではない授業、思考力を鍛える授業などを積極的に行っています。「○○について考えてみよう。あなたはどう思う?」「あなたは?」というディスカッション形式の授業ですね。これについては、学校教育でもすでに取り入れているところがあるでしょう。
中学受験の問題も以前は穴埋めが多かったのですが、今はどんどん記述式が増えていますね。たとえば、ある学校では実際にこのような問題が出ました。「この中でキツツキの足はどれでしょう?」という選択問題。昔であれば4択で答えさせ、正解したら10点もらえました。しかし今は正しい答えを選んでも1点で、そこに「なぜあなたはその回答を選びましたか」という問いが加わります。これが9点。合計で10点という評価の仕方に代わってきています。このように多数の学校で「考えさせる」問題が主流になってきています。
ほかにも5年ほど前にある学校で「千円札の肖像画を考えてください」という問題が出されました。この回答はなんでもよくて、たとえばアニメのキャラクターでもどこかの国の大統領でもいいわけです。ここで必要なのは「なぜそれがいいと思うのか。そこに整合性はあるのか」ということです。
「水族館はなぜ海の近くにあるのか」など身近な問題を親子で話しあってみる
古岡:親としてはどのようなサポートをしていけばいいでしょうか?
小嶋:さきほどもお話したように、ここで大切なのは「いかに正確に速く問題を解くか」ではなく、「この問題に関してあなたはどう考えますか」ということなんです。大げさではなく、中学入試問題にはこのような問題がとても増えています。
いずれにしても、コロナとは関係なく子どもたちの学習に関しては、題材が変わってくるでしょうし、家庭内でのやり取りが非常に重要になってきます。たとえば、低学年では「水族館はなぜ海の近くにあるのか」「キリンはどうやって動物園に運ぶのか」など、世の中にたくさんある身近な疑問について家庭内で話し合ってみるといいですよ。
私は教育の本質は変わっていないと思います。これからの教育に対応できるよう、まずは家庭内で深掘りしていく会話が大切になると感じています。
取材、文・長瀬由利子 編集・北川麻耶 イラスト・めい