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「勉強は紙と鉛筆でやるのが最適」と思う親が変えたい教育への意識とは【アドビ・小池晴子】


小学校は2020年度から新指導要領が始まります。この新指導要領によって、文部科学省が定めている学習指導要領が変わります。そのほか教科書が変わる、プログラミング教育が始まる、子どもには課題解決力が求められる……と言われても、親にとっては具体的なことが見えず、あまりピンとこない話題かもしれませんね。しかしこれまでと学習方法が変化することは間違いありません。IT化が進んでいくであろう教育現場に、親としては何をすればいいのでしょうか?

PhotoshopやIllustratorなど、デザイン系のアプリケーションで有名なアドビシステムズ社(アドビ)で教育分野での取り組みを行っているマーケティング本部教育市場部部長・小池晴子さんにお話を伺いました。
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パソコンやタブレットは悪?「手書きがいい」の考え方は根強い

――「2020年、教育が変わる」はいろいろ言われていますが、教育現場がIT化されていく、パソコンやタブレットで学習するなどということがピンとこない人もいると思います。

親自身がこれまで、紙と鉛筆で勉強しテストを受けて、テストの点数で評価されるという道を歩んできたと思います。親が学んできた方法をとらないで、子どもが別の方法で学習していくのは、果たして正解なのかどうか……と不安があるのではないでしょうか。

――不安とともに、手書きで勉強すると「一生懸命頑張っている」、動画で学習していると「遊んでいる」、すなわちパソコンやタブレットは悪というような感覚が保護者にはあるのかもしれません。

そうですね。パソコンやスマホ、タブレットを勉強や調べもので使ったことのない人にとって、それらは遊び道具であって、「勉強のツールとしても使える」という意識があまりないのだと思います。親の頭にはパソコンやタブレットの便利さよりも、「有害サイトを見たらどうしよう」「パソコンを壊したら弁償しなきゃ」といったような、ネガティブな事柄が先立つのかもしれませんね。

しかし諸外国の子どもたちは現在、勉強でも様々なITを当たり前に使いこなしています。授業でノートを取るのにはパソコンを使いますし、小学校でもデジタルツールを使った提出物を作る取り組みが見られます。

――海外では積極的に活用されているのですね。親が未経験のものを子どもが使うとなると漠然とした不安も大きいと思いますが……。

保護者の方々のご心配はよくわかります。しかし、ITツールは使って初めて、有害なものを避ける方法や人を傷つけない方法が身についてくるものなんです。例えば動画を「有害なものがあるから」として一律に禁止してしまうと、有益な情報も取り入れることができません。もしも実際に有害なものに接した時に、知らないがゆえにそれが有害だと判断できない、または対処できないことも起こりえます。ダメなところだけに注目して子どもから遠ざけるのではなく、良い部分は家庭の中でも積極的に取り入れながら、年齢や成長、ご家庭の方針に合わせて有害なものから子どもを守るようにしていけるとよいですね。

「学校」とは本来家庭で得られない最先端の知識を学ぶ場所

――日本の学校現場へのIT普及は遅れていると小池さんは仰いました。遅れの理由はなんでしょうか?

ひとつには予算の問題があります。自治体や学校で児童生徒数に見合った予算確保が難しく、性能の低いパソコンを入れざるを得ないという例を見聞きします。実際にある中学校で、自分がプログラミングしてつくったゲームを見せてくれた生徒さんに「次はどんな機能をつけるの?」と聞いた際、パソコンの性能が低いから「このパソコンは動作が重くてこれ以上複雑にできない」という答えを聞いて残念に思ったことがありました。せっかく子どもが自分で考えたゲームを生み出そうとしたのに、その機会がなくなってしまった典型的なケースでした。

また私はアドビの社員として、なんとかIT化を加速したいと頑張っておられる現場の先生方とお話しすることがあります。ご家庭から「授業中に有害サイトを見たり、ゲームで遊んだりするのではないか。パソコンを壊したりしたら弁償しないといけないので心配」といったような不安の声が保護者からたくさん来るために、IT導入がなかなか進まないと悩んでいる先生もいました。

――保護者からの反対意見が出るということは、あまりパソコンを触ったことのない人からの意見なのでしょうか。

一概には言えませんが、普段パソコンを使っている目的や度合いによってITに対する不安な気持ちや意見が大きく変わる可能性はあると思います。

そもそも学校とは、家庭では教えられないような最先端の知識を教える場所だったんですね。古くは江戸時代の寺子屋で、当時は人に教えられる知識やスキルがある人が先生になって、子どもたちに、「読み書きそろばん」を教えていました。「学校は家庭だけでは必ずしも教えきれない世の中の最先端の事柄を知り経験する場所である」ということを同じように現在に当てはめて教育状態を見てみると、今の日本の学校教育は、ITに関して20世紀で止まっています。これは危機的な状況ですね。

子どもたちは学校外ではスマホやタブレットを使っているのに、学校へ行くと遮断されて、紙と鉛筆を使った手書きだけの学習になる。これっておかしくないかな? ……と根本的に考え、立ち止まりたいところです。

――ITは会社や家庭では当たり前に使われているのに、教育現場では敬遠されているのですね。

IT化を進めるという方向に教育改革は加速を見せてはいますが、現実的にはまだ敬遠されている傾向はありますね。学校で紙と鉛筆を使っていても、社会に出ればパソコンを使わなければいけなくなります。将来、社会に出て生き生きと活躍できるための学校教育と考えると、小学校からITに慣れ親しみ使いこなせるようになる方がいいですよね。

小さいころからITに親しんでいれば、例えば自由に動画をつくってアイデアを表現したり、インフォグラフィックス(※)や印象的な写真を使って人の興味をひくプレゼンテーションをしたりと、自分がやりたいことを実現するための「文房具」として、ITを使いこなせる可能性が拡大に広がります。

(※インフォグラフィックス……図や表などで視覚的に表現された情報)

今の職業はAIに取って代わられる?将来の社会人に必要な力は

――そのITが使われる社会において、現在の企業は就職活動をしている学生が持つ能力やITについてどのように思っているのでしょうか。

アドビが行った調査では、企業の新卒採用担当者は「課題解決の発想力/着想力」や「クリエイティビティ/創造性」「プレゼンテーションスキル」「デジタルリテラシー」を学生に求めています。しかし「学生は企業が期待するレベルを十分に満たしている」と回答した企業は、わずか3割〜4割でした。この結果からも実社会の現実と学校教育が噛み合っていないことがわかります。

参考:アドビ「アドビ調査、就職人気企業の採用担当者が重視するのは、「クリエイティビティ」と「デジタルリテラシー」」※2019年12月時点の情報です

――「将来AIに仕事を取られる」などとインターネットではよく話題になります。具体的にAIが担っていくのはどういう仕事なのでしょうか?

仕事がAIにとられるのではなく、定型化された作業からAIに置き換わっていきます。身近なところでいうと、たとえば無人レジ。AIや機械にできる「作業」は置き換わっていくのです。

一方で発想力やコミュニケーション力は、AIにはまだできない人間ならではの力です。課題そのものを見つけること、解決のために何が必要かを考えること、一見関連性がない情報や出来事をつなぎ合わせて新しい価値を生み出す、といったことが求められます。我々アドビが言うところの、「創造的問題解決能力」というものです。創造的問題解決能力は社会のあらゆる面で必要とされる力で、すぐにはAIや機械で置き換わることは起こりません。社会は変わっていくので、過去の社会構造で求められていた力の育成に教育の照準を合わせたままでいるのではなく、これからの社会で子どもたちに求められる力をつける場所に、学校教育も変わっていこうとしているのです。

2020年教育改革に向けて親も意識改革をしたい

――親としては子どもたちの将来が見えず、その将来のための備えもできていないのが最も怖いと思います。自分の子どもが通う学校が変わるために親はどう働きかければいいですか?

それぞれの学校のありようは、地域の事情や特性、子どもや先生方はもちろんのこと、保護者も含めて形作られるものです。その結果、IT化の状況も現在は地域や学校によってまちまちだと思います。

保護者の方には、「子どもの将来に役立つ力」という基準で考えてみていただければと思います。手書きの学習方法をすべて排除する必要はありませんが、これからの新時代を生きる子どもたちのために新しい学びを取り入れることも必要です。

パソコンもタブレットもスマホも使えない教育というのは、ずいぶん世界から取り残されているという共通認識を保護者の間で持っておくと、少なくとも「保護者の反対でITを学校に導入できませんでした」という事態は減っていくのではないでしょうか。

――家庭内で親ができることはなんでしょうか?

パソコンやタブレットが便利な道具になるかどうかは、使い方次第です。「現代の子どもにとってパソコンやインターネットは当たり前の文房具である」という意識のもと、積極的に使いこなすサポートをしながら、年齢や発達に応じて危険を回避するよう見守る立ち位置がよいのではないかと思います。

包丁と一緒で、包丁は料理をするのに必要だし便利だけれど、手を守る使い方をきちんと保護者が伝えないと、子どもが怪我をしてしまいますよね。同じように、最初は横に並んで丁寧に教え、だんだんと後ろから見守っていくようにするのが、保護者の方としては安心なのではないでしょうか。

――最後に小池さんが考える、「教育とは?」を教えてください。

「教育は人づくり、人づくりは国づくり」と言われます。子どもたちひとりひとりが生き生きと活躍できる未来、それぞれが自分の基準で幸せを実現できる未来の基盤は教育にあります。教育が良くなっていくと、ひいては国や世界が良くなっていくと信じています。

子どもたちに新しい学びをしてもらうためには、環境を整えることが必要。さらに環境を整えるためには、大前提として保護者こそが、パソコンやタブレットの知識を臆さず知っておくことが求められるのですね。つい危険の可能性が先に頭をよぎってしまうかもしれない、IT周りの知識。私たち大人こそ勉強しておきたいところです。

文・しらたまよ 編集・北川麻耶 イラスト・さど

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