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無痛分娩と和痛分娩の違いはなに?産婦人科医が語るメリットやリスクとは

赤ちゃんの出産方法として、最近では痛みを和らげる分娩方法を選ぶ妊婦さんも増えてきましたよね。病院によっては「和痛分娩」や「無痛分娩」などの言葉を使い、その違いがよくわからない方も多いかもしれません。そこで今回は、産婦人科医の重見大介先生に和痛分娩・無痛分娩の違いや、メリット、そして知っておきたいリスクなどについて伺いました。

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薬を使って痛みを取る方法は基本的に同じ

――病院によって「無痛分娩」や「和痛分娩」など言葉を使っていますが、違いは何でしょうか?

無痛分娩というのはお産の際に痛みをなくすことを目指すのですが、実はお産の痛みは0にはできないのです。なぜなら痛みがまったくないといつ陣痛が来ているのかが分からずいきめないので、お産が難しくなります。このため、通常は確実に痛みを0にすることはしません。つまり、分娩方法を無痛・和痛と切り分けることは難しくて、無痛分娩とは言っているけれど、実際は和痛分娩という方が適切なのではと言われています。

――和通分娩とは何でしょうか?

和痛分娩には薬を使うもの以外に、呼吸法とか自己暗示法など、薬を使わない方法も含まれます。薬を使って痛みを取る場合は、無痛も和痛も基本的には同じことを行い、使う薬も一緒です。

病院によって「うちの病院は痛みを0に近くしようと思っている」、または「うちは痛みを少し残してお産を進める」など説明の仕方が異なりますが、まずは基本的には同じだということをご理解いただくといいと思います。

分娩中や産後の体力の低下も防ぐ!無痛分娩のメリット

――無痛分娩を行う場合のメリットは?

無痛分娩で用いられる麻酔方法は、「硬膜外麻酔」というものが標準的です。脊椎の中の硬膜外腔というスペースに細い管(硬膜外カテーテル)を入れて、そこから局所麻酔薬を注入する方法です。

そもそも心臓に病気がある、頭の血管に問題があるなどの場合には、病気の悪化やトラブルを防ぐために医師から無痛分娩を勧められることもありますが、9割以上は妊婦さんの希望で行われ、お産の痛みを緩和できるというメリットがあります。痛みに敏感だったり陣痛に強い恐怖心を持っている方は、お産中にパニック状態となることもありますが、無痛分娩ではこれを防いで安楽なお産を迎えることもできます。

また、お産中の体力の低下を防ぐこともでき、産後の疲労度もまったく違うと言われています。海外では産後1、2日で帰宅する人も多いですが、これには無痛分娩が多く実施されていることが背景にあると思います。

――無痛分娩が受けられない人はいますか?

背骨に変形がある人や、病気や手術をしていて背骨に問題がある人はできません。また、無痛分娩を予定していても、いざ麻酔をするそのときに血圧が低い、発熱しているなどの全身状態が不安定な人もできない場合があります。

妊娠中は血小板(止血に影響する血液中の成分)の数値が下がりやすいと言われていますが、もともと血小板の数値が低い病気の人や、妊娠高血圧症候群も重症になってくると血小板の数値が下がってくるため、そういう方も無痛分娩ができないことがあります。

知っておきたい無痛分娩を行う際のリスク

――無痛分娩を行う場合のリスクはあるのでしょうか?

硬膜外麻酔を前提に話しますと合併症のリスクはあります。薬のせいで麻酔中肌が痒くなったり、血圧が下がったり、足のしびれが出たりする場合もありますが、これらは通常重篤なものではないので様子を見ながら麻酔を継続することが多いです。

確率は低いけれど怖いことは、細い管(硬膜外カテーテル)から麻酔薬を入れていく際に、誤って血管内に麻酔が入ってしまう場合です。全身に麻酔が回ると呼吸が止まるなどの大きなトラブルに繋がり得ます。
また、針を入れる際に血管を傷つけると、そこから出血して血の塊ができ、それによって背骨の神経が圧迫されて下半身麻痺につながるなども起こる可能性があります。起こる確率は非常に低いですが、この2つが最も重大なリスクです。

――吸引分娩の割合が高くなるのは本当でしょうか?

硬膜外麻酔をすると吸引分娩や鉗子分娩などの器械分娩の率は多少上がります。麻酔でうまく力を入れられない、タイミングが合わないなどが原因でいきめないために赤ちゃんがなかなか産まれない場合は、医師の判断により器械分娩となる場合があります。

――吸引分娩にリスクはありますか?

吸引分娩自体にもリスクはあって、赤ちゃんの頭にカップをつけて引っ張ることで、頭に内出血をしてしまう可能性もあります。通常は2〜3日で元に戻りますが、器械分娩にも危険性があるため、やらないことに越したことはないのです。

――無痛分娩はコストがかかるのでしょうか?

和痛・無痛分娩を希望する場合は自費なので分娩料に安いところで1〜3万円ぐらい、高いところでは10〜15万円程度プラスされることがあります。

赤ちゃんへの影響は心配ない

――赤ちゃんへの影響はありますか?

硬膜外麻酔を例にすると、胎盤から赤ちゃんに麻酔薬が移行することはないので、麻酔薬による赤ちゃんへの影響はありません。

また海外の研究で、19歳までに発達障害が出るかどうかという長期的な影響を見た研究もありますが、麻酔による影響はないことがわかっていますので、そこは安心してください。

――無痛分娩の流れを教えてください。

陣痛が来てから病院へ行く場合、子宮口がどれぐらい開いているかまず診察しますが、子宮口がまだ開いていない状態から硬膜外麻酔を使うことは少ないでしょう。あまり痛くないうちにカテーテルを入れておくなど準備をしておいて、子宮口が開いて陣痛も強まってきたら薬を使っていく流れとなります。

ただ日本で無痛分娩をする場合、施設あたりの医師や看護師の数が少ないので、計画分娩が多くなります。病院によっても異なりますが、出産予定日の前、39週ぐらいに入院する日を決めます。入院する当日に、カテーテルを入れるなどの準備をしたのち、陣痛促進剤などを使い陣痛を進めて、子宮口が3、4cmぐらい開いてから硬膜外麻酔を使うことが多いのではないでしょうか。

和痛・無痛分娩を希望するときの、病院の選び方

――病院を選ぶ際に気をつけたいことはなんでしょうか?

無痛分娩を希望する際、日本全国で見ると3割程度の病院しか無痛分娩を行っていませんので、まずは病院に行く時点で無痛分娩ができる病院を選ぶ必要があります。

また、無痛分娩の実施数が多い病院の方が、無痛分娩に関する体制が整備されているし先生方も慣れています。その病院がどれぐらい無痛分娩を実施しているのか確認するといいでしょう。
また、地域のクリニックなどは夜間に医師が何人いるか、何かあったときにどんな対応をするシステムとなっているか、近くの大学病院と提携していて何か問題が起きた際にはスムーズに移動できるのか、などは聞いた方がいいと思います。無痛分娩のやり方は大きくは変わらないので、トラブルが発生したときの環境がどうなっているのかを聞くことが大切です。

合併症の起こる可能性が多少なりともあるということを分かった上で、環境が整っていてトラブルに対応できるという病院であれば、ご本人の希望次第で和痛や無痛分娩を選ばれることもいいと思います。出産方法にいい・悪いはないので、自分にとってメリットがあるのはどれかを考えてみてください。

私が関わる「産婦人科オンライン」では、今回のような分娩についての相談も含めて、妊娠中から産後に関することをスマホで気軽に医師や助産師へ無料で相談いただけます。予約制で相談時間内は1対1で相談でき、どんな些細な内容についても、現役産婦人科医や助産師が丁寧に答えます。不安なことがもしあれば、ぜひ利用してみてください。

参考:厚生労働省:無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築について(帝王切開と無痛分娩の実施率)

取材、文・山内ウェンディ イラスト・鶏岡みのり

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