「一度気になりだしたら、すべてがうるさい」保育園の建設を反対する住人がいるワケ
近隣住人の反対で、保育園が増やせません
我が子が通う保育園の玄関には、こんな張り紙があります。
「隣家の方から騒音に関しての苦情が寄せられています。送迎時など、園舎や駐車場付近での会話はお控えください。」
近隣の住人から頻繁にうるさいとの苦情が来るそうです。
保育園側は今まで何の配慮も対策もしてこなかったのか?
いいえ。閑静な住宅街にあるこの保育園は、数年前の保育園建設の際にも、反対派の近隣住民に向けて何度も話し合いを重ね、保育園の近くに保育園関係の車両は乗り入れないこと、園の建物の外や近くにある駐車場では極力話をしないこと、防音壁を設置し、窓は二重窓にし基本閉めたままにしておくことを条件に開園し、園児達や保護者にも話をするなら園内でするように常々通達しています。
もともと小さな保育園であることや保護者の送迎の時間がバラバラなこともあり、送迎時に何組もの親子が連なるという光景はあまり見受けられませんが、保護者の間でもとにかく静かに静かに、というのが合言葉のようにさえなっています。
園庭がほぼないため子ども達は午前中の活動で近くの公園まで歩いていきますが、その際にも先生方は「保育園の近くではシーしようね」子ども達と手を繋ぎながら毎日指導してくれています。
それでも、苦情は絶えない理由
苦情が来るたびに保育園も新しい対策などを施すも、苦情はエスカレートするばかり。
これって、昨今よく聞く騒音トラブルの典型ですよね。
「一度気になりだしたら、すべてがうるさい」
開園当初、4月などは特にうるさかったでしょう。
母親と初めて離れて泣き止まない子ども達が続出。泣かない子のほうが少ないでしょう。その子によりますが、長ければ1か月は泣きっぱなし。
防音扉とはいえ開閉されるたびに子どもたちの絶叫が住宅街に響き、送迎時も子どもの保育園拒否する子どもの絶望にも満ちた泣き声がこだまする。
もうそうなれば、子ども達が落ち着いて保育園生活を楽しめるようになっても、泣き声に恐怖すら感じるようになってしまった近隣住人は、子どもの泣き声どころか笑い声すら憎いのかもしれません。
住み慣れた場所なのに、環境(特に音)が変わるのって、実はストレスだったりしませんか?
環境省が定める騒音の基準値によれば、昼間の住宅街で55㏈以下だそうで(55㏈なら普通に人が会話している程度の音量)、住宅街で井戸端会議などしようものなら即・騒音
ということになりますよね…。
今まで静かだったところに、子どもの甲高い声、送迎時だけの通りすがりとはいえ環境省のいうところの55㏈の騒音(保護者と子どもの会話)が何十組分も聞こえるようになったら、ストレスに感じる人にとってはストレスなのでしょう。
では、ストレスを感じている方は家の中では55㏈以下で暮らしているのか、といえばそうではないでしょう。
家族と会話もすればテレビも見る。保育園建設反対派の方の中にはお子さんやお孫さんがいらっしゃるかもしれません。
何故、保育園ができてうるさいと思ってしまうのかといえば、ひとえに「知らない子達の声だから」ではないかと思うのです。
電車内での他人の会話がうるさいと感じるのも同じ理屈。
保育園を新設しようとすれば、住環境が大きく変わることへの不安から反対する人が出てくるのは当たり前です。ですから、多くの保育園がしていることでしょうが、保育園を新設する前に近隣住民と何度も何度も話し合い、その後も園を地域の方に開放したり交流したりすることで、お互いが妥協案を見つけ出しながら、時間をかけて少しずづ地域に馴染んで行くのが、一見遠回りに見えて近道なのかもしれません。
ちなみに2015年3月、東京都では「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」を改正し、子どもの声の騒音の基準を適用しないように決めました。
つまりは「子どもの声は騒音ではありませんよ」としたのです。(かなりおおざっぱな解釈ですが)この場合保護者の話し声は適用されませんし、子どもの声にも限度があるでしょうが、自身の子どものころを振り返れば「子どもが心から嫌いだ」という方はごくごく少数派と思いますので、身近に保育園ができることがあれば、子どもや孫がいるいないにかかわらず一度覗いてみてはいかがでしょうか。
子どもの笑い声が響く場所は、治安が良い傾向にありますよね。
保育園ができることで地価が下がると心配される方も、ご自身の将来の年金や医療費を支えてくれる大事な子ども達が育つ場所を提供するのだと思えば、少しは寛容になれませんか?
それから保育園へ子どもを預けておられるお父さんお母さん。自分たちの子どもが保育園でのびのび過ごせるのも、何や言っても地域の方のやさしさやご理解があるからというのもあるかと思います。なかなか感謝の気持ちを伝える場所はありませんが、とりあえずお子さんの送迎時に近所の方に出会ったら、「こんにちは」とあいさつしてみませんか?
文・桃山順子 イラスト・んぎまむ