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「ママだから母性がある」は当たり前?

正直なことを書くと、約5年前の妊娠中も、まさに息子がお腹から出てきたその瞬間も、私は自分の「母性」に自信がもてませんでした。当時はさほど息子を可愛く思えなかったのです。でも生まれてきた息子のお世話をくり返す中で、「この子を守ってあげたい」と強く思うようになりました。私には母性がないのではないかと思っていたら、じわじわと湧いてきた……心底ホッとし、その本能に感心したりもしました。なにより「気持ちの上でもママになれた」という嬉しさと誇らしさは、この上ないものでした。

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しかし私は気づかぬうちに、母性を過信していたようです。少し前の話ですが、こんなことがありました。

息子に手をあげた日

息子が1歳のある夜のことでした。夕食作りのためキッチンに立ちましたが、その晩は疲れのせいか、体も気分も重く感じていました。

息子が構ってほしそうに私の足元にやって来ました。優しくしてあげたいという気持ちから、笑顔で「ちょっと待っててね」と伝えました。すぐには相手をしてもらえないと分かった息子はグズグズと言い出します。どっと疲れを感じましたが、「ママなんだから頑張って」と自分に言い聞かせます。

手作りのご飯を食べさせたい。ご飯を食べさせて、早めに寝かせてあげたい。子どもの前では、にこやかでいたい―

なんとか笑顔をつくり「もうちょっとだからね」と言いました。そこで泣き始め、足にまとわりついてくる息子。余裕の無さでイラっとします。

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私の足に両腕ですがりつき、涙と鼻水で顔じゅうを濡らしながら泣き続ける息子。かわいそうだと思うのに、私の中では苛立ちの方がはるかに勝っていました。口を開けば、余計な言葉が出てきそうで、私は無視を決めこむことにしました。
泣き続けること数分、ますますイライラしてきます。息子の泣き声を聞けば聞くほど、頭の中は熱くなっていきました。
いい加減にしてよ!
そう思ったと同時に、私は息子に手をあげていました。力まかせに長男の頭を叩いていたのです。息子はいっそう大声をはりあげて泣き出しました。苛立ちから解放されたのもつかの間、自己嫌悪と罪悪感が押し寄せました。
ママなのに、ママなのに、ママなのに。
この数年前の出来事をふと思い出したのは最近、角田光代さんという作家さんのインタビューをたまたまネットで見かけたときです。思い出したと同時に、ドキリとしました。

角田光代さんのお話を知って、気づかされたこと

角田光代さんといえば、第35回アカデミー賞・最優秀作品賞に選ばれ、大きな話題となった『八日目の蝉』という映画の原作者です。過去、インタビューにこのように回答していました。

『(最近の子供虐待の新聞報道には)実の母親なのになぜ虐待ができるのかという論調が非常に多いが、そこで父性は問われないのだろうかとか、母性というものをあまりにも当たり前に女性に押し付けているのではないか』

『周りがあまりに母親とはこういうものだと決め付けているだけに、子供をかわいく思えないと自分は母親失格だと、無言のプレッシャーに追い詰められている女性は多いのではないか』

(ロイター「インタビュー:角田光代、「八日目の蝉」で描く母性の問題」より引用  /  太字設定は筆者による)

角田さんは「世間が母性を押し付けている」と仰っています。

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自分には無限の母性が備わっていると信じた私。でも結局余裕がなくて、手をあげた自分を母親失格だとする私。角田さんの仰る「世間」には実は私自身も含まれていて、私自身に母親の理想像を押し付け、がんじがらめになっていると、今さら気づいたのです。

疲れや苛立ちから結局息子に手をあげてしまうのなら、ご飯なんか作らなくて良かったし、無理ににこやかにしなくても良かったのにと、あの日を振り返ります。息子にお菓子をあげてTVを見せて私は少し休んでいれば……そうすれば気分が落ち着いただろうに。
母性という言葉にしがみつかなくてよいのは、私にとって心やすらかなことです。どうせちょっと頼りないのだから、頑張れるときは頑張って、そうでないときは無理なく、うまく付き合っていけたらと思います。

文・福本 福子 イラスト・さど

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