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加藤ローサ:第4回 母乳が出なくて号泣したら、看護婦さん達の態度がコロッと変わりました

インタビュー連載4回目は、フランスでの出産エピソードについてお話を伺っていきます。結婚後、遠距離の生活を経て、妊娠中にご主人の住むフランスへ渡ったローサさん。言葉の通じない国での生活に加えて、初めての出産を経験するのは、想像を絶する大変さだったと思います。当時の記憶について思い返していただきました。

■フランスでの妊婦健診は、日本とどんな違いがありましたか?

妊娠8ヵ月までは日本の病院で健診を受けていたのですが、いざ妊娠中にフランスへ渡ってみると、健診も少ないし、日本のような体重管理がないんです。食べたい物を食べたいだけ食べてOK!みたいな。それで、私20キロ近く太っちゃったんです。
日本で次男を産むときに妊娠糖尿病になったんですが、考えてみればたぶん長男の時もそうだったと思いますね。次男の時の倍以上は体重が増えてたので。
でも、フランスと日本では判断する数値の基準が違うんですよ。だからフランスでは、20キロ近く太ったにも関わらず何も言われなかったんです。

■そんなに違いがあるんですね!妊娠にまつわる日本とフランスの文化の違いはありましたか?

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フランスは、みんなワインをたくさん飲む国なんですが、街中で私が妊婦だとわかると、知らないおじさんが、「妊娠中もワインはすごく良いんだぞ。身体が温まっていいんだ」と薦めてくるんです。
初めての妊娠で、私も夫も慎重になっていたから断ったんですが、かと思えばカフェに行ってカフェラテを頼むと、「君、妊婦だろ? カフェインはダメだよ。ノンカフェインにしなさい」と言われたり。売ってくれないことさえありました。
フランスでは、妊婦さんにはお酒よりカフェインの方が厳しいんですよね。なので、妊娠中はカフェへ行くと、デカフェ(カフェインレスコーヒー)とかミルクシェイクを頼んでました。

■妊娠中にワインを飲むのがOKなんですね!フランスでは、母乳に対しての考え方はどうでしたか?

母乳も産後すごく苦労しましたね。わたし全然母乳が出なかったんです。でも日本だと、病院によっても違うと思うんですが、すぐミルクを出してくれるじゃないですか。
私が出産したフランスの病院は、最初に飲むのは“絶対に初乳”という方針で。全然ミルクをくれなかったんです。母乳もあげられないし、赤ちゃんも泣き止まないしでナースコールしたら、「うるさい時は、小指を入れな!」って、ナースが洗ってもいない小指を、産まれて間もない我が子の口に入れて黙らせたんです。もう、すごく驚きました。
母乳が出なくても「片乳20分ずつ飲ませなさい」と言われて、乳首も傷でズタボロになって痛いし、でも出ないしで……。

■最初の授乳は、痛みとの戦いですよね。言葉が通じずミルクももらえないとなると、精神的に追い込まれてしまいそうです

赤ちゃんは母乳が飲めなくても、便は出るから体重が減っちゃって。それで退院が延びるかもしれないと言われて。そういわれた時、私の何かがブチッと切れちゃったんです。ナースさんの前で号泣しながら「何も飲んでないんだから、体重も増えるわけないじゃん!」て。とにかく泣いて。そしたら突然みんなが優しくなって、母乳用のシリコンカバーやらミルクやらすぐに出してくれたんです。
それをフランスにいる日本人の先輩ママに話したら、その方も同じ経験をしてたんですよ。言葉が通じなくて、みんなの前で泣いたらコロッとみんなの態度が変わったって。
それだけ私は意思を伝えられてなかったということなんですよね。海外って自分の意思は「絶対こうしてくれ!」と言わない限り通じないんですよ。
「あの、赤ちゃんが、泣いてるんですけどぉ……」と言うレベルでは、ミルクが欲しいというのが通じないんです。泣いて初めて「そんなに痛かったの? どんどんミルクをあげなさい」って、看護婦さん達が気が付いて。態度がコロッと変わりました。

■言葉の通じない国での入院はとてもストレスフルだと思うのですが、渡仏前にフランス語の勉強はされていたんですか?

実は全然話せないままフランスに行ったんです。だから、入院中はフランス語の辞書を持って、伝えたい単語を指して意思の疎通をしてました。あとは、ボディランゲージで。話せなくても何となく伝わるものだなぁと感じました (笑)。

■出産には、ご主人も立ち合われましたか?

夫は通訳としてもいてもらわないと困るので、ずっと一緒にいてくれました。私、お産がすごく長かったんですよ。丸2日かかったのでみんなヘトヘトで。生まれた時は感動よりも「終わった~!」という感じでしたね(笑)。

■丸2日は大変ですね! どのような流れでお産か始まったんですか?

出産に備えて私の母がフランスに来てくれてたんですが、ある時、母のために料理を作っていて、手元が狂って私のお腹にお湯がかかっちゃったんです。その瞬間にお腹の中の赤ちゃんが“ぐわん!”って動いたからびっくりしちゃって。お腹を火傷したかもしれないと思い、夜間の救急に行ったんです。
夫は「陣痛がきた」というフランス語は勉強してたのですが、「火傷した」という言葉がわからなかったので、「陣痛が来た」と言って病院に入れてもらったんです(笑)。「お腹の火傷は大丈夫」と言われたので帰ろうとしたら、突然、病院のスタッフに「君は入院だよ」って言われて。「え? なんで?」と夫に聞いたら「わかんないけど、数値が悪かったんじゃない?」って。それで、よくわからないまま入院したら、その日の夜中に破水したんです。

■めまぐるしい展開ですね!出産はどのように?

フランスだったので、無痛分娩だったんです。子宮口が4.5cm開くまでは麻酔ができないと言われて、その4.5cm開くまでが10時間くらいかかったんです。ずっとナースコールを押して「助けてくれ~」って言っても「まだ(子宮口が)開いてない」と何度も言われて。やっと麻酔をしてもらったら、今度は子宮口が全然開かなくなっちゃって。

■フランスでは、無痛分娩が普通なんですか?

そうですね。フランスでは健診から出産まですべて無料で、無痛分娩の麻酔代もそこに含まれているんです。そのかわり入院期間は短くて3日ほどで出されちゃうし、病院のご飯は最悪です。例えばりんご1個にパン1枚。時々チーズ、みたいな感じで。「私、何か悪いことでもしたかな」というくらいの食事が出てきたんですよ!
皮もむかれていないリンゴ見て「これ、かじるの?」って悩んで。入院中は何もすることがないから、食事だけが唯一の楽しみだったのに、食事がそれだから、入院中はへこみましたね。

■ほかに出産で印象的だったことはありますか?

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一番びっくりしたのが、生まれてから退院するまで、赤ちゃんの身体を1度も洗わないんですよ! 日本だと生まれてすぐ洗うじゃないですか。フランスでは「羊水というすばらしいコーティングで包まれているんだから、しばらくはこのままだよ」と言われて、拭きもせず、湯も通さずそのままなんです。だから、生まれたばかりの頃の写真は、きれいじゃないんです(笑)。退院する前に入浴指導があるけど、それもスポンジで軽くなでる程度で。そういうフランスならではのお産が経験ができたのは良かったですね。

■フランスでの育児が始まった時、どんな心境でしたか?

すごく閉鎖的だったと思います。友人もいないし、テレビを見ても雑誌を見ても、理解できないからおもしろくないし。あの頃の自分はあまりいい状態とはいえなかったかな、と振り返ってみれば思いますね。何年もフランスで生活していて、赤ちゃんが生まれたなら、また違ったかもしれないですが。私の場合、フランスに住み始めた時期と子育てし始めた時期がほぼ一緒だったので、今思うと当時は心に余裕がなかったですね。


妊娠中にフランスへ渡り、言葉も文化も違う国で、はじめての出産を経験したローサさん。当時は不安や心配を抱えて、本当に大変だったと思います。そんな中でも乗り切れたのは、旦那さんの協力とローサさん持ち前のポジティブさがあったからかもしれませんね。次回は、慣れない土地でスタートした育児生活について、お話を伺っていきます。お楽しみに!

(取材・文:上原かほり 撮影:chiai)