わが子がいじめの加害者になったら「大人が原因を考えて」【臨床心理士・吉田美智子先生】
保育園や幼稚園、小学校など集団生活をする場には、さまざまな環境で育った子どもたちが集まります。そこで子どもたちの個性がぶつかり合ったとき、大なり小なり子ども同士のトラブルが発生することもあるでしょう。ささいなトラブルが深刻ないじめに発展する可能性もあります。
今回は子どもがいじめの加害者になったときに親や周囲の大人ができることについて、臨床心理士の吉田美智子先生にお話を伺います。
わが子がいじめの加害者になったら、親が反省するところが大きい
――わが子がいじめにあう心配もありますが、いじめの加害者になる可能性もあります。親には子どもがいじめの加害者になっているとは思いもよらず、気づかないこともあるかもしれません。いじめの加害者になっているかもしれないとき、家庭でその兆候はありますか?
吉田美智子先生(以下、吉田先生):いつもと比べて子どもがイライラしていることが増えた、あるいは親やきょうだいに暴言を吐く、きょうだいへの態度が目に余る、といった兆候が挙げられると思います。また自分の持ち物を雑に扱ったり、物事に対して投げやりになったり、「どうせ私(僕)なんて」と自分を大切にしない言動がみられることもあります。
――周囲の人たちだけではなく、自分自身も大切に扱わなくなると子どもからの”サイン”、と考えられるわけですね。
吉田先生:そうです。その”サイン”があったら、親はいきなり叱るのではなくまずは一歩引いて、子どもを観察してください。子どものストレスの原因を取り除かずに、叱るのは避けましょう。
まずは子どもがストレス過多になっていないか、楽しい気持ちでいるかを観察します。たとえば習い事や塾、学校の成績がストレスの原因になることがあります。その場合は親が成績にこだわりすぎていないか、子どもを追い詰めてまで塾に通う必要があるのかなどを、子どもと話し合ってくださるといいな、と思います。
――周囲や子ども自身への良くない言動だけを判断材料にして、叱ってはいけないんですね。
吉田先生:はい。子どもがいじめの加害側であったとき、その理由を理解せず叱ったり、罰を与えたりしてはいけません。というのも子どもの加害行為には必ず元となるストレスや怒りがあるからです。
よく話を聞くと、いじめの加害者になる前にいじめの被害者であったことがわかる場合もあります。そんな子どもを叱ってしまうと、子どもにさらにストレスを与えてしまいますし、加害がよりひどくなることもあるんです。いじめの加害側になったときには、親子で話し合う機会だととらえてくださるといいと思います。親に話を聞いてもらえたことで、子ども自身も自分の言動を振り返って考えるきっかけになるんですよ。
子どもが自分の言動を反省すれば、それでじゅうぶんなんです。叱ったり罰を与えたりするのは、親の自己満足に終わる可能性もあり、注意が必要です。
――叱ることや罰を与えることが”親の自己満足”という言葉は、重みがありますね。
吉田先生:自分の子どもがいじめの加害をしていたことを知ったときの親御さんのショックは、計り知れないと思います。でもいじめをした子どもを責めても意味がないのです。
子どもがいじめの加害をするに至ったのはなぜなのか。それを周囲の大人が理解することが最も大切なことです。子どもが加害する原因は大人にある、と言っても過言ではありません。子どもがいじめの加害をしたときは子どもの一番身近にいる大人が「子どもの気持ちを理解できていたのか」を振り返りましょう。
――叱っても罰を与えてもいけない、となると、親は加害した子どもにどのような声かけをすればいいでしょうか?
吉田先生:親はそのとき「悲しい」とだけ伝えればいいと思いますね。子どもは「やったりやられたり」する体験から「やられたときの痛み」を知り、対人関係のあり方を体得していくものです。失敗も必要です。
だからこそ、加害した子どもを責めてはいけないんです。叱られてしまうと子どもは反発し、加害をやめることができなくなるでしょう。追い詰めたら子どもはまたやってしまうものです。他人を傷つける加害の行為そのものはやってはいけないことです。ただやってしまったことと、子どものアイデンティティを明確に分けて考えなくてはいけません。
いじめの加害をしたからといって「お前は悪い子だ」と、子どもの人間性を否定するようなことは絶対に言ってはいけません。「やったことは悪いけれど、あなたが大切であることは変わらない」と伝えてください。親も子どもと一緒に責任と痛みを分かち合うことが大切です。
――親は何があっても子どもの味方だ、と伝えることが大切なんですね。
吉田先生:そうです。加害したことによって人間性や人格まで否定された子どもは、自尊心や自己肯定感を失ってしまいます。すると加害側から被害側になってしまうこともあります。周囲から「悪い子だ」と決めつけられてしまうと、心がどんどん荒んでいってしまいます。心が荒んでいるときにいじめを受けると、子どもは自暴自棄になっていきます。
加害がわかったあとの周囲の大人の適切な声かけやフォローは、加害した子どもも被害を受けた子どもも救ううえで非常に重要なわかれ道なんです。
――周囲の大人ができる”適切な声かけ”の具体的な例は、ほかにありますか?
吉田先生:「加害は残念だったから、もうしないようにしようね」とか「困ったらいつでも相談してね」などの声かけをしてあげると、子どもは大人との信頼関係を通じて成長していくことができる、と思います。
子どもの味方になってくれる人を探して相談を
――自分の子どもがいじめの加害をしていると知ったとき、誰に相談すればいいでしょうか?
吉田先生:自治体の教育相談センターやスクールカウンセラーに相談してみてはいかがでしょうか。第三者に話がしにくい、あるいはほかに信頼できる相談相手がいるなら、お友達や親戚でもOKです。
――相談相手を選ぶときに注意することはありますか?
吉田先生:善悪だけで判断せず子どもの気持ちを理解しようとしてくれるか、つらい親の気持ちに寄り添ってくれるかどうか、確認してみてください。
相談したあとに、さらに気持ちが落ち込んで苦しくなってしまうときは、あきらめずに別のところに相談してみてください。カウンセラーとの相性もあるので、ご自分が信頼できるカウンセラーを見つけてください。
わが子をいじめの加害者にしないために親ができること
――加害者・被害者に関わらず、子どものいじめを少なくするために普段から親ができることはありますか?
吉田先生:家庭や家族の中に子どもが安心できる居場所を作ってください。子どもに居場所があると、子どもがトラブルに巻き込まれたときでも大人に相談しやすいでしょう。トラブルが起こった初期段階で親子での話ができると、トラブルが小さいうちに対処できるかもしれません。
親子の信頼ができている子どもは、加害にも被害にも巻き込まれにくい傾向があります。厳しい言い方をすると、子どものいじめには親子関係が反映されているとも考えられます。
――自分の子どもをいじめの加害者にしないために、親ができることはありますか?
吉田先生:子どもの様子をよく観察してください。ストレスが強いのに家ではいい子にしている場合、外で発散している可能性もあります。プレッシャーを与えすぎていないかなど、子どもたちの生活を顧みてください。
気づきの起点となりうるのは「親だからこそ感じる違和感」です。わが子の様子が「いつもと違う」「何か変だな」と感じたときに子どもと少しでも話をすると、子どもが抱えるストレスに気づく可能性が高くなるのではないでしょうか。
親ならではの「違和感」を大切に
親なら誰しも、わが子がいじめの加害者にも被害者にもなってほしくないでしょう。わが子が「いじめ」に巻き込まれないようにするためには、家庭での親の観察力が問われそうです。吉田先生のお話にあった「親であるがゆえに感じる違和感」を見過ごすことなく、子どもの抱えるストレスに気づく機会にしていきたいですね。