もしもわが子が発達性読み書き障害だったら。学校生活はどうなるの?
子どもが漢字を練習してもなかなか覚えられない、文字を書くのに時間がかかる、音読するといつも読み間違えてばかり。がんばっているのにうまくいかないのは、発達性読み書き障害が原因かもしれません。『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』の著者でである筑波大学元教授、現客員研究員、LD・Dyslexiaセンター理事長の宇野彰先生と、同書で当事者のお子さんについての漫画を描いた千葉リョウコさん、お二人に話を伺いました。
音読のスピードが遅い、ひらがなを読み間違える。これって発達性読み書き障害?
――子どもが漢字を書けない、音読もいつも間違えるなど、読み書きに不安がある場合、発達性読み書き障害かどうか気になります。どのくらいの時期に判断できますか?
宇野彰先生(以下、宇野):小学校1年生の夏休み明けに、ひらがなの読みができないという場合は、発達性読み書き障害の可能性もあります。逆にいえば、小学校入学時に文字が書けなくてもそれほど問題ではありません。
家庭では音読の宿題で教科書を読めるかを確認するのもいいですよ。たとえば、あまりにも読む速度が遅い、たどたどしい、「ぬとね」や「めとぬ」などの文字を読み間違えたり、読み飛ばしたりしないかなどを注意深く観察してください。
その上で読み書きに不安があるときは、夏休み中にひらがなを書く練習や、「あいうえお」の五十音表を読んだり書いたりする練習をしてみてください。夏休みが明けてもまだひらがなの読み書きがマスターできなかった場合は、学校の発達支援の先生や教育委員会などに相談してみましょう。
学校での生活で、困ることは?支援はどうしたらいいの?
――子どもが発達性読み書き障害だった場合、日常の中でどんなところに不自由を感じるのでしょうか?
宇野:まずは学校での学習面です。先生が黒板に書いた文字を書き写すのに時間がかかるため、肝心な話の内容を聞く余裕がない。また、せっかく板書をノートに写しても、途中で黒板を消されてしまうこともあり、やる気がそがれてしまいます。
発達性読み書き障害の子どもは1クラス40人の学級で3人程度の確率で存在しています。しかし、仮に3人いたとしても症状の出方はそれぞれ違います。たとえば、ひらがな、カタカナはまったく問題なく書ける。漢字が入っている文字も問題なく音読できる。ただ、漢字を書くことだけが難しいという子もいます。逆に、ひらがな、カタカナ、漢字すべてに問題がある子もいます。
千葉リョウコさん(以下千葉):うちの長女は、ひらがなもカタカナも漢字も読み書きは苦手なものの、漢字テストでもそれなりの点数がとれていました。ただ、中学に入り、英語が読めなかったことで、学習障害を疑い検査を受けた結果、発達性読み書き障害だということが判明しました。
宇野:千葉さんの娘さんの場合は比較的短期記憶ができるため、一夜漬けやテスト直前の学習で点数がとれていたのでしょう。ただ、「短期記憶がよければテストもできるし、問題ない」と思うかもしれませんが、範囲の広い中学校以上の定期テストや受験には対応できませんし、なにより文字の習得には長期記憶が大切です。
こうした読み書きに関する困難を抱えているお子さんは、何度練習しても漢字が書けるようにならないことから、「自分は頭が悪い」と思い込んでしまうこともあります。文字の練習をすることも大切ですが、無理してやらせすぎないように気をつけてください。できないところをムリにやらせるよりも、その子の得意なところを見つけてほめてあげてください。
英語だけが読めないことで気づいた娘の学習障害
――さきほど娘さんが英語の単語を読み間違えていたとお話しされていましたが、特定の書体や文字が読めないことはありますか?
千葉:娘のことをおかしいと感じたのは、中学2年生のときに英語の「I am」を「It」と読んでいたこと。それで検査を受けてみたら、当然書けるものと思っていたひらがなやカタガナのいくつかが書けなかったのです。
宇野:書体についていえば読みやすい書体はありますが、それはあくまでも個人の主観によります。1つ言えるのは、英語圏での発達性読み書き障害の出現率は10~15%で、日本の6.9%よりも多いと言えます。その違いの1つとしてひらがなやカタカナは文字から音への変換が単純ですが、英語は複雑です。そのため英語のほうが、症状が重く出ます。
学校での配慮はどこまで求められる?
――読み書きが苦手となると、学校の授業で困ることがたくさんあると思います。
千葉:ノートやプリントなど、手書きする必要のあるものは本人にとってやりづらいと思います。
――こんなときはどうしたらいいですか?
宇野:まずは担任の先生に相談してみましょう。
千葉:文字の読み書きが極端に苦手な場合は、担任の先生に「障害者差別解消法による、合理的配慮をお願いします」と伝えるのもいいと思います。
「障害者差別解消法による合理的配慮」ってなに?
――「障害者差別解消法による合理的配慮」とはどういうものですか?
宇野:障害者差別解消法とは、平成28年4月1日よりスタートした、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」です。障害のある人は、社会の中で生活しづらいことがありますが、この法律では、役所や事業者に対して何らかの対応を必要としているとき、対応することを求められます。たとえば発達性読み書き障害で漢字の読み書きが苦手な子どもがいたら、テストの問題用紙の漢字にふりがなをふったり、漢字テスト以外の問題で漢字ではなくひらがなで回答しても答えがあっていれば点数をつけたりするなど、その子に合ったサポートが受けられる法律です。
入学前に申請を出す親御さんもいらっしゃいますが、私は入学後の5月の連休明けくらいでいいと思います。先ほどもお話ししたように、まずは学校の発達支援の先生や教育委員会などに相談してみてください。
この「合理的配慮」というのは、障害のある子を特別扱いするためのものではありません。文字の読み書きが苦手な子がみんなと同じように学べる環境を整えるための法律です。たとえば、視力が悪い子はメガネをかけたり、席を前にしてもらったりしますよね。それと同じで、漢字が読めない子にはルビをふる。調べ学習で学んだことを板書させるという授業の場合は、文字が書くのが苦手な子はあらかじめ家で模造紙に書いて、学校で発表するなど、配慮があると授業が受けやすくなると思います。
千葉:親と先生だけで勝手に決めるのではなく、子どもと親、先生が一緒に話し合って、その子にとってベストな方法を考えられるといいですね。
作:宇野彰、千葉リョウコ
発行所:ポプラ社
価格:1540円(税込)
取材、文・長瀬由利子 編集・山内ウェンディ