音読でいつも読み間違える。文字を書くスピードが極端に遅い。もしかしてうちの子、発達性読み書き障害かも?
子どもが音読をする際に文字を飛ばして読んでしまう。漢字がスムーズに書けず、漢字練習に約1時間かかる……。日常の中で感じる、読み書きに関する違和感は、もしかして「発達性読み書き障害」の可能性があります。書籍『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』の著者であり、筑波大学元教授、現客員研究員、LD・Dyslexiaセンター理事長の宇野彰先生と、発達性読み書き障害の長男、長女を含む3人のお子さんを育てている漫画家の千葉リョウコさんにお話を伺いました。
発達障害の中で、一番出現頻度が高いにもかかわらず見逃されがち
――学習障害の1つである読み書きが苦手な発達性読み書き障害について教えてもらえますか?
宇野:発達障害というと、ADHDや自閉スペクトラム症が思い浮かぶ方も多いかもしれません。ところが、一番出現頻度が高いと報告されているのが、発達性読み書き障害、発達性ディスレクシアなんです。有名人では、トム・クルーズさんが自身で発達性ディスレクシアだと告白されていましたね。ただ、実はその障害についてはあまりよく知られていません。
理由はいくつかありますが、発達性読み書き障害の専門家が少ないためはっきりとした診断ができない。それからADHDや自閉スペクトラム症に比べて、他人から見て症状がわかりづらいことが挙げられます。
たとえば、ADHDだったら「あの子はいつも落ち着かない」など観察していたらわかることもあります。自閉スペクトラム症だったら、場にそぐわない発言をすることもあります。しかし発達性読み書き障害は、知能が正常であったとしても通常の努力では文字習得が困難な障害です。音声言語は正常であるためコミュニケーションを取ることは問題なく、症状が見えづらいのです。
もう1つ申し上げますと、読み書き障害には先天的なものと、事故などで脳に損傷を受けたことで障害が残る後天的なものがあります。2つを区別するために、先天的なものを発達性読み書き障害と呼びます。
発達性読み書き障害に気づく主なポイント4つ
――我が子が発達性読み書き障害だということに気づくポイントはどこですか?
宇野:発達性ディスレクシア研究会では、ホームページに主な症状について載せています。代表的なものでいえば、次のような読み書きの能力に困難を示すことがあります。
①通常の読み書きの練習をしても音読や書くことが困難。
②音読ができたとしても、読むスピードが遅い。
③漢字や仮名の形を思い出すことが難しいため、文字が書けない。またはよく間違える。
④文字を書くことはできるが、その文字の形を思い出すまでに時間がかかるため、文章を書くのに非常に時間がかかる。
などのことがあげられます。
――この4つすべてが当てはまるというわけではなく、このような症状が出る場合が多いということですか?
千葉:そうですね。第二子である長女の場合は、②と④があてはまりました。教科書には「~です」と書いてあるのに勝手に「~だ」と読んでしまうことがありました。長女は3、4歳の頃から文字を書くのが好きで、よく友達にも手紙を書いていたので、中学に入るまで発達性読み書き障害だとはまったく気がつかなかったのです。
これに対して、第一子の長男は、元々文字には興味がなかったし、小学校1年生の頃から文字を書くのがすごく遅かったです。漢字をノート1ページ書くだけなのに1時間ほどかかっていたんですよ。当初、私はそんなものかなと思っていましたが、あるとき友達と並んで一緒に宿題をするのを見たら、友達はサーと書いていたんです。それを見て「何か違う」と感じました。
宇野:発達性読み書き障害の場合は、文字を繰り返し書いて覚えたり、何回も音読を繰り返すという通常の努力では習得が難しい場合があります。
教え方を変えたら文字の読み書きはできるようになる?
――文字を書く練習をするなど、通常の努力をしても読み書きができるようにはならないとおっしゃいますが、どのように練習していけばいいですか?
千葉:その子に合った方法を見つけて、親が少しずつ導くのがいいかなと思います。
宇野:ある教師から「どうしても字が覚えられない子どもがいる。そういう子はまったく文字を書かせなくていいのか」という質問が寄せられました。でもそれってにんじんがきらいな子がいて、その子はにんじんをまったく食べなくていいと教育しているのかということと同じ。少しずつ食べられるようにしていくじゃないですか。その子ができる範囲のことを書いてもらいましょうと、答えました。
千葉:長男は、がんばってもなかなか漢字が書けなかったんです。でも、練習をしたことで文字を書くのが早くなりました。本当にいやだったらやらないと思いますけど、彼は自分でやると決めてやっていました。そのため、ゆっくりですが書ける漢字も増えてきました。
――具体的な学習方法はありますか?
宇野:どのような学習方法がいいかは、その子によって違います。そのため一概に「これをやったらいい」ということはいえません。まずは、音韻、視覚認知、自動化、語彙の4種類の検査を専門機関で受ける。そのうえで検査を受けた子どもの強みと弱みをみつけて、やっとその子に合ったトレーニング方法がわかります。
千葉:うちの長男の場合は、音声言語の長期的な記憶力が高いということがわかりました。そのため言語で覚えるトレーニングとして、「漢字カード」と呼ばれるものを作って覚えました。これは漢字をパーツにわけて文章にして覚える方法です。たとえば「父」という字だったらカタカナの「ハ」と「メ」に分けられます。覚えるときは「父のハラ(腹)はメタボ」というように、漢字をカタカナにして文章で覚えていました。
ママだけじゃなく、パパや祖父母、学校の先生にも理解を深めてほしい
――ママだけじゃなく、パパや祖父母、学校の先生にも理解を深めてほしいですね。
宇野:発達性読み書き障害と一口でいっても、できることできないこと、苦手なことは、それぞれ違います。当事者が行っている講演会、ブログの情報など、いろんなものがあります。ただそれらは、必ずしもすべての人にあてはまるわけではなく、あくまでも一個人の特徴だと思ってみてください。本来は、発達性読み書き障害について詳しい検査を受けたうえで、その子の特性にあった学習方法がわかるといいのですが、まだ検査機関が少ないのが現状です。『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』の本をキッカケに、発達性読み書き障害への理解が深まり、専門家になりたいという人が増えてくれればと思います。先は長いですが、地道な活動を続けていきます。
千葉:文字が問題なく読み書きできる親や学校の教師は「文字は読むのも書けるのもあたり前」と思うかもしれません。でも、実際は努力しても他の子のようにスラスラと読み書きができる子ばかりではありません。発達性読み書き障害のことをたくさんの人に知ってもらうことで、この障害について考えるキッカケになればと思います。
作:宇野彰、千葉リョウコ
発行所:ポプラ社
価格:1540円(税込)
取材、文・長瀬由利子 編集・山内ウェンディ