体罰がもたらす子どもへの悪影響とは?世界で初めて体罰全面禁止にしたスウェーデンの取り組みを学んで分かること
「親はしつけに際して体罰を加えてはならない」とする法律が、2019年6月19日に成立し、2020年4月から適用されることになりました。前回の記事では、このニュースを受け、ママスタコミュニティに寄せられた子育て中のママ、パパたちの本音をご紹介しました。第2回目の今回は、体罰によって子どもが受ける影響や、体罰全面禁止国であるスウェーデンでの取り組みを参考に、体罰について考えてみたいと思います。
体罰は子どもの脳に悪影響を与えることが科学的に証明されている
体罰がもたらす子どもへの影響は?
厚生労働省から子育て中のママ、パパへ虐待防止のために作成されたリーフレット「子どもを健やかに育むために~愛の鞭(ムチ)ゼロ作戦~」があります。これには、脳画像の研究により、激しい体罰で前頭前野(社会生活に極めて重要な脳部位)が萎縮し、暴言により聴覚野(声や音を知覚する脳部位)が変形していることが報告されています。
体罰を受けた子どもが成長したら……
そして、親からの体罰を受けた子どもは、受けていない子どもに比べて、親子関係の悪化、精神的な問題の発生、反社会的な行動の増加、攻撃性の増加などの「望ましくない影響」が大きいと報告されています。また、特定非営利活動法人子どもすこやかサポートネット愛のムチであっても子どもにとっては恐怖である
体罰や暴言は、しつけにおいて一時的に効果が見られるかもしれません。しかし、それらは子どもの心を恐怖でコントロールしているだけなのかもしれません。厚生労働省のリーフレットによると、親から叩かれるという恐怖が子どもに植え付けられると、叩かれないようにしようと、親の怒りの感情を察知するように顔色を見て行動するようになると指摘しています。
実は、筆者自身は体罰をほとんど受けて育っておらず、親に対して恐怖心は持っていませんが、筆者の身近に、幼少期から悪いことをしたら父親から殴られたという人を知っています。普段は良い父親で、尊敬もしているけれど、父親に対する恐怖心は大人になってからもどこかで残っていて、なかなか父親に反対するような意見は言えない、と話していました。親に対して恐怖心が生まれると、子どもは不安なことや心配事を親に相談できなくなったり、親が怒るかもしれないと思い、親へ意見ができなくなったりする可能性もあるのではないでしょうか。
世界には50カ国以上が子どもへの体罰等を法律で全面禁止している
スウェーデンは、初めて法律で子どもへの体罰を全面的に禁止とした国です。なんと1979年に親が子どもへの暴力や精神的虐待にあたる行為をすることを禁止する法律を成立させています。日本が国会で成立させるよりも40年も前です。その後、ヨーロッパを中心として2000年以降に子どもへの体罰を法的に禁止する国が増え続け、2018年までに54カ国が子どもへの体罰を禁止しています。
法律だけでなく体罰禁止の啓発活動も同時に行うことが重要
スウェーデンの社会全体としての取り組み
スウェーデンは、1979年に法律で子どもへの体罰を禁止としましたが、それだけで終わらず、政府は大々的な広報キャンペーンを行いました。「あなたは子どもを叩かずに育てられますか?」という冊子が子どものいる家庭に配られ、社会全体へ体罰禁止の意識を持たせるために、牛乳パックにも体罰禁止についての情報が掲載されていたとのこと。それらの努力により、体罰全面禁止の法律成立より2年後には、スウェーデンの約90%の家庭で体罰禁止が認知されるようになりました。また、1960年代には90%以上の子どもが、1970年代には約半数の子どもが日常的に叩かれていたものの、法律成立と啓発活動により徐々に減少し、2000年代には数パーセントにまで減少しました。
体罰を法律で禁止にするだけではなく、啓発活動や、虐待が認められる親子のカウンセリングや受け入れ先を社会全体に周知させる必要があるのではないでしょうか。ママスタコミュニティにも、法律で禁止にするだけでは意味がなく、その後の対応が重要ではないかという意見が寄せられました。
『体罰禁止も消費税も、外国はその代わりに何かしらの対策をしているから成功しているのだろうけど、日本は「決まったからよろしく!」って感じで、それだけだから良くならないんじゃないかな。何でもかんでも法律にすればいいものじゃないよね』
『禁止するだけじゃなくて、一部の人しか受けられないペアレントトレーニングとかも、一般的に受けられるようにするとかしないと、バレない虐待が増えるだけじゃないかと思う』
体罰全面禁止後の否定的影響はみられていない
ママスタコミュニティには体罰禁止によって、子どもが甘やかされて育つことを危惧する声が寄せられましたが、実際にスウェーデンでは否定的な影響は出ているのでしょうか。体罰全面禁止にしたからという理由だけではないものの、若者による飲酒率や薬物乱用が減少傾向にあります。また、スウェーデン犯罪防止委員会によると、1990年代半ば以降、暴力犯罪への関与にはあまり変化がないものの、窃盗罪、器物破損罪などの軽犯罪が減少していると報告されています。体罰全面禁止の法律成立により心配されていた「秩序が乱れて子どもが反社会的な行動をするのではないか」という事実はみられていません。
日本社会全体で子育ての意識を変える
日本では公共の場などで、子どもの振る舞いに対して他人からの厳しい目を感じる機会もあるのではないでしょうか。保育園や児童福祉施設の建設にあたり、騒音問題や治安問題で反対されているというニュースを度々耳にすることもそのひとつでしょう。また、公共交通機関でベビーカーを利用して嫌な思いをしたことがあるパパやママもいるかもしれません。子どもの責任は全て親にあり、周囲の大人に迷惑をかけてはならない、そして周囲は他人の子育てに関与しないほうがよい、という風潮が日本では強いのではないでしょうか。
ヨーロッパでは子どもは社会が育てる、という意識が日本より強いと言われています。ママスタコミュニティにこんな意見が寄せられました。
『子育て論がガラッと変わるからこそ、「体罰を用いずに躾を行う方法」の周知や、周りの「子どもへの寛容な心(子どもに何度も言い聞かせている間は迷惑をかけられることを許す気持ち)」が必要になってくる。……今の日本でそれを望めない気がするんだけど。いっそのこと、体罰を行った親への個別セミナー(体罰を行っていなくても希望すれば受けられる)を罰則にしたほうがいい気もするなぁ』
『親が育ってきた昭和の時代は体罰普通にあったじゃん。でも、よくないからなくなったんでしょう。親だから体罰OKっていう風潮も、私たちの子どもが親になる頃にはなくなるんじゃないかな。未来のことだからわかんないけど』
筆者も今まさに子育て中の親です。子どものしつけには日々迷いがあり、悩むことが多くあります。今回、体罰について2記事に渡ってご紹介しましたが、筆者自身もとても考えさせられました。今、日本はようやく動き出したところです。小さな体罰から始まる虐待を阻止するためには、体罰禁止についての法律を成立させることに意味があります。しかし、社会全体が子育ての意識を変えなければ、法律成立による効果が見られないのかもしれません。良い体罰などはないということを、社会全体が理解する必要があるでしょう。体罰禁止の法律成立により、しつけと称する子どもへの虐待事件を耳にすることがなくなりますように。
文・ゆかりんご 編集・横内みか
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