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子どもに理不尽に怒鳴ってしまった日

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今朝、作りかけの朝食にイチャモンをつける3歳の娘を、理不尽な理由で怒ってしまいました。

「ジャコにおかかとお醤油入れないでってゆったじゃーん!」

「おにぎりがいいー!」

「手拭きタオルがなーい!」

お腹がすいたのかまだ眠いのか、私の脚にしがみついてギャン泣きする1歳の息子を一刻も早く鎮めようと、足元にある約10キロの重み(息子)を引きずりながらも北斗百裂拳ばりの手の速さで朝ごはんを支度する私に、矢継ぎ早に準備中の朝食へのクレームを繰り返す3歳の娘。

おそらく娘はジャコに醤油がかかっているとか、おにぎりじゃないとか、そんなことはどうでもよくて、

「はいはい、もうすぐゴハンできるしなぁ。」

「わかった、わかった、もうちょっとしたら抱っこしてあげるし、待っててなぁ。」

などと、母の脚にしがみつきながらも時折声をかけてもらえる弟、彼への対抗心から出たクレームの嵐なのです。

この世の終わりでもないのにこの世の終わりかのごとく泣き叫ぶ1歳児と、高周波で叫び続ける3歳児の合唱は、一分一秒を争う朝の時間との戦いの最中で、急速に私の神経を蝕みます。

わが子が特に手がかかる、というわけでもなく、子を持つ多くのママの日常だと思うのですが……。

そうこうするうちに、腹の虫の飢えがピークを迎えたのか、息子が母の脚にしがみつく力も最大限に達し、一切身動きが取れない状態になりました。

頼む。朝飯を作らせてくれ。3人の幸せのために、ちょっと離れてくれ。頼むから。

私の中のHP(ヒットポイント)ならぬAP(アングリーポイント)がMAXをふりきりました。

あー……キャパオーバーやー……。

頭のてっぺんから湯気が噴き出たかのような感覚の後、一瞬ぴたりと動きを止めた私は、なおも「今日は味噌汁じゃなくて野菜スープがいい」だの何だのとクレームをつける娘に、おにぎりになり損ねたごはんの茶碗を手渡し、足元にしがみつく息子に、一口サイズに切ったジャコ海苔巻きを一切れ手渡し、

「あとは好きにしよし(しなさい)!」

と、子どもたちをほったらかして、ベランダへ逃げ込んだのです。

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冷静になれ、私。

1歳児が、お腹がすいたと脚にしがみつくのであれば、手近にあった食パンをちぎって取り敢えず落ち着かせればよかったではないか。

その後3歳児を膝に座らせて、

「お母さん、頑張って作ったから、ジャコ海苔巻きも食べてほしいなぁ。なんなら、アーンしたろか?」
とかなんとか言って、気持ちを満たしてやればいいではないか。

しばらくして正気を取り戻し台所へ戻ると、3歳の娘が茶碗を抱えたままさめざめと泣きながらこう訴えました。

「おかあしゃん、〇〇(自分)が いっしょうけんめい おはなししているのに むしされたら どうおもう?」

自分のキャパシティーの狭さのせいで、「よくわからないけどお母さんが怒っちゃった」と泣く娘を見て、

ただただ、

「申し訳ございません」 とお客様対応用の最敬礼をした後、娘をしかと抱きしめ、ごはんをアーンしたのでした。

ちなみに息子はさめざめと泣く姉を尻目に、簡易椅子を引きずってその上に立ち、何事もなかったかのように、キッチン台の上にある海苔巻きを片っ端からつまんで口に放り込んでいました。(包丁だけは片付けてからベランダへ出て良かった。強し、下の子。)

上の子が産まれたばかりの新人ママだったあのころ、

「愛情だけは惜しみなくあげよう」

「子どもの気持ちを尊重した、優しいママになろう」

と誓い、日々の子どもの成長に喜び、寄り添い、抱きしめていたはずなのに。気がつけば自分の感情を押し付け、生後3年ちょっとの娘に大人と同じような「自分で考えろ」という考えを要求していたのです。

下の子に至っては、はて、いつ歩き出したのか? あれ、いつの間にやら歯がいっぱい生えてる。母子手帳の自由記入欄がスカスカです。

あのころの初々しい気持ちはどこへ行ってしまったのでしょうか。

ヒトは、「あのころ」には戻れません。

この先また我が家が赤ちゃんを迎えることができても、初めて育児を始めた頃のような身震いするほどの高揚感を味わえることはないかもしれません。

過ぎ去った過去は取り戻せませんし、その時の感情はそのときだからこそ味わったものだと思います。

子どもに無駄に怒ってしまった夜、私は、世のママと同じく、子どもがもっと小さかったころの画像を眺めながら反省します。

初めての育児で、ちょっとしたトラブルで胸が張り裂けそうになったことや、クララ(アルプスの少女ハイジ)が初めて立ったシーン以上に感動した子どもの努力や成長を思い出し、泣きたい気持ちになるのです。

そうそう、初めてはこんなに苦しくて、そして幸福だったなぁ、と。

そして、ビリビリに引きちぎられたふすまやソファの上にうず高く積もった洗濯物を眺めながら、彼らが寝ている寝室に向かって呟きます。

「うちの子になってくれてありがとう。」

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いつになったら普通のふすまで過ごせるだろう、いつになったら洗濯物の山から靴下を探さない生活に戻れるだろう。

それは神のみぞ知る、ただしそんなに先ではない。

……と思いたい。

頑張れ、私。

文・桃山順子 イラスト・さど

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