おっぱいトラブル「このくらい我慢しなきゃ」と思ってる?痛くない乳房ケアについて聞いてみた
「母乳で育てるのかミルクで育てるのか」子どもが誕生したあと、最初にママたちの前に立ちはだかる選択のひとつかもしれません。もちろん、どちらの選択も尊重されるべきものだと思いますが、なかには「本当は母乳で育てたいと思っているのに、うまくいかない」と悩んでいるママもいるのではないでしょうか。
また乳房にトラブルが起きたときの経験がトラウマになり、その後の母乳育児をあきらめた……という声も耳にします。「みんな頑張ってるんだから、これくらい我慢しなければ」子育て中に自分にそんな言葉を掛けたことのあるママたちへ。今回は痛くない乳房ケアについて、NPO法人BSケアの理事長・寺田恵子さんにお話を伺ってきました。
痛くない乳房ケア「BSケア®」
――BSケアとは、どんなものですか?
寺田恵子さん(以下、寺田):ママたちが何らかの乳房のトラブルに見舞われたとき、赤ちゃんに代わって乳房を癒す方法が「BSケア®」です。BSケアでは、赤ちゃんの吸い方にならって「乳首(にゅうしゅ)のみ」にケアをほどこすのが特徴です。乳房のケアと聞くと、「痛い」イメージが先行することもあるかもしれませんが、BSケアは基本的に痛みを伴わないケアなんですよ。
――ママたちは、どんな悩みや不調を抱えて来訪されるのでしょうか?
寺田:「乳房が張って痛い」「母乳が出ていない気がする」など、さまざまです。さらには「相談に行った先の施術を受けて、かえって悪化した」「どこに相談していいかわからなくて……」と言って、BSケアに辿りつくママもたくさんいらっしゃいます。そんなママたちがBSケアを体験されたあとは「何が起こったの!?」とビックリされるんです。ふわっふわになったおっぱいや赤ちゃんが母乳をゴクゴク飲む音を確認できたり。BSケアを通じて、おっぱいの声をママに届けているイメージです。
――乳房のケアで、辛い思いをしたママは多いですよね。
寺田:そうですね。まだまだママたちに我慢を強いる風習や環境は残っているようです。何かにつけて「こうしなさい」「こうするべき」と、自分の考えをママたちに押し付ける方もいらっしゃるようで残念なことです。
――痛くない乳房ケアを開発するに至った経緯は?
寺田:38年ほど前でしょうか。当時は痛いマッサージや乳房管理が主流でした。でも、なかには痛くないケアをされている方もいらっしゃったんです。ただその方法を習得するには、仕事も家庭も後回しにして1年間にわたって学ぶ必要があって……。それでもなんとかならないかと、自分なりに痛くないケアの方法や習得法を追求した結果、BSケアが誕生しました。
お産や子育てにおける「こうしたい」を声にして
――BSケアはどこで受けられますか?
寺田:BSケアを学んだ仲間が全国で活動しています。法人の認定を受けた「BSケアプレゼンター」と呼ばれる助産師は100名ほど(2023年5月時点)。またセミナーでBSケアを学んだ人は1万人を超えています。
また産後お世話になる病院や助産院で「BSケアが受けたいです」と要望してみるのもいいかもしれません。BSケアと指定せずとも「痛くないようにしてください」という要求は、伝えてもいい時代になったと感じます。
ママたちの声があがってはじめて現場は変わっていくもの。ぜひママたちから声をあげていってほしいです。同時に、いつか赤ちゃんが欲しいと願うママや妊娠中のママたちにも、もっとさまざまな視点で自分のお産のことや産後のこと、母乳育児のことを学んでおいてほしいと思っています。
これからママになる人が乳房のケアを学ぶ方がよい理由
――なぜ産後のママだけでなく、これからママになる人たちも学んでおいたほうがいいのでしょうか?
寺田:産後1週間の過ごし方が、その後の子育てにおいて何よりも大切だからです。産後の入院中1週間をどんな風に過ごしたらいいのか、ママたちに知っておいてほしいんです。
でも産後すぐはエネルギーも気力もないから、情報を集めたりどこかに相談したりするのは難しいじゃないですか。だから妊娠中から学んでおいたほうがいいし、「いつか赤ちゃんが欲しい」と願うママには準備をしておいてほしいと思っています。
もちろん医療機関や助産院で、ママたちのニーズに合わせたケアをやってもらえるに越したことはありません。でもそれが叶う環境ばかりじゃないのが現実。だからこそ何かあったときに慌てなくていいように、ママたちが自分自身でやれることがあると、事前にお伝えしておきたいんです。
主役はあくまでもママと赤ちゃん
――乳房のケアだけでなく「心身のケア」に力を注いでいらっしゃるそうですね。
寺田:例えば乳腺炎のケアは、乳房だけ何とかしたらいいというものではありません。乳房のトラブルには、心や生活が全部関連しています。その人がなぜそういう状況になってしまったかという背景に目を向けることが必要ですし、そのうえでのサポートを検討していかないといけないと考えています。
――心のケアが大切な背景には何があるのでしょう?
寺田:せっかく医療機関や助産師さんに相談したのに、自分のやり方を否定されたり、「こうしなさい」「ああしなさい」と強いられて傷付く経験をするママは多いです。また入院中に必要なケアをしてもらえなかったり、退院後は「自分たちだけでなんとかしなくては」というプレッシャーを背負わされることもあるんです。
「主役はあくまでもママと赤ちゃん」。これはBSケアが、いちばん大事にしている考え方です。そのために、できるだけ少ない回数で、ママと赤ちゃんが自分たちでできるようになるような関わりを意識し、実践しています。
――今後の活動の展望を教えてください
寺田:これまで助産師さんをはじめ、いわゆる専門職と言われる方にBSケアを広めてきました。でも先ほどもお伝えしたように主役はママと赤ちゃんであるからこそ、今後は、ママたちにもBSケアを広く知っていただけるといいなと思っています。
編集後記
BSケアを習得した専門職の方からのケアも受けられますが、ママが自分でできることもたくさんあるそうです。ウェブサイトでは、痛くないおっぱいのお手当ができる説明ページやセルフケア動画、オンラインで参加できる「なんでも母乳育児相談」なども紹介されていますので、ぜひ参考にしてください。
子育てをしていると、ときに大きな不安や孤独感に襲われることは少なくありません。そんなとき「あの人に相談しよう」「あそこに言ったら話を聞いてもらえる」そういう場所がひとつでもあれば、その後の子育てが大きく変わっていくのではないでしょうか。また妊娠出産~子育てにおいて、病院や助産師さんの言いなりになるのではなく、ママたちの「こうしたい」が叶えられる世の中になるように。そのためには、ケアを受ける側の私たちも学んでいく必要があるのかもしれません。
取材、文・Natsu 編集・きなこ
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