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<発達障害のお仕事・第4回>将来わが子が働くまでにやっておきたいこと

【記事画像】バルネラブル04
発達障害などで日常的に困りごとを抱えている子どもたち。そのような子どもたちのママにとって、わが子が将来社会に出て働くことに対する不安や疑問なども多いことでしょう。
そこで、困りごとや生きづらさを抱える人たちと企業をつなぐ支援機関「株式会社 vulnerable(以下・バルネラブル)」の代表の山﨑さんと江口さんに、障害者雇用や就労支援などについて伺いました。
第4回は、わが子が働くまでにできる、親のサポートについてです。

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将来の就労に備え、親子でできること

——第3回で、障害者雇用として働く上で大切なことは「挨拶や報連相ができること」「発信力をもつこと」と伺いました。それらはどうやって身につけていくのでしょうか?

山﨑さん:そうですね。挨拶や報連相などは、とくに私たちが言わなくても学校などで普通に教えてもらえることだと思うんです。
しかし発信力をはじめ、自分だけで身につけるのが難しい力もあります。そういう力は積極的に親や学校の先生といった周囲の人たちが教えていきたいですね。

——将来の就労を見据えて早い段階から親子で訓練しておいたほうがいいことなどはありますか?

江口さん:こだわりに対して折り合いをつける経験を、小さい頃から親子で取り組んでおくといいと思います。発達障害などの精神障害がある方は強いこだわりを持っていることがあります。そのこだわりの強さがお仕事をする上で困りごととして出現してしまうことがあるんです。

——たしかに発達障害などをもっているお子さんは、強いこだわりをもっていることが多いですよね。そのこだわりはやはり、就労に何かしらの影響をおよぼすのでしょうか。

江口さん:強すぎるこだわりは、会社側では配慮しにくい場合が多いですね。お仕事というのは、会社から出されたオファーに対して労働力を出すもので、そうすることでお給料がもらえる。だからこそ、ある程度は会社や周囲の人に合わせられるよう、こだわりと折り合いをつけないといけない場面も出てきます。マニュアル通りに業務をやってもらえないとミスのリスクにつながる場合も出てきてしまいます。

強いこだわりとの折り合いの付け方を練習することが重要

——就労支援で、実際にこだわりのせいでトラブルとなった例はありますか?

江口さん:私がサポートしていた方の話です。その方はとにかくピンクが好きで、色にこだわりがある人だったんです。それで「会社の文房具や備品がピンクではないので使いたくない」と……。それで、私のほうから「ピンクのものがないときは今だけ他の色のものを使ってほしい」とお願いしたのですが、やはり「ピンクでなければ使えません」の一点張り。まったく作業をしてくれないことがあったんです。

「会社で用意してあるものを使ってください」というような一方的なお伝えでは、ご本人は納得がいかず、この会社は「イヤ」と嫌悪感を持ってしまいます。そこで一方的にお伝えするのではなく、「なぜご本人はピンクがいいのか」、「なぜピンクでなければ作業ができないのか」、本人の言い分を聞くところからヒアリングをするようにしました。

その方は最終的に「自分で用意したピンクの文房具を使う」というところで解消できました。

——この方はうまく解消できたのですね。しかし人によっては、解消できないこだわりもあるのではないでしょうか?

江口さん:色へのこだわり以外にも、ものの配置や座席の位置など、みなさんさまざまなこだわりをお持ちです。先ほどの方のように自分で用意することで困りごとが解消できればいいのですが、解消できないこともやはりたくさんありますね。
ですから、こだわりが通らないときや自分の思い通りにならない状況に立たされたとき、どのようにして自分の気持ちと折り合いをつけるかは、お子さんが小さいうちから取り組んでいたほうがいいと思いますね。

——一般的な子育てにも通じそうな考え方ですね。

江口さん:子育てをしていると、お子さんが「これはイヤだ!」となることがありますよね。そのようなときは、なぜイヤなのかをまず聞いて、気持ちを受け止めてあげる。そうすることで落ち着く場合があるんですよね。

仕事で困っている場合でもまずは「聞く」、そして「なるほどね」と受け止める。その上で、「じゃあこういうやり方はどう?」と提案し本人と一緒に決めていく。誰かに押し付けられるのではなく、「自分で決めた」という結果にすることが重要です。このようにしながら、親子で日々こだわりとの折り合いの付け方を学んでいけるといいのではと私は考えています。

家庭でできるこだわりと折り合いをつけるトレーニング方法

——こだわりと折り合いをつけるためにどのような訓練をすればいいのでしょう。小中学生からでもやれることはありますか?

江口さん:そうですね、「洋服のたたみ方」で例えて話しますと……。
みなさん洗濯物はおよそ決まったたたみ方をすると思うのですが、こだわりがあるお子さんの場合、すべていつも通りに同じたたみ方でないと落ち着かないということがあると思います。そうした場合、ときどきわざと違ったたたみ方のものを混ぜてみたりします。あえてこだわりから外れてしまうようなトラブルやハプニングを発生させるのです。そのような突発的な状況で、子どもの気持ちがどのポイントで崩れるのか、取り乱したらどうなるのかなどを知っておくことも大切です。
どのような状況になると気持ちが崩れてしまうのかを知っておけば、対策も立てられます。
——どこで気持ちが崩れるか知っておくのは、こだわり以外の特性の話にも通じそうですね。

江口さん:音に敏感な方は雑音がダメというように、自分の苦手を知っておくことも大切ですね。
音に敏感になってしまうけれど、ヘッドフォン(イヤーマフ)をつけることで大丈夫だとわかった。折り合いの付け方とは、こういうことの積み重ねだと思うんです。ですから、働く年齢になる前から、ご本人の特徴などを親子で確認する・知るための作業をやっていけるといいですね。

——こだわりたい自分の気持ちと、思い通りにならない現実に向き合うこと。大人でも大変ですが、子どもにとっては相当大変なことですよね。

江口さん:親御さんもご本人も相当苦労されることと思います。大変な作業ですが、それでも長い目で根気よく、諦めないことが大切なのかもしれません。
抱えている問題を乗り越えるためには、いろいろな方法を繰り返し試していくしかないと私は思います。何年もかかるかもしれないし、どうしても乗り越えられない場合もあるかもしれません。それでも気長に諦めないことが親にとっても子どもにとっても必要なことです。

(編集後記)
得意・不得意、譲れないことやこだわり、問題が起こるタイミングや起こった場合どうなってしまうのか。これらのことを日常生活のなかで確認したり知ったりすることは、非常に大切なことだとわかりました。
一朝一夕ですべてを理解することは難しいので、早くから確認する作業を継続していれば、困りごとや問題に対し適切な対応や対処ができますし、周囲からのサポートもしてあげやすくなりそうですね。

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取材、文・櫻宮ヨウ 編集・しらたまよ イラスト・Ponko

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