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海外発、明石市独自子育て支援策。海外の普通をどんどん取り入れていく【明石市 泉房穂市長・第2回】

明石市市長②
前回からの続き。「海外では子どものためにさまざまな政策が実行されている。いいものはすぐに導入し、明石をグローバルスタンダードにしたい」と語るのは、兵庫県・明石市長の泉房穂さん。子どもの養育費立替支援事業、生理用品の無償設置、中学校給食無償化、0歳児おむつ定期便など、国内をはじめ世界各国の政策から取り入れた政策を明石市で実施しています。具体的な支援内容について伺いました。
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各国の優れた支援を明石バージョンにアップ!

――明石市では、世界各国の政策のよいところをすぐに取り入れているそうですね。

泉房穂市長(以下、泉市長):いいものは即取り入れます! しかし単なるマネではなく、明石バージョンとして、より市民が使いやすい形にバージョンアップさせているのが特徴です。政策に関しては、私が考えているわけではなく、市民から「こういった制度がほしい」という要望が上がってきて、それを実行するか、もしくは他県、他国ですでにやっている支援策を明石市に合ったスタイルで導入しています。

――具体的には、どのような政策を取り入れたのでしょうか?

泉市長:明石市では、2020年10月から子どもが1歳になるまでおむつの無料宅配をする「0歳児の見守り訪問 おむつ定期便」(※1)を実施しています。対象は明石市在住の生後3か月から満1歳の誕生日までの赤ちゃん。毎月1回、紙おむつや粉ミルクなどの子育て用品(約3,000円相当の品)を宅配しています。赤ちゃんが問題なく成長しているか、保護者の体調は大丈夫か、育児で困ったことはないかなど、紙おむつを渡す際に見守り支援員が確認するんです。

――紙おむつを渡すだけじゃなく、地域全体で赤ちゃんと保護者を見守ろうということなのですね。

泉市長:これは滋賀県東近江市がやっていた「見守りおむつ宅配便」(※2)というものを参考にしました。東近江市では、おむつなどを宅配する宅配員による声かけや必要なサービスへつなぐ橋渡しを「見守り」として実施しています。明石市ではおむつの宅配に加え、子育て経験のある人が子育て中のパパやママに直接会って困っていることはないかなどを聞くようにしています。いい政策をマネするだけじゃなく、明石市なりに考えてバージョンアップさせているところがポイントです。

(※2)東近江市「見守りおむつ宅配便(乳児おむつ等支給事業)」

中学校の給食無料化、生理用品の無償配布とは

――ほかにどんな政策を取り入れたのでしょうか?

泉市長:現在明石市では、中学校の給食無料化を実施しています。これは韓国ソウルの政策を真似して取り入れました。ソウル市では、2021年から市内すべての小中高校で学校給食を無料化しています。

また「貧困家庭では生理用品を買うことすら難しい」という問題に向き合うため、2021年4月から「生理用品サポート事業 きんもくせいプロジェクト」(※3)を実施。市内の全小中高校、養護学校の女性用トイレ、公共のトイレに生理用品を設置しています。これは「生理の貧困」にかかわる問題全般を解消するための取り組みです。韓国のソウルやニュージーランドなど、世界10か国で実施しているプロジェクトを参考にしました。

――「子どもの養育費立替支援事業」とはどのようなものですか?

泉市長:夫婦が離婚して、片方の親に養育費の支払い義務が発生しているのにもかかわらず、振り込みをしない人が一定数いるんです。親同士の話し合いで解決することは少ないので、明石市では養育費が支払われないときに、養育費を支払うべき義務者に対して、市が働きかけをします。それでも支払いがない場合は、養育費を受け取るべき人に対して市が立替払い(最大3か月分、上限月額5万円)をし、義務者に対して督促をします。これはフランス、スウェーデン、韓国などの政策を参考にしました。

明石市は「ヨーロッパでの当たり前」を実施しているに過ぎない

――つまり、養育費を払わない相手の代わりに、市が養育費を立て替えてくれる。さらに支払義務のある人に対して、督促もしてくれるというわけですね。

泉市長:政策を取り入れる際に大事なことは、市民の声を聴くことです。日本だけですよ。こんなに子育てにお金をかけていないのは。多くの人はその事実を知らないでしょ。だから日本は経済成長しないし、少子化なんです。簡単な話です。ほかの国は子育て支援や教育にきちんと予算をとってお金をかけています。

だから私は、せめて明石市だけでも、世界における一般的な水準にしたかったのです。今の明石市の支援策は、ヨーロッパの国々では特別なことでもなんでもなく、ごくごく一般的に行われていることです。明石市がすごいのではなく、他の自治体がやっていないだけのこと。ぜひお住いの自治体に、どのようなことで困っているのか、どんな政策を実施してほしいのか、直接伝えてください。市民が声をあげることで政策は変わってきます。声をあげなければなにも変わりません。

【明石市 泉房穂市長・第3回】へ続く。
取材、文・長瀬由利子 編集・荻野実紀子 イラスト・おんたま

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