【堀江貴文さん×ママ・第3回】「ITスキルを身につけたいと考える人に付加価値を感じない」
前回からの続き。就職や転職を考える際、「ITスキルを身につけたら、もっといい仕事に就けるかも」と考えることがあるのではないでしょうか。専業主婦歴が長かったりすると「自分にはITのスキルがないから、いい仕事に就けないかも」と不安になることもありそうです。それに対して「ITに頼るよりも柔軟な発想を持つことのほうが大事」と語るのは、起業家の堀江貴文さん。全国展開するパンチェーン店「小麦の奴隷」の実例をもとに、発想を豊かに、シンプルに考えることの重要性について話を伺いました。
ITに頼るよりも自由な発想こそが大事
――今までパソコンなどを触ったことがないけれど、就職や転職に際し、ITスキルを身につけたいと考えるママが増えています。どんなスキルを身につけたらいいと思いますか?
堀江貴文さん(以下、堀江さん):スキルを身につけることに、僕はあまり付加価値を感じないんですよね。個人的には、スキルを身につけることに対して、何かいいことがあるとはあんまり思わないで生きてきたので。「ITのスキルを身につければなんとかなるんじゃないか」と思うかもしれないけど、本当は発想を豊かにすることのほうが大事です。
――たとえばどんなふうに?
堀江さん:僕は「小麦の奴隷」という、全国に30店舗を展開するパン屋のチェーンをやっています。そのお店は元々3プライス制といってパンの値段を3つしか設定してないんですよ。最近は4プライスに変えましたけどね。レギュラーで売られているパンは30種類ほどあるけど、値段は4つのみ。これは普通のパン屋ではないですよ。普通は、原価から考えてそれぞれパンの値段を決めるわけだから。
パン屋さんのレジ混雑の原因は……?
堀江さん:パンを販売するうえで、一番面倒くさいのは、30種類のパンの値段を覚えなきゃいけないところなんですよね。パン1つずつにバーコードが貼ってあるわけではないから、レジで値段を1個ずつ打ち込みます。でも、それをやっていたら、人がいつもよりちょっと多く入っただけでレジが混んで大行列ができてしまう。そこに新人さんのバイトとか入ると、もう悲惨なことになりますよね。
その解決策として、AIを導入して画像認識でやるという案があるんですが、僕からしたらそこに手間やお金をかける必要ってないと思うんです。
――今は何でもITで解決しようという流れがあるけれど、そうではなく、もっとシンプルに考えることが必要なんですね。
堀江さん:「小麦の奴隷」は、パンの種類が常時30種類以上あったとしても、値段は全部で4種類なんです。しかも、値段によってパンを包むフィルムの色を変えているから、見ただけですぐにわかるんですよ。たとえば白いフィルムで包んだパンなら1個200円です。そのパンを5つ 買ったら1,000円ですよね。暗算でできるレベルです。だからレジ打ちの作業がものすごく速いんです。これはレジ処理が遅くて行列ができてしまい、結果的に買おうとしていたお客さんが帰ってしまうという、機会損失をしないための工夫です。
ITは困りごとの解決や作業を効率化するためではない?
――ITは生活や物事を効率化したり解決したりするためのものだと思っていました。
堀江さん:最近もニュースになった園バス子ども置き去りに対する対策で、「バスの中にセンサーをつけて子どもが残っていないかを確認するための装置を入れたら、政府が9割補助する」みたいな話になってましたよね。まさにこれはITの間違った使い方だと思います。
僕の知り合いが一銭もかけず、今すぐできるアイデアをSNSに投稿していました。バス車内を土足厳禁にするんです。どういうことかというと、幼稚園児がバスに乗ります。乗るときに靴を脱いで入ったらバスを降りるときも必ず履きますよね。
靴が残ってなければバスの中には誰もいないし、靴があったら誰かいるってことですよね。靴が残っていたら「誰が降りてないんだろう」と探すでしょ。一銭もかからないし、今すぐできるじゃないですか。これはあくまでも一例ですが、ITに頼らなくてもできることっていっぱいあるんですよ。
最近、何でもITに頼ろうとして、「考える脳」を持ってる人がすごく少なくなっていますよね。何をITに頼るか頼らないかではないんです。常に柔軟な発想を持てるかどうかが大切です。物事はできるだけシンプルに考える。そしたらおのずと「考える脳」は育ちます。
編集後記
堀江さん曰く「考える力」は誰にでも必ず備わっているけれど、使わないと、どんどん劣化していくのだそう。物事をシンプルにとらえ、今すぐ改善できることはないかと考えることが、「考える脳」を退化させない秘訣のようです。そのためには、何でもITありきで考えてしまう今の風潮に、飲み込まれすぎないことも必要かもしれません。ママの就職や転職も、ITという括りをいったん外して眺めてみると、また違った選択肢が見えてきそうです。
【堀江貴文さん×ママ・第4回】へ続く。
取材・北川麻耶 文・長瀬由利子 編集・Natsu イラスト・よし田